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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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359 ジジイの回復とアメリカが直面する難局

体調の関係で投稿が大幅に遅れて申し訳ありません。ビックリすることに今年の初投稿になります。遅ればせながら本年もどうぞよろしくお願いします。

 ジジイが意識を取り戻したという一報を受けた聡史と桜は取り急ぎ所沢へと向かう。前回の面会時には兄妹二人だけだったのだが、今回は美鈴と学も同行している。ちょうど土日ということもあって授業に支障が出ないのは僥倖。


 ちなみに明日香ちゃんも一緒に電車に乗っているが、彼女はただ単に実家に戻って羽を伸ばすつもりのよう。その隣にはクルトワの姿もある。二人して明日香ちゃんパパが購入してくる大量のスイーツを食べまくるつもりだろう。


 新宿で明日香ちゃんとクルトワとは別れて所沢方面の電車に乗り換える聡史たち。その車内では…



「桜ちゃん、あの師範が入院したなんて信じられないんだけど」


「学君、鬼の霍乱という言葉がありますわ。ましてや無茶ならいくらでも買って出るおジイ様ですから、今まで入院ひとつしなかったこと自体が不思議ですの」


「ああ、なんだかわかる気がしてきたよ」


 学には今回のアメリカ強襲に関する詳しい話はしていない。したがってジジイがなぜ入院したのかまったくわかっていないのだが、桜の「無茶ならいくらでも買って出る」という言葉に例のダンジョンに同行した際のとんでもない所業の数々が思い出されて、なんだかとっても遠い目をしている。


 電車が所沢に到着すると今度はバスに乗り換えて防衛医大病院へ。受付で面会の手続きを済ませると、ようやくジジイがいる病室に到着する。病室のドアをノックしてゆっくりと開きながら…



「ジイさん、調子だどうだ?」


「おジイ様、元気になってよかったですわ」


 兄妹が声を掛けながら室内に足を踏み入れたところ、ベッドの上にジジイの姿は見当たらない。もちろん個室なのでジジイ以外の入院患者もいない。



「あれ、検査にでも行っているのか?」


「お兄様、土日に検査など行わないはずですわ」


 ジジイの自衛隊における立場上特別室が宛がわれているので室内は思った以上に広い。ぐるりと部屋中を見渡してもジジイの姿はないのだが、驚くことにベッドの向こう側から声が響く。



「聡史と桜か。ワシはこちらにおるぞい」


 声がする方に足を運んでみると、そこには床に体をうつ伏せにしているジジイの姿が… いや、正確に言えば腕立て伏せをするジジイを発見。



「ジイさん、意識を取り戻して2日目なんだからベッドの上でジッとしていろよ」


「そうですわ。いくら何でももう少しの時間安静にしてくださいませ」


 兄妹が懸命にヤメさせようとするが、ジジイは一向に聞く耳を持たずに平然と腕立てを続けながら返事をしてくる。



「バカを申すな。目を覚まして体が鈍っていると気付いたゆえこうして鍛え直しておるのじゃ。ジャマ立てするでない」


 さすがはどこに出しても恥ずかしくない脳筋ジジイだけのことはある。意識を取り戻して2日目に筋トレを始めるとは、実に見上げた根性というべきだろう。むしろ初日だけは大人しく寝ていたこと自体が奇跡のようなモノだったのかもしれない。


 ちなみにベッドの向こう側で身を隠すようにトレーニングしているのはカレンに見つかって怒られたくないというジジイの心理が働いているためだと思われる。さすがに女神の力を用いて魂を復活させた恩人には頭が上がらなくなっているよう。こんな具合にジジイが誰かの言葉に素直に従うというのは、世界的規模で見渡してみてもカレンが二人目の偉業。もちろん一人目というのは長年連れ添ってきた聡史たちのご祖母様に他ならない。


 とはいえ意識を取り戻したジジイを誰も止められないので、本人がやりたいようにそのまま30分間腕立てを続けるジジイを見守ることとなる。



「どこが『体が鈍っている』だよ。30分以上腕立てを続けられる68歳のジイさんなんて見たことがないぞ」


「カッカッカ、細かいことを申すでないぞい。しばらく眠っておる間に輪廻の最中に習得を諦めておった技がいくつかあるのを思い出したのじゃよ。せっかくだから完成させようかと思うてな」


