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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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365/370

365 予定よりも一日遅れで…

人身売買組織のビルに連れこまれたカレンたちは…

 男を先頭にしてビルの地下に降りていく一行。階段と通路には薄暗い電灯が数か所据え付けてあるだけの殺風景な光景が目の前に広がる。


 そして、地下に降りたその先にはもうひとり別の男がこちらに向かって声を掛けてくる。



「なんだ、誰かと思えばニコじゃねぇか。そいつらはひょっとして新しい商品か?」


 どうやら幽閉されている気の毒な被害者たちの監視役なのだろう。特に疑う様子もなく気安くニコと呼ばれた男に話し掛けてくる。



「い、いや、それがな…」


 仲間から声を掛けられたはいいが、そうそう簡単に返事が出来ない状況を理解して言い淀むニコという男がすべて話し終えるのを待たずに、その背後からマギーが飛び出して見張り役の男の鳩尾に鉄拳を叩き込む。声をあげる暇もなく男は床に崩れ落ちて、あっという間にその目からハイライトが消え去る様子が確認される。


 マギーは素早く倒れた男の元に駆け寄ると、ベルトに装着された鍵束を確保している。



「予想通り、コイツがカギを持っていたわね」


「マギーさん、またひとり死人が出ていますよ」


「カレン、そんな細かいことなんてどうでもいいでしょう。どうせいつかは警察に捕まって死刑になるか、敵対組織との抗争で命を落とすしかない連中なんだから」


「マギーさんが怖いですぅ」


 マギーが立て続けにギャングたちを何の躊躇いもなく屠っていく光景を目撃したマリアはガクブル状態。


 だが、マギーは敢えて低い声でマリアに語り掛ける。



「マリア、あなたも覚悟を決めなさい。恩人であるシスターを守りたいんだったら、目の前の敵を皆殺しにするぐらいの気概がないと何の役にも立たないわよ」


 予想以上に厳しいマギーのそのひと言に、マリアはハッとした表情を浮かべる。



「そうだったですぅ。私はシスターと子供たちを守らないといけないんですぅ。絶対マギーさんみたいに強くなるですぅ」


「マリア、今の気持ちを忘れちゃダメよ。守りたい人がいるなら敵を倒さないといけないの。ダンジョンの中だと思って立ちはだかる相手は確実に仕留めなさい。さもないと誰も守れやしないわよ」


「わかったですぅ。魔法で倒すですぅ」


 どうやらマリアにとってこの状況は、同じ人間と戦う覚悟を決めるのに効果を発揮したよう。怯えていた瞳に力が戻っているように見受けられる。


 マリアから明日香ちゃんに目を転じたマギーは…



「それにしても明日香は意外と肝が据わっているのね。人間が簡単に死ぬ場面を見ても表情ひとつ変えてないじゃないのよ」


「マギーさん、そりゃ~、桜ちゃんと一緒にいればこんな光景はしょっちゅう目撃しますよ~。ついこの間も、トカゲみたいな人たちを何万人も… ムグムグゥ…」


 明日香ちゃんが全部言い切る前に、カレンがその口を抑え込んでいる。だが、どう見ても時すでに遅しの感がアリアリなのは言うまでもない。



「カレン、あなたが頑張って色々と隠し通そうとしても、明日香がいる限り全部台無しになるわね」


「はぁ~、ウチのお母さんったら、なんでこんな人選をしたんでしょうか…」


 明日香ちゃんの口元から手を離したカレンだが、その言葉に勢いがまったく感じられない。途中で阻止したとはいえ、例のレプティリアンたちの地下施設掃討の件を全部ぶっちゃけたも同然なのだから。



「まあ、いいわ。さて、それじゃあ監禁された人たちを助けるわよ。私がこの男を見ているから、3人でカギを開けて中に入ってちょうだい」


「わかりました」


 色々あって無表情になっているカレンがカギを受け取っている。開錠して小さく開いたドアの隙間から中を窺うと、部屋の中の鉄格子で区切られた監禁施設の様子が飛び込んでくる。



