4話:チシャーネコの導き(後)ですにゃん
誤字・脱字などありましたらご指摘、ご報告お願いします。
ハムを追いかけて……じゃなくて、チシャーネコを追いかけて、
私はどんどん薄暗い森の奥へと走っていく。
途中でチシャーネコを見失い、看板も途切れてしまったので、迷子状態ですにゃ。
でも、まだ大丈夫! ハムの匂いが残ってるにゃ!
だからこっちであってる、と思うにゃ!!
茂みをかき分けて、木々の間を縫うように進んでいると、
急に目の前の景色がぐにゃりと歪んだにゃ。
歪みが収まると、なんと薄暗い森から一転して広大な野原が目の前に広がっていた。
うー、ずっと暗がりにいたから、急に明るい場所に出ると目がくらくらするにゃー。
「ぐるぐるする~」
我慢できずに、背後にある森へと下がったにゃ。
しょうがないので日陰で目をならしてから進もう、そう思ったのですにゃね。
だけど、後ろに下がった途端にまた視界がぐにゃりと歪んでいって、
なんと元の薄暗い森へと戻っていたのにゃ!
「ふにゃ!? 怪現象だにゃ」
一体どうしろっていうんですにゃ……。
訳の分からない現象に、私はがっくりとうなだれる。
いっそ野原に出て、目が光になれるまでつぶっていようかにゃ……。
『うっしっし~。迷子の迷子のペロペロちゃん♪
アナタはどちらに行きたいの~?』
さっきまで行方不明だった(今も姿は見えないですけど)
チシャーネコの愉快そうな笑い声が森に響く。
「どちらに行きたいの?」って、聞かれても知らないですにゃよ!
チシャーネコが行先を知ってるんじゃないのですにゃ?
「会場はコチラ」って言ったからには、ちゃんと案内してほしいですにゃん。
「どこに行けばいいのですにゃ?」
『どこかなぁ~? うしし』
むむ、チシャーネコお決まりのはぐらかしモードにゃ。
「こっちが聞いてるんですにゃ! しゃー!!」
『ペロペロちゃん自身はどこに行きたいのさ?』
……分かってましたけど、素直に答える気はなさそうですにゃね。
「……どこかには辿り着きたいにゃ。
このまま、暗い森と明るい野原を行ったり来たりじゃ、
どうしようもないですみぃ」
『どこかに? うしし、そうだね……』
チシャーネコは思案するように一呼吸おくと、
『明るい野原か、薄暗い森か……どっちに行くんだい? うしし』
「どっちでもいいけど」
『じゃあ、このまんまでもいいんじゃないの? うしし。
どっちでもいいんでしょ? 野原に行っても、森に戻っても、どっちでもさ』
「だから、行ったり来たりは嫌なのにゃー」
『うしし、じゃあどっちでも良くないんじゃないか』
チシャーネコの言葉に私はむっとして口を噤む。
謎かけのような言葉とドードー巡りな会話だけど、これもイベントの一部にゃ?
だとすれば、先に進むための「キーワードとなる言葉」があるはずですにゃ。
……そういえば、こんなまどろっこしいやり取りが。
アリスのお話にもあった気がするにゃ。
その時、アリスはどう対応してたっけ? もしかしてそれがヒントになるかも。
…。
……。
…………。
わっかんないですにゃーーっ!!
そもそも、アリスのお話を知らない人だったら、ノーヒントだにゃ!
よし、チシャーネコを頼るのは止めにゃ。
野原に出て、目が光になれるまで我慢する! これで行くにゃ。
野原に進むにゃ! と意を決して、私は前へ進んだ。
草をかき分け、木々の間を潜り抜けながら私は前へと突き進むにゃ。
すると、またチシャーネコの声が響いたにゃ。
『キミキミはどちらかを選択したね~。うしししー、それでせーかーい』
え? 良く分からないですけど、イベントが進行したにゃ?
それに、さっきは一瞬で森から野原に変化したのに、
今はこうして歩いていても、ずっと森が続いていますにゃん。
仕掛けが解除されたってことで良いんですかにゃ?
『仕掛けも何もここはそういう森なんだよ。うしし』
「よくわかんないですにゃ」
『うししし。覚えておきなよ、後できっと役に立つからさ。
この【ジュイ・シーの森】はね』
うにゃ? マスターと来た時と名前が違うにゃね。
ここって『リ・アルビトリゥムの森』じゃないのにゃ?
