2-9 実はすごい大会だった。
毎週土曜日、水上都市ヴィネルのスタジオには様々な機材が持ち込まれる。代表的なのはビデオカメラ。これは現実世界でのテレビ番組で使われているものをかなりの精度で再現しており、操作性も抜群だ。また、撮った画像をリアルタイムで編集する端末、そしてそれを、アルカディア内のいくつかのモニターに映し出すための装置。
いずれも一般硬貨では手に入らない、現実世界のお金を使わなければ手に入れることすらできない高級品だ。そのかなりの部分の費用を、プロデューサーであるクイーンが負担している。よくもまあ経理目的でない番組にそんな費用が出せるものだと、学生であるあたしは思わずにはいられない。それだけお金に余裕があるからなのか、それとも他に使い道がないのか。
ちなみにスタッフ内ではクイーンがとある有名企業の社長なのではないかという噂がまことしやかにささやかれている。
そしてその機材で撮影されるのは、司会であるあたしとエリだ。
エリはあたしが知る同年代の女の子のなかでは一番と言っていいぐらいの美少女だ。クイーンがスカウトしたというのにも頷ける。前一緒に司会をしていたパラディンの女性は、どちらかというとおっとりした感じのエリ(取材の時とかはかなり鋭いけど)とは正反対な雰囲気で、強気なクイーンに似た、でも少しあの人とは違うような人だった。彼女と共に司会をしていた時はあたしの方が妹分的な存在だったけど、今ではエリと二人で二人娘、って感じだ。
「本番三十秒前です! スタンバイお願いします!」
スタッフの一人が言い、あたしとエリは顔を見合わせ、頷き合う。
そして時刻は午後十時。番組の始まりだ。
「こんばんは! 2050年4月30日、土曜日。週刊どらゴン通信の時間がやってまいりました! 今日も水上都市ヴィネルのスタジオからお送りします。司会はわたくしリコーラーのエリと」
「メイジのナツキが務めさせていただきます!」
「今週もアルカディアでは様々な出来事がありました! 何もない日が来ないのが不思議なくらいです。それでは、今週一週間を一気に振り返ってみましょう。ナツキさん、お願いします!」
「りょーかい! そんじゃ、いくよー!」
あたしはエリの振りに対してハイテンションで答えながら《テレポート》を発動する。戦闘中で相手から離れるのに重宝するスキルだけれど、移動するときに派手なエフェクトが出るので忍び寄るのにはあまり適さない。まあ、背後を取るのには便利だけど。
そして移動した先はいつものモニターのある部屋。この部屋を移動すること自体にはそこまで意味はないけれど、こうやって場所を変えることでアクセントをつけて、間を持たせるのには役立っている。
「今週一週間の出来事を振り返るこのコーナー。ラッキーセブン!
まずは日曜日! クロノス競技区にてユーザー主催の射撃大会が行われました! 出場者は主催者の投刃使いの投げる合計十本の投刃を、銃系統武器の通常攻撃だけを使ってどれだけ撃ち落とすことができるかを競います。投刃の嫌がらせのような軌道に舌を巻きつつも会場は大いに盛り上がりました。優勝者はエデンのスナイパー、エレン。抜群の動体視力で十個すべての投刃を撃ち落としました!」
あたしはそう原稿を読み上げつつ、もしソラがこの大会に出場していたら、確実に優勝していただろうな、と思った。彼女にはシンジ君にも負けないぐらいの射撃の腕前があって、たとえ敵が後ろにいたとしても一瞬でそちらに振り返り、ほとんど狙いをつけずに命中させてしまう。スコープもろくに使っていないのだから驚きだ。もしかしたらシンジ君やレイと同じような人種なのかもしれない。とはいえ、彼女は相手の撃った銃弾を避けるようなことはできないけれど。
「月曜日! クロノスのブレイカー、ブラックがバルドル大墳墓にてアストラル・ウェポン、『ラグナロク』を入手! その能力は非常に強力なものです! 前回の大会では『ダインフレス』を以てクロノスのシーフロード、ジュンが決勝トーナメントにたどり着き、団体戦ではヴァルハラのソルジャー、シュラが優勝しましたが、彼もまた個人対抗トーナメントで大活躍しました!
