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後日談

半年後。


 冬だった。


 街には白い息が漂い、

 イルミネーションが駅前を染めている。


 あの事件は、

 世間では“連続失踪爆破事件”として処理された。


 被疑者死亡。


 未解決。


 死亡者多数。


 報道は少しずつ減り、

 人々の記憶からも薄れ始めていた。


 だが。


 忘れられない人間はいる。


 彼女は今でも、

 夜になると眠れなかった。


 ホテルではなく、

 小さなマンションへ移っている。


 警察の保護も縮小された。


 日常へ戻れと言われても、

 簡単には戻れない。


 スーパーで、

 後ろから男の声が聞こえるだけで身体が強張る。


 穏やかな笑顔を見ると、

 呼吸が浅くなる。


 ケースを見るだけで、

 吐き気がした。


 それでも。


 時間だけは進んでいく。


 彼女は窓際へ座り、

 温くなったコーヒーを見る。


 雪が降っていた。


 静かな夜。


 その時。


 スマホが震える。


 彼女の身体が止まる。


 呼吸。


 鼓動。


 震える指。


 画面を見る。


 非通知。


 数秒。


 動けなかった。


 やがて。


 彼女はゆっくり、

 電源を落とす。


 沈黙。


 それから小さく息を吐いた。


「……もういない」


 自分へ言い聞かせるみたいに。


 彼は死んだ。


 落ちた。


 自分の目で見た。


 なのに。


 完全には消えない。


 声が残っている。


 笑顔が残っている。


『君の殺意に花束を』


 彼女は目を閉じる。


 涙は出なかった。


 代わりに、

 妙な感覚だけが残る。


 恐怖。


 嫌悪。


 怒り。


 そして。


 少しだけ。


 理解してしまった悲しさ。


 彼は最後まで、

 誰かに“見ていてほしかった”のだ。


 壊れてしまうほど。


 忘れられないほど。


 強く。


 窓の外では、

 雪が静かに降り続いている。


 遠くで救急車の音。


 彼女は冷えたコーヒーを飲む。


 苦かった。


 その時。


 テーブルの端へ置かれた花瓶が目に入る。


 白い花。


 彼が最後に持っていた花と、

 同じ種類だった。


 彼女はしばらくそれを見つめる。


 やがて。


 静かに花瓶を伏せた。


 水が零れる。


 白い花が床へ落ちる。


 それでも彼女は、

 もう拾わなかった。

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