「おジイ様、それ以上強くなってどうするおつもりですの?」


「バカを申すな。副王アドラメクでさえワシが魂を懸けて打ち滅ぼさねばならなかった強敵だったのじゃぞ。聖王となればさらに強かろう。そなたらには危機感をいうものが足らぬぞい」


 ジジイに更なる奮起を促される聡史がいる。



「ジイさんはその手でレプティリアンの親玉を倒すつもりか?」


「うむ、それは少々違うのぅ」


「どこが違うんだ?」


「ほれ、ワシが魂すべてを込めた一撃でアドラメクを倒してたであろう。その際『これで思い残すことなく長い輪廻を終わらせられる』と思うてそのまま往生しようと決めたのよ。じゃがな、その直後にそなたらの声がワシに届いた」


「俺たちの声?」


「そうじゃよ。『新たに生まれてくる孫の顔を見なくていいのか』という声がワシに届いてな。それでワシは考えを変えたのよ。生まれてくる赤子たちがなんの憂いもなく過ごせる世にせねばならぬとな」


「そうだったのか。俺と桜の声が届いてよかったよ」


「じゃが聡史よ、ワシに頼りっきりになるでないぞい。今度はそなたらが前に出る番じゃと心得よ」


「ああ、わかっている。もちろんジイさんに手を貸してもらうこともあるだろうが、二度とあんな無茶はさせないよ」


「そうか、まあその意気じゃよ。努々忘れるでないぞい」


「心に刻んでおく」


 聡史とジジイがこのような遣り取りをしている間、美鈴と学はすっかり蚊帳の外に置かれている。ちょうどそこにジジイの様子を診にカレンが入ってくる。



「おジイ様、お加減はどうですか?」


「うむ、すっかり元通り… いや、それ以上に気力が満ち溢れておるわい」


 確かにジジイのその言葉通り、血色は良好で顔のシワが以前よりも少なくなっているように映る。全体的な印象でジジイが15歳くらい若返ったように見えるが、以前は黒髪と白髪が半々だった頭髪と長いヒゲだけは真っ白に変化している。おそらくこの変化が一時魂が消滅してしまったという出来事の唯一の後遺症だろう。


 それよりも驚くべきはカレンの気配を気取った瞬間にジジイが野良猫の千倍素早い身のこなしでベッドに瞬間移動した点。あたかも「ずっと大人しくしていましたよ」という表情で身を横たえている。本当に食えないジジイだとカレン以外の全員が感じているのは言うまでもない。そんなジジイにカレンはニッコリと微笑みながら…



「おジイ様、言いつけ通りに大人しくしていたんですね」


「うむ、ヒマで仕方がないわい。それよりもまるで生まれ変わったような心地がするぞい。体中に気力が漲っておる」


「心を込めて魂を再生しましたから。それよりも確認したいことがあるんですがいいでしょうか?」


「よかろう」


「それではおジイ様のステータスを確認させてください。きちんと元通りになっているかどうか診ておきたいんです」


「左様か… 桜よ、いかがすればステ… なんちゃらが出てくるんだったかのぅ?」


「おジイ様、ステータスくらい言えるようにしてくださいませ。ステータス、オープンと言えば目の前に出てきますわ」


「おお、そうであったな。それでは… い〇なりステーキ、オープン」


 シーンと静まり返る病室。たっぷり20秒ほどの沈黙を破るように聡史の声が響いてくる。



「ジイさん、そのチェーン店は閉店が相次いで新規オープンはしないぞ」


「おジイ様、やはり紙に書いて読み上げていただくしかないのですね」


 残念なモノを見る表情の聡史がツッコミを入れつつ、無念の表情の桜がメモ用紙にササッと書き記して手渡している。桜からメモを受け取ったジジイは、書いてある内容をそのまま読み上げる。



「おお、そうじゃったのぅ。ステータス、オープン」



   【本橋 権蔵】  68歳  男


 職業      東海龍王の化身


 称号      究極のバトルジャンキー


 レベル     3693


 体力      表示不可


 魔力      表示不可


 敏捷性     表示不可


 精神力     表示不可

 