火曜日! この日は様々な優勝候補たちが激しくぶつかり合いました! 地底都市グレイドの個人対抗トーナメント! 今回は十連勝中の『疾風乱舞の戦姫』シェリイは言わずもがな、『ラグナロク』を手に入れたブレイカーのブラック、そして半年前に姿を消したあの伝説的な双銃使い、『三柱の大災害』こと『バーツ』と全く同じ技を扱うクロノス所属、シンジが参加し大荒れになりました!
激戦を制したのは、やはりシェリイ。彼女のリミットブレイクスキル、《ゼピュロス・ブレイド》の元には、誰もたてつくことはできません!
水曜日! 公式イベントによりカレワラのコロシアムにボスモンスター『ラ=ヴィーナス』が出現! エレメンタル系モンスターのボス版といった敵ですが、その凶悪な魔法により挑戦者をことごとく退けています。
木曜日! ここ水上都市ヴィネルの東のマップ境界に位置する橋にて、ヴァルハラのキューショナー、ルインがバンジージャンプを披露しました! この橋の下を流れる川に触れると違うマップに転送されることが知られていますが、彼はそれを利用し、川に触れないギリギリの高さまで落ちました。そのあと手で水面を触ったところ、やはり転送されたという事で、転移系オブジェクトの効果判定をユーザー間に知らしめる結果となりました!
金曜日! 城塞都市レムルスの団体対抗トーナメントでは、またもあの人が活躍しました! 優勝は過去に五度の優勝を成し遂げているギルド、『電光石火』。あの『孤高の短槍使い』、シュラが所属するこのギルドは、彼を失っていた二か月間を取り戻すように、彼を筆頭した六人の接近戦闘職ユーザーはギルド名に恥じない働きを見せました。
そして今日! エデンの競技区にて、ユーザー主催のサッカー大会が開かれました! 出場した四つのチームは、ダメージこそ与えられないもののこれでもかというほどスキルを使い、アルカディア以外では決してできないような大乱闘を繰り広げました! 優勝チームはヴァルハラのベアラー、テル率いる『フレイムベルク』ギルドのチーム! テルのブリュンヒルデ憑依後のスキルによる炎の突撃攻撃は、ボールをキーパーごとゴールに収めるほど苛烈でした!
以上! 今週の主な出来事でした!」
あたしはもう一度、《テレポート》を使い、エリのいるスタジオに戻る。
「マップ内の橋を使ってバンジージャンプをするなんて、大胆な発想ですね! わたしには怖くてできませんが、彼の今後の動きには要注意でしょう! それでは、次のコーナーに移ります。ナツキさん!」
「今週の出来事を決めるこのコーナー、どらイチ!
スタッフが決めた今週のどらイチは、こちら!」
カメラ群に混じって置いてある、放送されている映像を表示するモニターにテロップが表示されるタイミングに合わせて、あたしも言う。
「地底都市グレイドの四次職個人対抗トーナメントにおける、三人の戦士のデットヒート! です!
