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週刊どらゴン通信!  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
第二章 「疾風乱舞は愛の疾走」
20/23

2-8 作戦会議

 結果おーらい……。


 いや、それしか言うべき言葉が見つからないよ。それぐらい、あたしは動揺していた。あくまで過去形、ほーんと、よかったあ。


 というのも、ソラが監視している事を知ったシェリイは同じギルドのレダを問い詰め、この前の計画の事を聞きだしてしまったのだ。本人が計画の事を知ってしまったら元も子もない、あたしが半ば諦めかけたぐらいだ。


 けれど、レダはあたしが思っていた以上に策士な性格をしていた。なんと彼女はシェリイがイオンに惹かれていることを盾にとった。つまりシェリイがイオンを好きであることをイオンにバラす、と脅して計画に協力することを逆に約束させたのだ。


 ちなみに、シェリイが闘技大会の時にソラの方向を見ていたのは、完全に偶然、そのあたりで『庭園大蛇』のメンバーが観戦に来ていたからだ。その中にいたイオンの表情を見たいがためにわざわざ《鷹の目》のスキルを使ったのだ。《デスペレイト》でなければ到底できない芸当だけれど、その時に近くにいたソラの顔を覚えていたというわけだ。それから戦闘があるごとにソラがいたため、不審に思ったらしい。


 相手が個人対抗トーナメントを連勝し続けるような《デスペレイト》とはいえ、ソラの遠距離撮影を見破られたことに驚きを隠せないあたしたちだった。なにせ、これまでソラの撮影が見破られた回数はゼロ。個人対抗バトルロワイヤルでの主要死因、狙撃を行うスナイパーを見つけることはそれほど難しいのだ。


 ソラは怯えきってもうこの手段は使わないと言ったけれど、流石に二度はないと思ったので慰めつつこれからの協力をお願いした。


 そう、これからは本人承認のもと、お見合い大作戦を行うことができるのだ。いやっほー! レダさん万歳!


 そして今、あたしは作戦の打ち合わせをするため、エデンの街のとある一角で待ち合わせをしていた。

立体交差するたくさんの橋、そして無数に建つ様々な建物。アルカディアの中でも、この街は特に未来的な雰囲気を持っている。それも、例えるならばアメリカのラスベガスの街並みを空中都市にしたような活気あふれるものだ。


 いつものようにあたしの後ろには《ハイド》を使ったレイが黙って立っている。普通待ち合わせなのだから立ち話をしたりするものだけれど、レイとは作戦以外ほとんど会話がかみ合わないので特に会話はしない。


「おまたせー。ナツキさん、待った?」

 と、そこに作戦の立案者と被害者、レダとシェリイが到着する。


「いえ、大丈夫ですよ」


 レダも、この場にレイがいることをあらかじめ知っている。知らないのはシェリイだけ。ソラの事が知られてしまった以上、本人の許可なしではソラを遠距離撮影はできない。撮影で頼れるのはレイだけなのだ。


 もちろん、取った動画は後で放送許可をとる。クイーンも言っていたが、作戦が上手くいけばシェリイも気をよくして許可してくれるだろう。


「ええと、それで……。初めまして、あたしはナツキと言います。疾風乱舞の戦姫と直接会えて光栄です」


 そんな下心を含みつつ、あたしはシェリイに挨拶する。


「あ、はい。あなたがレダの言ってた……。えっと、シェリイです。よろしくお願いしますね」


 思いのほか素直な返し方をしたシェリイに、あたしは心の中でおや、と思う。それにつられてレダの方を見ると、彼女は得意げに顔を綻ばせていた。


 ううむ。いったいどんな説得の仕方をしたのやら。大学生(仮)、恐るべし。


「それじゃ、場所を変えて話そう。この近くに、支払いが一般硬貨にしてはいい喫茶店があるから、そこに行きましょ。ナツキさん、いいよね?」


「はい、案内お願いします」







 そうしてレダが案内してくれた喫茶店は、確かにちゃんとしたもので、内装にはクラシック風な机など高級そうに見えるものがたくさんあった。こういう店は大体が大きなギルドの経営しているものだけれど、それはアルカディアで元々あるアイテムを使っているものがほとんどで、こんな風に凝った内装はなかなか見かけられない。