 知力      表示不可


 所持スキル   表示不可


 ダンジョン記録  1


 相変わらずの数値が一切記載されないジジイのステータスが浮かび上がってくる。だがその変化に気付いた桜が…



「おジイ様、以前私が目にした時とは違う職業になっていますわ。それにレベルも微妙に上昇しているような…」


「左様か… ふむふむ、言われてみればそうかもしれぬのぅ」


 まったく我関せずという表情で飄々と答えるジジイ。確か以前の職業は〔武術家〕だったはず。それからレベルが4上昇しているのはダンジョンを攻略したり異世界でアリ軍団を討伐したり、さらに今回レプティリアンを大量に倒しただけでなくて副王までも打ち破った経験値によるものだろう。逆にこれほど大量の経験値を得ているにも拘らず4段階しかレベルが上昇しないというのは、ジジイの驚異的な高レベルのせいだろう。


 こんなジジイのステータスを初めて目にした聡史が美鈴に向き直る。



「美鈴、ジイさんの職業にある〔東海龍王〕というのは何者なんだ?」


「いい質問ね。地球上においては中国の言い伝えにある四海を治める龍神の一柱を指し示すわ。でももっと宇宙的な意味では銀河の東方面… つまりこの太陽系を含んだ宙域の秩序を保つ龍の姿をした神の名称ね」


「それってもの凄い神様なんじゃないのか? そんな神様の化身をウチのジイさんが拝命していいのか?」


「私に宿るルシファーと同じだと考えていいわ。一柱の神が丸ごとではなくてその分体を宿しているのよ」


「ちなみにその龍王とルシファーさんではどちらが偉いんだ?」


「偉いとか偉くないとかいう問題じゃないわね。そもそも与えられた使命が違うわ。ルシファーは銀河の神界や霊界における中央政府の閣僚だとすれば、東海龍王はもっと現実界に近い位置付けの次元における地方行政区の知事のようなモノかしらね」


「いやいや、知事だとしてもどえらいモノをジイさんは宿したな。ジイさん、いつどこで龍王なんかに出会ったんだ?」


 美鈴から情報を仕入れた聡史は今度はジジイに問いかける。カレンと一緒にステータスをを眺めていたジジイは何かを考えこむ表情をしながらおもむろに口を開く。



「ふむ、ワシはしばらくの間魂魄の世界に滞在しておったのだが、その間やることもないゆえにずっと瞑想をしておった。それがある時目の前に大きな気配が現れてな。目を開いてみると巨大な龍がおったのよ」


「なるほど、それが東海龍王なんだな」


「左様、その龍も自らその名を口にしておったぞい。そのまましばし他愛もない話をしておったのだが、その話の成り行きでどちらが強いかということになってのぅ。結果的には相撲で決着をつけることとなったのよ。その龍もワシと同じような人型となってくる日も来る日も相撲を取り続けたワイ」


「それで決着はついたのか?」


「ふむ、ワシが星ひとつ勝ち越しておる時に目が覚めたゆえに、今のところはワシの勝ちじゃな」


「呆れたジイさんだな。銀河の4分の1を治める龍王相手に勝ち越すなんて…」


 旧約聖書の創世記に登場するノアの子供のアブラハムは天使と相撲を取って勝利したという記述があるが、ジジイの場合はおそらくもっとスケールの大きな話に違いない。天使と龍王ではさすがに格が違いすぎる。


 するとここまで聡史とジジイのやり取りを黙って聞いていた美鈴の瞳がふいに銀色に変化する。どうやら彼女の中に眠るあの方が目を覚ましたよう。



「そこにおるのは東海龍王殿ではないか?」


「おや、その気配はもしやルシファー殿であるか? かような近くにいるとは思わなんだ」


 ルシファーの神格に呼応するかのようにジジイの瞳もいつの間にか銀色に変わっている。このような病室という思わぬ場所で神々の対話が行われようとは誰も想像していなかったに違いない。



「こちらこそ龍王殿が地上に顕現するなど聞いていなかったゆえに、突然の降臨にいささか驚いておる」


「これはこれは。ルシファー殿を驚かせたならば、我としてもしてやったりの気分。何を隠そうルシファー殿が地上に降臨されたと聞きつけて我も協力したいと考えておった。だが中々我の分体を受け入れるような器が見つからずに歯噛みする日々であったが、此度魂魄界にまこと相応しき器が迷い込んできたのでな。一にも二もなくその魂に潜んでこうして地上にやってきた次第」