先ほど紹介したとおり、今回の地底都市グレイドの個人対抗トーナメントでは現在十連勝中の『疾風乱舞の戦姫』ことエデンのディバイダー、シェリイ。アストラル・ウェポン、ラグナロクを入手したクロノスのブレイカー、ブラック。そして半年前に姿を消した、あのクロノスの伝説的なレンジャー、『三柱の大災害』こと『バーツ』だと思われる人物、シンジが参加し、かつてない激しい優勝争いが行われました!」
あたしはシンジ君のバックアップで気づかなかったのだけれど、よく考えれば今回の大会は文字通り大荒れだった。前回大会ではアストラル・ウェポン、ダインフレスを手に入れたシーフロードのユーザーが、ダインフレスの、『武器でのダメージを与えた対象に、高確率|(というかほぼ確実に)でランダムに複数の異常状態を発生させる』という悪魔のような能力で決勝トーナメントにたどり着ていたのだ。そのユーザーはそこまで戦闘の手腕がすごい訳ではなかったので、シェリイの敵ではなかったのだれど、今回の『ラグナロク』はそんな生易しい能力ではなかった。
「それでは、シェリイとシンジの戦いとシェリイとブラックの戦いを一気に振り返ってみましょう!」
シンジ君とシェリイの戦闘はあたしがこの前見たとおりだから、シェリイとブラックの戦闘の様子を説明することにする。
シェリイと対峙するクロノスのブレイカー、ブラックは文字通り真っ黒な鎧に身を包み、髪や瞳までもが黒い、名前も姿も黒ずくめとしか言いようがない男性だった。そしてブラックが構える大剣は身の丈ほどもある巨大なもので、アルカディアでなければ持つことも困難だろう。それを軽々と振り回すブレイカーはなかなか爽快な体験ができる。
『それでは決勝戦です! レディー、ファイ!』
司会の威勢のいい声と共に、シェリイが動き出す。これまでの戦いでシェリイの接近戦闘において圧倒的な強さを持つことを知ってか、ブラックは移動スキルを使い、距離を取る。当然シェリイも後を追う様にして移動スキルを使おうとした。
が、シェリイが明らかにスキルを使う体勢を見せたのにも関わらず、スキルは発動しなかった。シェリイが焦ったようにもう一度はっきりとスキルの名前を言うが、同じである。
『《月閃衝》』
その直後、ブラックが動揺するシェリイに走って距離まで近づき、攻撃スキルを発動する。意表を突かれたシェリイは、前方三メートル以内に防御不能の物理攻撃を行うこのスキルをまともにくらい、大きくHPを減らした。
追撃を行おうとするブラックに対して、シェリイは両剣の乱舞で迎え撃つ。右、左、袈裟、と流れるような動きで振るわれるブラックの大剣は、止められはしないもののことごとく防がれ、ブラック自身も少なからずダメージを受ける。
面と向かっての打ち合いは不利だと判断したのか、ブラックは移動スキルを使い、シェリイから距離を取る。シェリイはさっきのように追いかけようとせず、今度は遠距離攻撃スキル、《ディバイド・アロー》を発動させる。シェリイの腕が弓をつがえるようにして構えられると、両剣のレーザービームのような刃が弓のようにしなり、光の矢が出現する。
と、その時、ブラックの持つラグナロクが怪しい光を発しているのが画面に映る。そしてその瞬間、シェリイが両剣につがえていた光の矢が、消えた。
シェリイは再び動揺する。スキルを上手く使うことが戦闘において非常に重要なこのゲームでは、スキルが使えないというのは致命的な欠陥だ。
そして、気づく。最初にシェリイが移動スキルを発動しようとして失敗した時、ブラックは走ってシェリイに近づいていたのだ。いくら不意を打っているとはいえ、両剣の乱舞にただ走って突っ込むというのは馬鹿げている。しかし、ブラックはそれをやった。
そしてそれが、アストラル・ウェポン、ラグナロクの能力だったのだ。ラグナロクがあの怪しい光を発している間、誰も、恐らくは装備者自身もスキルを使うことができなくなるのだ。
団体戦では敵味方問わず迷惑極まる武器だ。けれど、一対一の状況ならば自分が戦況を完全にコントロールできる力を持つ、まさに悪魔のような武器だ。
シェリイもこれまでの戦況からそのことを読み取ったようだった。それからは無闇にスキルを使わず、《デスペレイト》としての力を存分に使って戦い始める。
シェリイはブラックをまねて移動スキルを使わずに走って接近していく。当然、ブラックはそれを迎え撃つように大剣を構え、スキルを発動させる構えを取る。
『《ビースト・アーク》』
しかし、シェリイが両剣を投擲するスキルの名前を言ったことで、ブラックは予定を変更。ラグナロクに怪しい光を灯し、スキルを封じる。が、シェリイは動揺さえしなかった。彼女はスキル名を言って発動させる状況は作り出したものの、実際にスキルを発動させる行動はとらなかったのだ。
そして逆に動揺したのはブラックのほうだ。シェリイがそのままの勢いで接近してくるのに反応しきれず、移動スキルを発動する前に両剣の乱舞をまともに食らう。自身の防御力と武器の重量が貧弱な代わりに、攻撃が当たった時のダメージが大きいディバイダーの猛攻に、あっけなくブラックはHPをゼロにされた。
『勝者、エデンのディバイダー、シェリイ』
司会が高らかに宣言すると同時に観客の歓声が響き、映像が終了する。
「ここ最近は『孤高の短槍使い』の事もありましたし、ユーザー間のプレイヤースキルも上がって来ていますね! 見ていて飽きない戦いが見られます。みなさんも実際に観戦しにいってはいかがでしょう?
