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サラリーマン賢者の異世界業務日誌~ダラダラしながら高給をもらえるように一生懸命頑張ります~  作者: 徳川レモン
一章 平社員編

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十五話 我が儘王子と嘘つきサラリーマン

 本部へと舞い戻った俺は、若い男性と言い合いをする広瀬さんを見つけた。


「ですからこの奥はお見せできません!」

「ボクは王子だぞ! 命令に従え!」

「王子であろうと姫であろうとお見せできない物はできません! まずは交渉を重ねた上で相互でどこまで許容するかのすりあわせを――」

「理解のできない難しいことを言うな! 今すぐそこをどかないと反逆罪で切り捨てるぞ!」


 物々しい雰囲気。明らかに由々しき事態だ。

 王子と称する青年に対する広瀬さんの背後には、アサルトライフルを持った特別警備課の屈強な男達が構えている。

 さらにその背後にはATGのある倉庫の入り口があった。


 だいたいの状況は把握できた。


 あいつが倉庫に無理矢理押し入ろうとするので、広瀬さんもやむを得なく警戒態勢を敷いているのだ。

 だが、ここで王子を負傷させればそれはそれで大問題。

 だからできる限り穏便にできるよう俺へ協力を煽ったのだろう。


「どうもぉ、お初にお目にかかります殿下。私はここで勤めさせていただいております佐藤則孝と申します。本日はいかがなされたのでしょうか」

「む、貴様は何者だ」

「桂木マテリアル特別調査開発部に所属しております佐藤則孝です」

「それは先ほど聞いた。だから何者なのだ」


 ヤバっ、こいつ話が通じてない。

 たまに日本でもいる意思疎通が怪しい輩か。


 だったらこっちも対応を変えてやる。


「桂木マテリアルで大臣を担当させていただいております佐藤則孝です。これなら分かりやすいですよね?」

「大臣!? こ、ここは他国だったのか!??」


 ショックを受ける王子。

 その間に俺は相手を観察する。


 女性っぽいショートヘアーの金髪に可愛らしくも中性的な整った容姿。

 その身体には黄鉄で作られた鎧が着られていた。

 身長は俺よりも少し低いくらいで、見事な装飾が施された剣を腰に帯びている。

 恐らくアイビッシュ国の王子というのは本当なのだろう。


「そうなんですよぉ、彼はこの国の大臣でして! どうぞどうぞ、まずは彼としっかりお話をしてください!」


 話に乗っかった広瀬さんが俺と王子の背中を押す。

 この方向はプレバブ小屋の方か。

 俺は振り返って彼女にそれとなく声をかける。


「部長は?」

「向こうで出張中。なんでこのタイミングでこんなのが来ちゃうかなぁ」

「あの、この人なんでここにいるんすか」

「どっかでヘリを見た人が教えちゃったらしいのよ。ここを見慣れない乗り物で出入りしている連中がいるって。で、それはならんって王子がやってきたって感じ」


 納得。人の口に戸は立てられないって言うし。

 いずれどこかで情報が漏れるとは俺も思っていたが、予想よりもかなり早かったな。

 救いなのはここに来たのが王子一人ってことだ。

 てか、普通王子なら従者くらい付けるよな。なんでこいつ一人なんだ。


 あ、分かった。バカだから一人でお城を飛び出したのか。

 きっとそうだ間違いない。話も通じないしさ。


「先ほどからこそこそとなんだ!? それとボクをどこへ連れて行くつもりだ!」

「ちゃんとお話しができるところです。ほら、もう見えてきましたよ」


 広瀬さんは俺達をぐいぐい押して小屋の前に。

 俺はルルフェのことを思い出して急いで振り返った。


「……なんでそんなにカロリー〇イトを持ってんだ??」

「お嬢ちゃんにやるって、次々におっさん達が持ってくるんじゃ。あいつらええやつやな」


 ああ、そういやここは子持ちが多かったな。

 子供にオヤツを与える感覚でコイツに食料を渡しているのだろう。

 殺伐とした基地だと大した癒やしもないしな。


「則孝君も入って」

「あ、すいません」


 呼ばれてプレハブへと入る。

 すでにパイプ椅子には王子が座っていた。


「なんと狭く暑く簡素な建物だ。こんな場所で話とは無礼だぞ」

「すいませんねぇ。すぐにお茶をお出ししますので、大臣とお話ししててください」