「なるほど… ということは銀河連邦の計画に協力いただけるというわけか」


「もちろんのこと。我だけではなくて多くの神々がルシファー殿に力を貸そうと地上に降臨する順番を待っておる」


「それは願ってもいない話。どうか今後とも力を貸していただけるように頼む」


「もとより承知。まだ我が分体が入り込んで日も浅いゆえに、長い時間我がこうして出張るのはよろしくない。しからば御免」


 そう言い残してジジイの魂の奥に隠れてゆく東海龍王。その神格が消え去ると同時にルシファーさんも引っ込んでいく。



「あ、あの… 今の師範と美鈴先輩の遣り取りは一体何だったんでしょうか?」


 ここまでいるのかいないのかわからないほどに気配を消していた学がオズオズした表情で問いかけてくる。それを聞いて聡史は素早く桜に目配せ。



「学君にはおいおい秘密を明かしますわ。今はこんなもんだと思って黙っていてください」


「わ、わかりました」


 とはいうものの、学の表情は「何か大変なことを聞いてしまった」という感情が顕わになっている。ここまで色々と見聞きしている以上はいずれは学に日本と銀河連邦との関わりといった真相を明かさねばならないが、それはもう少し様子をみてからというのが兄妹の共通認識。


 ここでカレンが…



「どうやらおジイ様の魂の定着は上手くいったようです。それだけではなくて龍王様という特大のお土産まで持ち帰ってのですから結果オーライといったところでしょう。ということで、週が明けた月曜日には無事に退院できそうです」


「左様か、こうしてずっと身を横たえているのも性に合わぬでな。退院が決まったとなると張り合いが出てくるわい」


 カレンから正式に退院の日時が明かされるとジジイは満面の笑顔を浮かべている。その理由は自分の家に戻れるとか家族に会えるなどという普通の人間が考えるような極めて個人的な感情ではないはず。おそらくは自宅の裏にある異空間で思いっ切り新たな技の習得が出来るという喜びで間違いないだろう。


 ということでジジイはまったく心配がないようなので、これにて面会は終了と相成る。



「ジイさん、病院にいる間は皆さんに迷惑をかけるんじゃないぞ」


「そうですわ、お兄様の言う通りですの。カレンさん、おジイ様が退院するまでどうかしっかりと見張っておいてくださいませ」


「桜ちゃん、わかりました」


 こうしてジジイのことはカレンに任せて、聡史たちは自宅に戻っていくのであった。






   ◇◇◇◇◇






 思いの外ジジイが元気だったこともあって、聡史たちは明るい表情で自宅に戻る。だが自宅とはいっても戻った先はジジイの屋敷。なぜかというと兄妹の母親がつい先日からこちらで生活していると聞きつけたからに他ならない。



「母さん、ジイさんの様子を見てきたぞ」


「あら、聡史じゃないの。まあまあ大勢いらっしゃって、どうぞ皆さん上がってください」


 大きなお腹をよっこらせといった具合に抱える聡史の母親が玄関に顔を出して皆を迎え入れる。



「オバ様、お久しぶりです。ずいぶんお腹が大きくなりましたね」


「美鈴ちゃんこそ久しぶりね。二人も入っているから今にもはち切れそうよ」


 もう間もなく臨月を迎える母親のお腹はその言葉通り大きくせり出している。そろそろ自宅での家事で体を動かすのも困難になってきたので、予定日にはまだ1か月以上はあるが早めに里帰りしているという話。