 それに、さっき注文した紅茶も、なかなかいい風味を出していた。


「エデンにはこんないいお店があるんだ……」


 あたしが呟くと、レダは少し自慢げに返す。


「味も結構いいでしょ? エデン王のギルドが経営してるだけあって、凝っているのよ。あのばーさまは、そういうところに煩いらしいしね」


「へえ! そうなんですか。エデン王っておもしろい人ですね」


「そっちの王は戦いばっかでしょ? それも自ら前線に出るような、本物の戦闘狂。国対抗イベントで稼ぎたい人にとってはいいんだろうけどさ」


 レダの発言に、あたしは苦笑を隠せない。もともとアルカディアは対人戦メインのMMOだけれど、確かにヴァルハラ王のレイノルドは戦闘に特化しすぎだ。同じ王でも、国によってここまで違うのだ。


 番組のスタッフになってからはヴァルハラでの取材ばかりしていたから、他の国の事をあまり知らなかったというのもあるけれど、そんな風な凝り方をしている人がいることにあたしは意外に思った。


 まあ、ここで集められた一般硬貨はエデン王のギルドの軍資金として使われるのだろうけど。


「それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」


「そうね、シェリイの恋を成功させるために、一発かましてやろ」


 あたしの言葉に、レダはにやりと笑った。







 テレビドラマでよくある恋の展開として、これは無理があるんじゃない? と思ったことはないだろうか。例えば、ヒロイン役と主役が二人で出かけたときに、二人の距離が近づくような出来事が起こったりとか。


「そういう流れだったら、桜村がいいんじゃないですか? あそこは年中桜が咲いてますけど、せっかく今が春なんですし」


「あー、うん。ありだね。シェリイの性格じゃお茶に誘うのもなかなかできなさそうだから、お花見に誘うってのもいいわね」


「お花見、ですか?」


「そうです。一度一緒に出掛けたりとかしたら、いくらでもいいシュチュエーションはできますから。それに、お花見だったら誘いやすいとおもいますよ」


「でも、私……」


「大丈夫ですよ、シェリイさんがイオンさんを好きだってことは確固とした事実なんですから。それに、イオンさんに助けられたとき、何か言おうとしていましたよね?」


 あたしの発言に、シェリイが顔を赤くする。いやー、ほんとにこの人は疾風乱舞に戦姫? シンジ君と戦っている時の気迫が全然感じられないわよ。


「そういえば、初夏に新しいマップが解放されて、それが海の中を探検できるらしいんだけど、そのマップに二人で行くってのはどう?」


「うーん。でも春の内にやりませんか。告白するんだったら、やっぱり花が咲いている季節が最適だと思うんですよね。というかもう五月になりますし」


「なるほどね。まあ、ナツキさんがそう言うんだったらそうしよう。で、問題はどうやってシェリイがイオンを誘うのかなのよね」


「もし庭園大蛇のメンバーに協力してもらえるんだったら、こう、みんなで行く予定だったんだけど、急に予定が入って、それでイオンさんとシェリイさんだけになるとかはどうですかね?」


 普通、テレビドラマで起こるようなイベントというのは、滅多に起こらない。しかし、その状況になってしまえば非常にロマンチックなシュチュエーションになることは明らかで、しかもここはバーチャル空間だから、大体何でもできる。


 そう、ロマンチックなイベントが起きにくいのなら、起こるように仕向ければいいのだ。フラグは立つものじゃない、立たせるものなのよ!


「ああ、その手があったわね。事情を話せばきっとみんな協力してくれると思うわ」


「え……みんなに話すの?」


 シェリイが困惑したように言ったので、レダが彼女の肩をバンバンと軽くたたきながら言った。


「イオンに好きだって伝えるんでしょ? だったらそれぐらいどうってことないじゃない。きっと、みんな応援してくれるわ」


 そんなレダの様子に、シェリイは言い返せない。


「それじゃあ、その方向でお願いします。後は、桜村で何をするかですね」


 あたしがそう言ってまとめてから、三人で(一人は置いてけぼり気味だったけど)作戦の内容の案を出し合った。


 どんな作戦になったかって? それは、やってからのお楽しみよ。





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