「中には見張りはいないようです。入りましょう」


「わかったですぅ」


「予想よりも早かったけど、楽しいお菓子タイムの始まりですよ~」


 表情を引き締めたマリアと、まったく締まらないニヘラ~顔をした明日香ちゃんが、カレンに続いて中に入り込んでいく。



「皆さん、どうか落ち着いてください。あなた方を助けに来ました」


 カレンが務めて優しい声で呼び掛けると、鉄格子の向こう側から即座に反応が…



「えっ、もしかして日本語?」


「私たち日本人なんです! どうか、助けてください!」


 声の方向に目を遣ると、20歳前後の女性二人がこちらを縋るような眼で見つめている。彼女たちの他には4名のもっと幼い顔立ちの少女たちが、怯えるような瞳で身を縮こまらせている。



「安心してください。今、ここを開けますからね」


 といいつつカレンは鍵束の中からひとつずつカギを選んでカギ穴に差し込んでいくが、中々鉄格子の扉を開くお目当てのカギが見つからない。仕舞には面倒になったのか鉄格子に手を掛けてフンと力を込める。


 ガシャ~ン!


「最初からこうすればよかったみたいですね」


「カレンさん、とんでもない怪力ですぅ」


「桜ちゃんだったら蹴破ってたところですよ~」


 カレンの非常識なやり方に驚くマリアと、この程度は平常運転だと何も表情を変えない明日香ちゃん。両者の対比が中々面白いことになっている。


 兎にも角にも無事に鉄格子の扉が開いて、中から監禁されていた2名の日本人と4名のセルビア人と思しき少女たちが外に出てくる。



「お二人はどうしてこんな場所で監禁される羽目になったんですか?」


 カレンの問い掛けに二人は顔を見合わせながら若干バツの悪そうな表情で…



「実は… 大学の冬休みを利用して東欧旅行の途中でブルガリアの街でイケメンに声を掛けられて…」


「それでホイホイ付いていってこんな結果になったんですか?」


「はい、その通りです」


「これに懲りたら海外旅行の際はもっと慎重に行動してください」


「はい、わかりました。それよりも助けてくださってありがとうございました。本当にもうダメかと何度も絶望しました」


 そう言いながら、ついに女子大生の片方はこらえきれずにしゃくりあげて大泣き開始。もう1名のほうは…



「あなた方は一体何者なんですか? 鉄格子を力で抉じ開けるなんて、とても普通の人には見えません」


 はい、実は女神です… などとは口が裂けても言えないカレンはにこやかに笑みを浮かべながら答える。



「私たちは魔法学院の生徒です。たまたま空港からタクシーに乗ったらこの場所に連れてこられて。素直に捕まるわけにはいかないので、血の気の多い仲間がギャングたちを安らかに寝かしつけて、まあついでだから囚われている人がいたら助けようという流れです」


「ということは、皆さんがここに来たのは偶然だったんですね。よかった… 必死に神様に祈った甲斐がありました」


 神様を持ち出されて、なんだかこそばゆい思いをするカレンがいる。するとドアの向こうから焦れた声が…



「カレン、そっちはどんな状況なのよ?」


「ああ、マギーさん。無事に6名の女性を助け出しました」


「それじゃあ、その場はマリアと明日香に任せて、私たちはこの組織を根こそぎ壊滅させるわよ」


「はいはい、わかりました。マリアさん、明日香ちゃん、マギーと一緒に行ってきますから、この場はよろしくお願いします」


「わかったですぅ。ギャングが来たら、シールドでしっかり守るですぅ」


「さあさあ、皆さん、お疲れさまでしたよ~。飲み物とお菓子の用意がありますから、二人が戻るまでひと息ついていましょう」


 マリアはカレンが望む反応を返してくるが、明日香ちゃんは床にお菓子の箱とペットボトルを並べ始めている。


 その様子にカレンは少々呆れつつも「まっ、いいか」という表情でドアの外に出てマギーに合流。


 残された明日香ちゃんは大張り切りで…



「今まで大変だったでしょうが、もう心配はいりませんよ~。二人が戻ってくるまで、お菓子とジュースで気持ちを落ち着かせましょう。甘~いお菓子は気持ちをリラックスしてくれますよ~」


