十七話 王都襲来
ばららららら。
高速旋回するプロペラ。
風が巻き起こり砂埃を舞い上げていた。
「なんだこれ! なんだこれ!」
「いいから乗れって!」
オスプレイに怯えるルルーナの手を引いて強引に搭乗させる。
後から付いてきていたルルフェは、カロリー〇イトを囓りながら特にリアクションもなく普通に乗り込んだ。
俺は二人を座席に座らせシートベルトを装着させる。
「これは絶対に外すなよ」
「は、外したらどうなる?」
「死ぬ」
「ひぃ! アタシ、絶対に外さないから!」
ちょろいな。バカで助かる。
「これからご飯が出てくるんやろ」
「出てこねぇよ!」
幼女の発言に驚く。
コイツ飯が出てくると思って大人しかったのか。
むしろどこをどうつなげたら、そう言う結論になるのか不思議でたまらない。
「三人とも乗ったわね。山崎課長お願いします」
乗り込んだ広瀬さんはトランシーバーで、特別警備課の山崎課長に発進許可を求めた。
入り口が閉じられ機体が上昇、ケツが浮き上がる感じはまだ慣れないな。
「本機はこれよりアイビッシュ国王都へと向かいます。一班は先行して状況を確認、後から来る二班と三班が随時対応します」
「物資の準備は?」
「現在準備中よ。被害状況に応じて四班が輸送を行います」
しかしまさか本当に特別警備課が力を貸してくれるとは。
内心では断られることも考えていた。
課長の山崎さんも少し渋っていたしな。
ただ、このチャンスはそれだけデカいってことでもある。
危機を救ったともなれば好印象のはずだ。
その上で国王との交渉に臨むことができれば上出来。
八割方譲歩させることができれば最高だ。
「と、とんでるぅ!? ノリタカ、とんでる!」
「うるさいな。オスプレイなんだからそりゃあ飛ぶだろ」
「怖い! 落ちたら死ぬ!」
「縁起でもねぇこと言うな! 落ちねぇから!」
ガクブルと震えるルルーナは俺の腕を掴む。
一方のルルフェは淡々とカロリー〇イトを食べ進めていた。
「これ、どうやって飛んどんや」
「うーん、一言で説明するのは難しいわね。具体的には風の力かしら」
「金属……これを造る為に資源が欲しいやな」
なん、だと……ルルフェが俺達の目的を理解しただと?
正解ではないがかなり近い答えをコイツは引き当てやがった。
意外に頭が良いのか。
「ウチの国なら資源が豊富で金になるで」
「どこのことを言ってんだよ」
「魔国じゃ。ここからかなり遠いけどコレがあればひとっ飛びやろ」
俺と広瀬さんは見合わせて肩をすくめる。
子供の言うことをいちいち真に受けてられないからな。
ルルフェには適当に返事をしておいた。
『広瀬課長、王都が未知の巨大生命体に襲撃されております!』
スピーカーから操縦士の報告が入る。
だが、窓から覗いてもまだ俺達には見えない。
「旋回して見せて」
『了解』
機体が予定進路を逸れて王都が見えるように移動する。
外壁に囲まれた巨大な町。
中心には王城がそびえ立っているのが見える。
そんな町の中を悠然と歩く、大きな紅い生き物の姿が目に飛び込んだ。
なんだあれは。もしかしてドラゴンなのか。
全長はおよそ数百メートル。体高は三十メートルを超える。
深紅の鱗に覆われ両側頭部には見事な角があった。
その凶悪な威圧感は離れた位置でも感じることができる。
圧倒的破壊者。その一言が最もふさわしい。
「あ、あれは炎魔竜エグジオス!!」
窓から眺めるルルーナが叫んだ。
ルルフェは一瞥するなり「もんげぇ、でっかいな!」と珍しく驚いた様子だった。
いや、ほんとバカみたいにデカい。同意する。
「則孝君、すぐに降下の準備をして!」
「分かりました」