『そうとも言うんじゃない? 少なくともその時は。 うししししっ!』
ますます、訳が分からない森ですにゃね。
こんな得体のしれない森なんて、二度と来たくないですにゃん。
……それより、この森どこまで行くんですにゃ。
もう30分は歩きっぱなしな気がするんですけど……。
そろそろ、さっきの野原が見えてもいい気がするにゃ。
「……あっ」
歩くのに疲れてクタクタになった時、私は前の方がうっすらと明るくなって
いるのに気が付いたにゃ。
きっともうすぐ森の出口に辿り着くのですにゃ。
もうひと踏ん張りですにゃね!
目的地が見えてきたことに勇気付けられて、私は歩くペースを上げる。
進むに連れて、木々が徐々に減り、長い草の茂みが無くなっていったにゃ。
出口はすぐそこにゃ。
◇ ◇ ◇
薄暗い森(ジュイ・シーの森とチシャーネコは言ってましたにゃね)を無事抜けて、
そのまま、広い野原をとことこ歩く。
途中で途切れていた矢印看板も、いつの間にか復活していて、
あちこちに置かれているにゃ。
私はとりあえずその看板に従って進んでいますにゃん。
「それで、もうクエストは終了なんですにゃ?」
「おやおや、ずいぶんとお早い到着だね、うしししし」
野原のど真ん中にアヤシイ黒い物体があるなぁと思ったら、予想通りチシャーネコ。
まったく何してるんですにゃ。
チシャーネコは巨大なカラスの背に寝転がりながら、書類と格闘していますにゃ。
周りには、秘書のように資料を纏める大量のお伴カラス。
遠くから見ると、影が蠢いているみたいで不気味ですにゃん。
「こっちは見ての通り、地獄のデスクワーク中さ、うしし。
まったく退屈な作業で参っちゃうね」
そう言われても、ふかふかの羽毛の上でだらだらとペンを動かす姿は、
とても地獄には見えないですにゃね。
とりあえず、適当に「お疲れ様」と言っておくにゃ。
「うししし、周りの子達も労ってあげてよ。
ボク1匹じゃ、とても捌ききれなかったから手伝ってもらてるんだ」
「「「かぁ」」」
周りのカラス達が、一斉に鳴き出したにゃ。……皆すごくヤツれてないかにゃ?
カラス1「この猫まじカラス使いが荒いわー」
カラス2「ローキイハーン!!」
カラス3「こんな屑猫の社畜なんてマジ勘弁」
黒い円らな瞳がそう訴えてるような気がしたにゃ。
「……本当にご苦労様にゃ」
カラスだけにクロウしてるんですにゃね。
「あの森を抜けたということは、ウォーミングアップは済んだってことだね。
うしししししーー。ちなみにまだクエスト中です、残念!」
うぉーみんぐあっぷ? なんのことにゃ?
っていうか、まだクエストが続くんですにゃね……。
「おやおやおやー? まさかボクが意味もなくここに招いたとでも
思ったのかいぺろぺろちゃん。うしし」
チシャーネコならありえる……という言葉をぐっと飲み込んで、
私は「そんなことないですにゃ」と答える。
「うんうん。きちーんと意味はあったんだよ~。残念ながら、うししし」
残念って言いましたにゃね、この性悪にゃんにゃ。
意味もなく振り回したかったって顔に書いてありますにゃよ。
「今までの余興は知覚再現機能の最終チェックが行われていたんだよ~」
チシャーネコは書類に視線を落としたまま、話を進める。
「ちかく?」
「知覚というのは、身体が体験した感覚的な情報を元に、
"熱いな"とか"甘ーい!"とか"いい匂いだ~"っていうのを
キミキミ自身の脳が自覚すること。
現実世界で無意識に行っている脳の伝達機能を、
VRでは、人為的に再構築してるわけだね、うしし」
にゃんだか、ムツカシイ話ですにゃん。
「そりゃあ、カンタンなお話ではないよ~。
VRにおける知覚の再現っていうのは、VR機能が開発された当時から今まで、
アップデートされ続けているいるし、今も研究中なんだからね。
たまに匂いのテスターアイテムとか配られてるのを体感したことないかなー?