「あ、あの~… 怖い人がいっぱいいる場所にたった二人で行かせて大丈夫なんでしょうか?」


 囚われていた女子大生の片方が心配そうに口を開く。



「マギーさんひとりでも十分ですよ~。まあ、私から見れば単なる負け犬ですが。そんなことよりも救出を祝ってみんなでカンパイですよ~」


 明日香ちゃんは強引に救助された全員にペットボトルを手渡していく。そして…



「皆さんの救助を祝って、カンパ~イ!」


「「「「「「カ、カンパイ」」」」」」


 戸惑ったままの表情でペットボトルを合わせる救助された側とニコニコ顔の明日香ちゃんの温度差がクッキリ。だが、ひと口ボトルのジュースを飲んだ女子大生は…



「なんだか久しぶりの日本の味が… 本当にもう帰れないと思ってた。ウワ~ン!」


 声をあげて泣き出し始める。もうひとりも先程から泣きじゃくったままなので、日本人組の号泣のコーラスが狭い室内に響いている。


 対してボトルの中のオレンジジュースを口にした地元の少女たちはといえば、最初は戸惑っていたものの、その初めて口にする鮮烈な味わいに目を見開いている。



「さあ、お菓子もどうぞ」


 明日香ちゃんが差し出したのはク〇アおばさんのクッキー。こちらも一口食べた途端に彼女たちの目が真んマルに。一度味わったらもう止まらない。これまで監禁生活で不安を覚えた分を取り返すかのように、夢中でクッキーを食べている。   



「マリアさん、女の子たちの事情を聴いてもらえますか?」


「わかったですぅ。あなたたちはどうしてこのに連れてこられたの?」


 マリアが現地の言葉で問い掛けると、少女たちはゆっくりと重たい口を開く。その話によると、どうやら3名は誘拐されたようで、残りの1名は孤児院から里親に引き取られると騙されてここに連れてこられたという話。


 人身売買組織が里親となりそうな夫婦を脅したり買収したりといった手を使って孤児院から少女を闇のルートに引きずり込むという悪辣な手口が垣間見えた瞬間といえよう。こんな無法が罷り通るなんて、なんとも胸が痛む話ではあるが、孤児院に里親の身元を徹底的に調べる資金力などあるはずもなく、このような非道が陰で行われているという。


 そんな少女たちを力づけるようにマリアが…



「大丈夫ですぅ。誘拐された子はすぐに家族が待っているおウチに帰れるですぅ。それからあなたの名前は?」


「アンナです」


「アンナは私たちと一緒に来るのがいいですぅ。優しいシスターが迎えてくれるですぅ」


 アンナは4人の中で最年少の11歳だそう。こんな年端もいかない少女が人身売買の対象となっているとは、東欧の深い闇を感じざるを得ない。


 こんな雰囲気で色々話込んでいるうちに、ドアの外に足音が聞こえて…


 バタン! ゴン! パリン!


 ドアが開く音に続いて、何かにぶつかる音と割れる音が響く。その方向に目を向けると、マギーが額を抑えて蹲っている姿が…



「マギーさん、オデコでシールドを叩き割るなんて、ずいぶん斬新な方法ですね」


「やりたくてやったわけじゃないわよ! まさかドアの中に一歩踏み込んだ瞬間シールドが張ってあるなんて誰も予想してないわよ!」


 カレンのツッコミにマギーがキレ気味に返している。日頃から鍛えている拳とはだいぶ勝手が違うようで、額が赤くなって結構痛そう。



「マギーさん、大丈夫ですかぁ? 悪い連中が入ってこないように用心のためシールドを張っておいたんですが、まさかマギーさんのオデコを直撃するとは思わなかったですぅ」


「フッフッフ、まさに負け犬には相応しき醜態」


 マリアは心配しているが、明日香ちゃんがここぞとばかりに美咲風の厨2言語で思いっ切りマギーをバカにする始末。元を正すと魔法少女になりたいと強く願っていた立派な厨2病患者なだけに、時折このような痛々しい言い回しが飛び出るのも已む無しか。とはいえ明日香ちゃんの小バカにした言い様は、マギーに相当な屈辱を与えているよう。