それでは次のコーナー、みんなのどらゴン通信! このコーナーでは、視聴者からの便りをアルカディアネット経由で募集し、紹介していきます。エリ、あの箱出しちゃって!」
「はい! それでは意見箱! 召喚!」
エリが言っていつの間にか手にしていた分厚い本を開くと、スタジオに巨大な魔法陣が描かれ、そこに大量の雷が落下する。そして中央に光の柱が降り立ち、雷の精霊、ゴールドエレメントが空中に出現した。
そうしてから、エリは何事もなかったかのようにゴールドエレメントの下に落ちている箱を拾い、その中から紙を一枚取り出した。
「サブネーム、シイナさんからのお便りです。
ラグナロクの能力には驚かされましたが、それよりも『疾風乱舞の戦姫』や『三柱の大災害』の戦いの技量のほうに目が行ってしまいました。本当に人間なのか! と疑いたくなるほどあの人たちはすごいですよね。どうやったらあんなふうに銃弾を弾けるんでしょう?
お便りありがとうございます。確かに、あの二人はそのぐらいの技量を持っていますよね。一体、現実世界ではどんな生活をしているのでしょうか?
それでは次、サブネーム、ジーさんからのお便りです。
私もサッカー大会を観戦に行きました。ルールがかなりアバウトなのをいいことにやりたい放題でしたね。ベアラーのテルさんもすごかったですが、キューショナーの鉄線を使ってゴールを塞ぐのは反則だろ! と思いました。
お便りありがとうございます。ですがその鉄線もテルさんに破られてしまいましたし、本当になんでもありですね。
そろそろお別れの時間が近づいてきました。最後のコーナーは、スタッフが選ぶ今週の一枚絵」
エリが言うと、放送確認用のモニターに赤髪の青年が炎を纏い、サッカーゴールのようなものに突っ込んでいる画像が映し出され、あたしはそれを確認してから口を開く。
「この写真は本スタッフの騎士が撮影したものです。『フレイムベルク』ギルドチームのテルが鉄線で防御されたゴールに突っ込む瞬間ですが、ベアラーの技の恐ろしさが良く分かりますね。ブリュンヒルデ憑依スキルを持ったベアラーにはくれぐれもご注意を!
お別れは動画投稿サイトで人気を博している音声合成ソフトのアーティスト、『上の空P』の、『トキノキト』に乗せて」
「「それでは、また来週!」」
突然ですが、今話以降の更新は不定期になります。
というのも、九話までは一か月前に書き終わり、十話の執筆に取り掛かっていたのですが……。
全く進まないのです。会話やイベントを盛り込んでみようとしてみるのですが、全く思いつかず。十話の更新がいつになるのか目途もつきません。
第一章が一か月間ちょっとで書けたので、第二章の進まなさに私自身も驚きを隠せません。とはいえ、全体的な流れはだいたい決まっているので、ひょんなことで書き進められることもあるかもしれません。
ここまで読んでくださった方々には大変申し訳ないのですが、かなりまったり書くことになると思いますのでどうかご容赦ください。