あれも試験的なチェックの一環なんだけどね、うしし」
あ……柚子様が仕事で持ってくる例のアレですにゃね。
なるほど、センスプランナーとかが関わる部分かぁ……。
変な匂いをばら撒くだけのカンタンなお仕事ではなかったんですね。
柚子様、今まで嫌がったり、バリバリしてごめんなさいにゃ。
「でも、どうして今さら確認が必要なんですにゃ?」
それってゲームにアクセスする時に、簡易チェックが行われてますにゃよね?
あの長いロード時間で行われるやつにゃ。皆のイライラタイムでお馴染みの。
「普通のサーバーなら問題はないよ」
ふむ、ということはつまり、ここがアクセル・サーバーだから、
今までのとは勝手が違うというのが理由ですにゃ?
「うしし、正解~! さっすがクレバーキャットだね」
「えっと、褒めてるんですにゃよね?」
「ひどいなー褒めてるに決まってるでしょ。人間不信は良くないよ? うしし」
正確にはチシャーネコ不信ですにゃね。
「新しく導入されたプログラムには、必ずバグがありってね。
先人たちは口を酸っぱくして言ったものさ。
いくらチェックしても、足りないってことはないんだよ」
書類に目を通し終えたチシャーネコは、傍にいた小さなカラスに書類を押し付けて、
巨大なカラスの背からひょいっと飛び降りると、2本の足で軽やかに着地した。
カラス達はいっせいに空へと飛び立つ。
ただっぴろい野原に、チシャーネコと私の2匹だけがぽつんと残されたにゃ。
「でも、安心しなよ。
正真正銘……これがクエストのラストになるよ。
無事にクリアできれば、ぺろぺろちゃんは『迷い人』として、
広い世界を冒険することになる。
女神が創造した絵本の世界をね」
私はごくりと息を飲み込んだ。
なんだか、得体の知れない緊張感を感じるにゃ。
なんですにゃ? チシャーネコの表情は何一つ変わらない。
もはや標準装備でしょ? って感じのにんまり顔。
プレッシャーに耐えかねて、私はゆっくりとチシャーネコから距離を取る。
しかし、向こうはそれを予期していたのか、絶妙のタイミングで
私の逃亡を阻害してきた。
---------------------------------------------------------------------------------------
『EX:チシャーネコの悪戯』を開始します。
※エリア移動が制限されました。イベント終了までボス戦闘区域になります。
※5分後にイベントを開始します。
---------------------------------------------------------------------------------------
システムメッセージさんがまるで逃がさないよ? と言わんばかりに顔面にずいっと広がった。にゃ、にゃんてこったい……。
そしてメッセージの通りに、野原エリアに赤い半透明の壁が出現して、
エリア移動が出来なくなってしまったにゃ。
どういうことですにゃ? とチシャーネコの方を見ると、
なんだかボスっぽ赤いオーラを放ってニヤニヤと仁王立ちしていた。
あとなんかこんな物も表示されたにゃ。
『BOSS:チシャーネコ LV???』
わ、私は何も見なかったことに……。
「現実逃避はダメだよーうしし」
ぐ、現実逃避すら阻止されるにゃんて……。
だがしかし、悪あがきかもしれないけど、これだけは言わせてもらうにゃ!!
「戦闘ってどういうことですにゃー! 戦闘は無いっていったのに!!」
チシャーネコの嘘つき!!
あー、もう。むりむり! 無理なのにゃ!
ザコモンスターとすら戦ったことがないのに、初戦闘がボスってどこのMですにゃー!
チシャーネコのばかー! あほー! すっとこどっこい!!
略して、バホス!! しかもお前がボスとか酷すぎるにゃ!
「いやいやいや、嘘は言ってないよー。 うししし」
シラを切るつもりにゃね!?
「うしししし、本当に嘘は言ってないだけどなぁ。
『モンスターとの戦闘はない』って言ったでしょ?
ボク悪いモンスターじゃないよー。チシャーネコだよーうししし」
だ ま さ れ た。
どうみても悪いチシャーネコです、本当ににゃ。
チシャ「これにて導き編は終了~、人を教え導くって大変だけど
やりがいのある仕事だよね~うししし」
チア「全く導かれていなかった気がするにゃ」
チシャ「気のせいだよ、うしし」
チア「そんなわけあるかーーっ! しゃー!!」