 それよりも、本当にこの4人のチームワークは大丈夫なんだろうか? マリアはどうしていいかオロオロしているし…


 マギーのヤラカシでなんだか微妙な空気が漂う室内だが、ひとりだけ冷静さ保っているのはカレン。



「ひとまずはこの後始末をどうするか学院に連絡してきます。皆さんはしばらくここで待っていてください」


 地下は電波の状態が悪いので、階段を取って返して1階に戻っていく。そこには外に停まっている車や地下の異変に気付いて駆け付けた男たちの死体が乱雑に転がっている。


 もちろん全員が拳銃やナイフで武装していたのだが、マギーの拳とカレンのメイスによって瞬殺された実に気の毒な組織のメンバーたち。


 そんな死体の山には目もくれずに、カレンはスマホを取り出して母親の番号をタップする。



「カレンか、セルビアには無事に着いたのか?」


「空港までは何事もなかったんですが、タクシーに乗ったら人身売買組織のアジトに連れてこられまして…」


 カレンが事情を説明すると、学院長は大きなため息をついてから返事をしてくる。おそらく眉間のシワが2本くらいは増えているだろう。



「およその事情はわかった。楢崎妹がいないからおいそれとはトラブルに巻き込まれないだろうと思っていたが、私の予想は大ハズレだったようだな」


「私たちにとっても予想外の不可抗力でした。確かにマギーがノリノリでアジトに乗り込んだ側面は否定できませんが…」


「起きてしまったものは仕方がない。それに位置情報からして、その人身売買組織は今回のターゲットに含まれていたからな。どの道、遅かれ早かれ潰されていた組織だ。それよりも問題は…」


 珍しくあの学院長が言い淀んでいる。一体どのような問題があるのだろうかとカレンが不安を覚えるのは致し方なし。



「問題はな、その人身売買組織を片付けるのは本橋のご老人の役割に割り当てられていた点なんだ」


「ああ」(遠い目)


 あの怪物ジジイに出動を要請しておいて、いざ本番を迎えたら「殲滅する相手がいなくなりました」では収まりがつくはずもない。下手をすると「ウクライナまで連れて行け」などというとんでもないワガママを口にしそうな予感しかしない。



「まあ、それはこちらの問題だ。カレンたちは予定通りに孤児院に向かってもらいたい。私からセルビアの日本大使館に連絡を入れておく。ちょうど今回の作戦に備えてダンジョン対策室の係員が駐在しているから、後始末は彼らが引き受けてくれるだろう」


「わかりました。それでは大使館から迎えが来るまでこちらに待機します」


 これで一応話がまとまったので、カレンは外に停車しているタクシーのトランクから全員分のキャリーケースを回収してから地下室に戻っていく。



「皆さん、お待たせしました」


「カレン、話はまとまったの?」


「はい、間もなく日本大使館の係員が来ますので、監禁されていた皆さんは一時的に大使館の保護下に入ります。私たちは予定通りにマリアさんが育った孤児院に向かいます」


 カレンの説明に今ひとつ納得がいってない表情のマギー。



「これだけに数の死者が出ているのに、高々大使館の職員が駆け付けたところで警察とかを上手く丸め込めるのかしら?」


「やってくるのは、大使館員じゃなくって今回の作戦に備えて待機しているダンジョン対策室の人員です」


「まあ、ずいぶん用意周到なのね。さすがは細かいところまでキッチリ詰める日本流ってところだわ」


 マギーが変なところに感心している。これがアメリカ方式だったら、ド派手に空爆しておいてから、その後の対応は後で考える… こんな雑なやり方が大手を振って罷り通るのだろう。


 しばらくすると日本大使館の車がやってくる。警察への通報や事情聴取といった手続きはすべてダンジョン対策室の係官に任せて、一行は救い出した被害者らと共にひとまずは日本大使館に向かうのだった。




   ◇◇◇◇◇




 しばらく大使館の宛がわれた会議室のような部屋で待っていると、諸手続きを終えたダンジョン対策室の係官が姿を見せる。もちろん待たされている間は、明日香ちゃんと少女たちはお菓子を食べっ放し。


 その様子にやや呆れ顔のダンジョン対策室の係官の口が「これが二宮力士長の実態か…」と小さく動くのもやむ無しだろう。


 とはいえこのまま明日香ちゃんを眺めているわけにもいかないので、係員はカレンたちに向かって本題を切り出す。



「カレン中尉、二宮准尉、それから米軍のマギー中尉、色々とお手を煩わせました。無事に警察への説明は終了しました。カレン中尉はちょっと別室へお願いします」


「わかりました」


 係官に連れられたカレンは隣の会議室に入っていく。



「セルビアに着いて早々の大暴れでしたね。さすがに私もこんな事態は予想していなくて、相当に面食らいましたよ」


「色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「いや、これが今回の私の任務ですから、どうか気になされないでくだい。警察関連の聴取も終わりましたし」


「ずいぶん短時間で終わったんですね」


「物分かりのいい相手で助かりましたよ。『日本人の旅行者がこのビルに連れ込まれたので、仕方なく身を守るために銃を持ったギャングたちを暴力をもって制した。これは正当防衛であって、銃を持っている以上は手加減できなかった』と話したところ、割と簡単に納得してもらえました」