すでに後方の二班と三班には連絡が行っているはずだ。
数十分後に攻撃が始まるのは確実、だがその前に住民の避難誘導が必要だ。
「行くぞルルーナ」
「やめて、外さないで! 死んじゃう!」
「うるせぇ! シートベルト外したくらいで死なねぇよ!」
「え」
シートベルトを外して強引に王女を立たせる。
それからルルーナと俺の身体をベルトで固定、パラシュートを装着する。
一応事前に使い方は聞いたが、まだ不安は拭えない。
「俺とルルーナは王都に行く。お前はここで待機していろ」
「置いて行くんか」
「幼児サイズのパラシュートがないんだよ」
「?」
あーもう、理解できねぇなら大人しくここでいろ。
扉が開かれたので俺は覚悟を決めて空に飛び出した。
「ああああああああああああああっ!!」
「うわぁああああああああああ…………楽しぃいいいいいい!!」
ぼおおおおおおおおっと耳元を通り過ぎて行く風。
眼下には王都とドラゴンが見える。
降下ポイントは確か町から少し離れた東側だったよな。
俺の腕前ではいきなり町に着地するのはほぼ不可能。
よって安全な草原が選択されていた。
ぼっすん。
紐を引っ張ってパラシュートが開く。
一気に制動がかかりベルトが身体に食い込む。
しゅんっ。
近くで何かが通り過ぎた。
猛スピードだったのでよく見えなかったが、あのシルエットはルルフェだったようにも思える。
はは、まさかな。
強い風が吹いてパラシュートが町の方へと流される。
ヤバっ、予定と違う場所に着地しそうだ。
俺達は流された末に、ちょうど町の広場のような場所でゆっくりと降下した。
「ふぅ、予定は狂ったが悪くない場所に降りられたな」
目と鼻の先にお城が見える。
周囲では悲鳴をあげて逃げ惑う人々の姿があった。
「くそぉ! よくも我が王都を! 許すまじエグジオス!!」
ルルーナが突貫しそうな雰囲気だったので羽交い締めにする。
「な、なにをする! なぜ止めるのだ!」
「お前はまず城にいる人間を避難させろ。このままだとあの炎魔竜ってのに親父さんが殺されるぞ」
「それもそうだな! さすがは賢者だ!」
「当たり前のことを褒められても嬉しくねぇよ。ほら、行け」
ルルーナは笑顔で手を振りながらお城へと走り去っていった。
さーて、俺は住民の避難をっと――なんだこのサクサク音?
足下を見るとカロリー〇イトを囓るルルフェがいた。
「うわっ!? なんでここにいんだよ!?」
「飛び降りたんじゃ」
「だ、大丈夫なのか? 怪我は?」
「ないで」
あの高さからパラシュートなしで着地したと?
どんだけ防御力高いんだよ。
逆にコイツの守りの堅さがどれほどなのか思い知った気分だ。
「とりあえず俺とお前で住人を避難させるぞ」
「?」
「いいから付いてこい!」
首をかしげる幼女を連れてドラゴンのいる方角へと走る。
次第に建物と建物の隙間からから紅い鱗の怪物が見え始めた。
「おかーさんみてみて! おっきなドラゴン!」
「いいから早く降りてきなさい! 早く逃げるわよ!」
「えー」
屋根の上で女の子がドラゴンを眺めている。
俺は跳躍、女の子を抱えて地上に降りた。
「早く逃げてください」
「ありがとうございますっ」
母親は子供を抱えて逃げる。
それから俺は逃げ遅れた人を見つけては町の反対側へと誘導した。
「あいつを追い払わんときりがないで」
「……だよな」
腕時計を確認すると、まだ攻撃開始まであと五分ほどあった。
だがドラゴンは確実に歩みを進め王城へと向かっている。
やるしかないか。
「俺達で足止めするぞ」
「しゃーないな」
『ぼっけぇ』『でぇれぇ』『もんげぇ』はものすごいって意味です。