 そそくさとポットの前に移動した彼女は、笑顔を貼り付けたまま『早く相手しろ』と向こうの見えない位置で指を示す。


 なんで俺が……って今さら言っても仕方ないか。

 大臣って言っちゃたし俺にも責任はあるよな。


「さて、殿下は我が国に何かご用ですか」

「それだ! なぜアイビッシュにかつら……なんとかマテリアル国の領土があるのだ!」

「ご存じない? 昔からここは桂木マテリアルの国土でしたけど?」

「馬鹿なっ!? そんな話は聞いたこともないぞ!」


 しれっと嘘をつく。どうせ確かめようがないんだ。

 ここが見晴らしの良い草原だったのなら誤魔化すのも難しいが、深い森の中ともなれば、どうにでも言い逃れできる。

 実効支配が及んでいない以上、ここは理屈で言えば誰の物でもない。


「まさか貴様達は、我が国に戦争を仕掛けて乗っ取ろうとしているのか!?」

「そういうのは興味ないですね。ウチはどっちかと言えば対等に商売したい国柄ですから。でもここを奪おうって言うのならこちらも黙ってはいませんよ」

「くっ……その余裕、一体どれほどの戦力を隠し持っているんだ!」


 悔しそうに歯がみする。

 マジでこの王子バカだな。勝手に想像を膨らませて恐怖してやがる。

 でも実際、ここはかなり強力な兵器を備えた基地だ。

 チラリと見たが戦車やミサイルも置いてあるのを確認しているんだ。


「ノリタカが一番強いで」

「!?」


 ルルフェのつぶやきに王子はハッとする。

 え、なに。なんなのその顔。

 なんで俺をそんな顔で見るの。


「その杖、そのただならぬいでたち。まさか貴様この国の賢者か」

「え」

「やはり図星だったか!」


 ひゃひゃひゃ、っと指さしてしてやったりとばかりに笑う。

 なんなんだコイツ。だんだんとムカついてきた。


 コトン、コーヒーが置かれる。

 にこっと広瀬さんが微笑みを浮かべるのでキュンとなった。


「熱い! 苦い! なんだこの飲み物!!」

「コーヒーと言うんです。慣れると美味しいですよ」

「ふん、こんな不味い物をこの国では飲んでいるのだな。可哀想な奴らめ」


 王子は一口だけ飲んだコーヒーをテーブルに置いて、勢いよく立ち上がる。


「こうしてはいられない。ただちに王都へと帰還し父上に報告せねば。だが、その為にはまず――」


 不味い。父上ってことは王様だろ。まだ説得もまともにできてないのに、こんなところで帰られたら大問題になる。

 我が社の目的は穏便に取引を行うこと。

 資源を武力で奪い取りたいわけではない。


 俺は彼を引き留める為に、立ち上がって行く手を遮る。

 

「どけっ!」


 王子は強引に俺と広瀬さんを押し退けプレハブから出て行く。

 行く先はやはりATGのある倉庫だ。

 あそこになにか大きな秘密があるのだと嗅ぎ取っているらしい。


「待って! お願い! 私達は貴方方と平和に商売をしたいだけなの! だから力尽くで何かをするのはやめて!」

「五月蠅いっ! たかが使用人の分際で!」


 王子が広瀬さんの髪を掴んだ。

 それで俺は頭がかぁぁとなった。


「てめっ!!」


 王子の肩を掴んで振り向かせると、思いっきりその顔面をぶん殴った。


 ズガァァァアアアアンン。


 轟音が響き渡り、王子はフェンスを突き破って木々にぶち当たりながら、少し離れた場所にある岩に激突する。


「あ…………やっちまった」


 無意識に身体向上の魔法を使ったようだ。


 それでもレベル一でここまで威力があるなんて思ってもいなかった。

 どうもあの熱が出たことで、またもや身体が大きく変化してしまったらしい。

 プレハブから出てきたルルフェが破れたフェンスを眺める。


「ウチは言うたで。ノリタカはここで一番強いって」

「魔法じゃなく、物理的にか!?」

「そうやで」


 先にそれを言ってくれよ。

 あいつ殺したかもしれねぇだろ。


「うっ……よくも……」


 よろよろと戻ってくる王子の姿。

 俺は安堵の息を吐いた。


 ガシャン。


 王子の鎧が剥がれ落ちた。

 下から現われたのは服を押し上げるふくよかな胸。


 まさか……お姫様?


「許さん。ボクを殴ったお前を」

「あの、なんかすいません」


「お前なんか――大好きだ!!」


 がばっと抱きつかれる。


 え? ええ?


 えええええええええええええっ!??



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