「本当なんですか?」


「まあ、ぶっちゃけ『当人たちに事情を聞きたい』と粘られましたが、『すでに日本大使館の保護下にある』で押し通しました。それから外務省を通じてセルビア政府にすでに申し入れが行われているそうです」


「どのような内容ですか?」


「貴国の首都において白昼堂々と邦人が攫われるという由々しき事態が発生した。かかる事案において、拉致された当人が自らの身の安全を確保するために犯罪組織を壊滅させるに至った。これはあくまでも万人に認められている正当防衛による行動の結果であって、拉致された邦人に関してはすでに大使館の保護下に置かれている。この件に関しては殊更騒ぎ立てることのないように願いたい… というものです」


「ずいぶん上から目線の物言いですね」


「ハハハ、セルビア政府も『詳しい事情を聴取したうえで正当防衛に該当するか司法による判断を下したい』と食らいついてきたようですが、『犯罪組織を潰してもらったんだからこれ以上ガタガタ騒ぐな。むしろ感謝してもらいたい』と伝えたところ、それ以上何も言わなくなったそうです」


「外務省もちょっと前とは打って変わって、ずいぶん強気に出るようになったんですね」


「日本のバックについている例の組織が強大ですからねぇ~。外務省としても自信を持って事に当たれるんじゃないでしょうか。何しろ切り札はたくさんありますし」


 普通の大使館員ではここまで強硬な態度で現地警察に対応できないだろう。「つくづくこの場にダンジョン対策室の係官がいてくれてよかった」とカレンは胸を撫で下ろしている。それに外務省の対応も何かと心強い。


 係官はさらに続ける。



「それから、保護された日本人の女性に関しては大使館が責任もって日本に送還いたします。誘拐されたと思しき少女3名についても、こちらで家族と連絡を取って引き渡します。残るアンナという少女ですが…」


「はい、その子は私たちが連れて行きます。どうせ滞在先は孤児院なので、ひとりくらい余分に面倒をみてもらっても大丈夫でしょう」


「そうしていただけると助かります。それでは本日はだいぶ時間が遅くなりましたので、ニシュの街への出発は明朝ということでよろしいですか?」


「はい、さすがに今日中の移動は厳しそうですから、予定を一日繰り下げます」


「本日の宿泊先はどうされますか? こちらで確保してもいいですが」


「ぜひお願いします」


 さすがのカレンも、初めてやってきた異国で急にホテルの手配など無理があるよう。大使館に丸投げして、適当な宿を予約してもらっている。


 ひと通りの説明を終えると、カレンは一行が待っている部屋へと戻っていく。



「それでは皆さん、私たちは本日の宿泊先に移動しましょう。日本人のお二方は大使館が責任もって日本に送り届けてくれるそうです。それから3人の女の子たちはもうすぐおウチに帰れますから安心してください。それではどうかお元気で」


「本当にありがとうございました」


「この御恩は絶対に忘れません」


「お姉ちゃんたち、もう行っちゃうの?」


「もっと一緒にいたい」


「お菓子ももっと食べたい」


 日本人女子大生はともかくとして、現地で誘拐された女の子たちは、明日香ちゃんによってすっかり餌付けが完了済みな様子。おそらくだが、日本のお菓子の魔力に身も心も乗っ取られてしまったのだろう。



「いつかまた会えますよ~。それじゃあ、元気で頑張ってください」


 本当に会えるかどうかはわからないが、明日香ちゃんは右手をヒラヒラさせて廊下に出ていく。その後ろ姿を寂しそうに見つめる3名の少女たちであった。




   ◇◇◇◇◇




 翌日…



「ふぁ~、夕べはよく寝たですよ~」


 アクビをしながら明日香ちゃんがホテルのレストランに入ってくる。すでにマギー他3名のメンバーとアンナはテーブルに着いて、バイキング形式の朝食に口を付けている。


 ことにずっと孤児院で過ごしていたアンナは比較的グレードの高いホテルの朝食など今まで見たことすらない様子で、目を輝かせながら夢中になってベーコンエッグやらソーセージやらパンケーキやらを頬張っている。


 さらに彼女の外見に関して数日の監禁生活でかなり薄汚れていたのだが、ホテルのシャワーでこざっぱりした上に、昨日大使館からこちらに移動する途中で立ち寄ったカジュアルな店で購入したピカピカの服に袖を通して見違えるようになっている。


 カレン、マギー、マリアの3人が面白がってアンナを着せ替え人形同然にあれやこれや試着させた結果、髪飾りやリボンから靴に至るまで日本円にして10万を超える金額を支出することになったのはご愛敬。


 アンナの感想は「まるでお姫様になったみたい」というストレートな喜びようで、これにはポケットマネーでポンと支払ったカレンも満足げだったのは言うまでもない。


 ちなみに明日香ちゃんは服選びに興味がないのは丸わかりなので、大使館の送迎車に乗せて一足先にホテルに押し込められるという始末。カレンたちが買い物に熱を上げている間も、ひとりでホテルのレストランで食事を済ませてシャワーを浴びて寝るというマイペースぶりを発揮したとどこからともなく伝わってくる。


 そして一番先に寝て一番最後に起き出してくるというグータラ生活をこのセルビアの地でも実践している。


 ともあれ、こうして道連れがひとり増えた一行は、この日のうちにベオグラード中央駅から列車に乗って南の方向に約150キロほど離れたニシェに向かうのだった。




   ◇◇◇◇◇




 時間は少し遡って、ベオグラードのホテルで明日香ちゃんがすっかり眠りに就いた昨夜の午後9時… 日本時間で言えば翌日の午前4時に、魔法学院と伊勢原駐屯地の間にある自衛隊と銀河連邦共用の航空宇宙軍施設に黒塗りのワゴン車が滑り込んでくる。


 そのまま誰にも目撃されることなく施設の建物に姿を消したのは、聡史、桜、美鈴、神崎学院長の4名。しばらく建物内で待機していると、もう一台ワゴン車が到着して中からジジイが降りてくる。



「こちらの部屋へどうぞ。皆さん、すでにお待ちしております」


 係官がドアを開くと、そこには先着した4名がソファーに腰を下ろしている姿が目に飛び込んでくる。



「少々遅くなって申し訳なんだ。神崎学院長、一瞥以来じゃが、お元気なようで何より」


「本橋のご老人、倒れたと聞いた際は心配いたしましたが、こうしてご本懐を遂げられて何よりです」


 日本が誇る人智を超越した怪物にして戦闘狂の二人が和やかに挨拶を交わしている。


 さらにジジイが普段よりも愛敬3割増しの声で…



「聡史と桜も特段変わった様子がないようだのぅ。おお、横におられるお嬢さんも米国以来じゃったわい」


「ジイさん、大して日が経ってないんだからそうそう変わりようがないだろう」


「おジイ様、久しぶりに見ると、なんだかひと回り大きくなったような気がいたしますわ」


「聡史君と桜ちゃんのおジイ様、どうもご無沙汰しています」


 兄妹と美鈴が当たり前のように挨拶を返している。この中で気になったのは桜のフレーズ。



「ガハハハ、桜も中々人を見抜けるようになったのぅ。実はな、退院してから屋敷の裏手にある異空間でひとしきり鍛錬をしておったのよ。おかげで新たな技が身に付いたぞい」


「聞いただけで身震いがしてきますわ。おジイ様のことですから、おそらくは破局的な被害をもたらすとんでもない威力に違いありませんの」


「まあ、そこそこの威力じゃよ。今回披露する機会があればよいのぅ」


 聡史、桜、美鈴の3名が揃って首を横に振っているのも已む無し。このジジイの新必殺技などを目の前で見た日には、命がいくつあっても足りないとその瞳が雄弁に物語っている。


 そんな中で、ひとりだけ一切表情を変えない学院長が厳かな口調で声をあげる。



「さて、どうやらちょうどいい時間になったようだ。船に乗り込むとしよう」


「了解しました」


 聡史、桜、美鈴の3名がソファーから立ち上がる。ジジイも含めた5名は係員の誘導に従って、宇宙港に停泊中の銀河連邦所属千メートル級葉巻型輸送艦に乗り込んでいく。


 タラップが格納されると、銀河連邦の超科学技術によるステルス効果で誰にも察知できない輸送艦は音もたてずに真っ暗な夜の空へと飛び立っていくのであった。


 

寄り道はあったものの、どうにかこうにか目的地のマリアが育った孤児院に辿り着けそうなカレンたち。それとは対照的に銀河連邦の輸送艦で闇夜に飛び立った聡史たちは一体どこに向かうのか… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!


最後に皆様にいつものお願いです。


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