「年末か年明けには弟と妹の顔を見られるなんて楽しみですわ。お母様、双子の面倒はどうかこの私にお任せを」


「お願いだから桜ちゃんは何もしないでね。生まれたての赤ん坊の情操教育に良くないから」


「そうだぞ、桜。お前のような妹を持ったおかげで俺が兄としてどれだけ苦労をしたと思っているんだ?」


「実の母と兄からこんな言葉で攻められるなんて不本意ですわ」


「桜ちゃん、本当のことだから仕方がないでしょう。隣に住んでいたというだけで、私も相当な被害を受けたんだから」


「美鈴さんまでヒドイですわ。私は誠心誠意弟と妹を可愛がるつもりですのに」


「桜、お前が口にすると『可愛がる』という言葉は相撲社会のシゴキにしか聞こえてこないぞ」


 桜はこれまでの人生で犯してきた過去の数多くのヤラカシをあらゆる方向から攻め立てられてはいるが、本人としてはその行いを顧みる気など更々ない様子。この厚かましさもおそらくはジジイ譲りの性格なのだろうと思われる。


 ところでここまで入院中のジジイに関する話を誰もしていない。一応知らせないといけないかと思ったのか、聡史が母親に向かって切り出す。



「母さん、ジイさんは月曜日に退院してくるそうだ」


「そうなの、まあどうでもいいわよ。これまでにフラッといなくなって家を空けることが多すぎて、私からするといないことのほうが当たり前のような感覚なの。入院したとは聞いていたけど、どうせケロッとして帰ってくるだろうと思っていたし」


 あまりにドライな母親の言い草に、聡史はこれ以上ジジイに関する話題は避けたほうが良さそうだと判断。ましてやジジイが龍王の加護を受けてさらにパワーアップしたなど以ての外と口を閉ざす。


 その後はご祖母様も交えてお茶を飲みながらしばしの歓談。年末には再び帰省すると告げて一同は魔法学院に戻っていくのであった。





   ◇◇◇◇◇





 舞台を移してこちらはアメリカ合衆国。レプティリアンが生息していた地下施設の調査並びに遺体の収容が行われているが、秘密裏に招集された陸軍の部隊や工兵隊は地下空間に広がる広大な都市の全貌を目の当たりにして誰もが唖然としている。



「なんで俺たちの国の地下にこんな施設があるんだ?」


「俺に訊かないでくれよ。絶賛混乱中なんだから」


「それに見てみろよ。この遺体はどう見ても人間じゃないぞ」


「ひょっとしてSNSに流れていた首席補佐官もこいつらと同類ってことなのか?」


「シッ、口を噤むんだ。こんな話が上に聞こえたらタダでは済まないぞ!」


 地下空間に広がる施設のあまりに壮大な規模とその建造に用いられる未知の科学技術に誰もが驚嘆の声を口にするが、人間というのは驚きの度合いが強烈過ぎると逆に冷静になってくるもの。ということで当初の目的通りに破壊された瓦礫の除去やそこいら中に倒れている遺体の収容に取り掛かる。とはいえその最中も…



「なあ、これはおそらくレーザーガンだよな」


「外見だけでは正確なことはわからないが、形状からしてそうだろうな」


「それからここに転がっている遺体は全員が小型のロボットに搭乗しているみたいなんだが…」


「ロボットというよりも進化した戦闘用のパワードスーツだろうな。我々の技術よりも明らかに未来をいっている」


「その通りなんだが、何かおかしくないか? こんな進んだ技術を持っているのになぜ数百体規模で死体になっているんだよ?」


「俺に訊かれても困る。だがどの死体も図ったように正確に心臓を貫かれている。黒く焦げたり着弾部分が一部溶解している様子から考えれば、何者かが照射したレーザー光を被弾したんだろう」


「でもよ、こんな進んだ技術があるのに簡単にやられちまったのはどういうわけだ?」


「知るかよ。大方さらに進んだ技術を持った敵に攻められて太刀打ちできなかったんだろう」


 遺体の収容にあたる兵士たちのほとんどが同様の感想を抱いているが、彼らの軍での経験上から来る直感はかなり的確な部分を突いている。どの国の軍隊でも使用する武器の性能がひと世代違うと手も足も出ないままに一方的な被害に遭うと実戦上理解しているよう。


 1か月ほど時間を要して一通り遺体の収容と瓦礫の除去を進めると、今度は専門家を伴っての精密な調査を開始。もちろん理論物理学の権威や建築構造の大家などを動員して様々な角度から調査を加えていくが、調べれば調べるほど「未知の技術で解明にはかなりの時間を要する」という回答しか得られない状況。


 この調査結果と施設の内部から搬出されたレプティリアンの遺体や彼らが用いていた装備などを検証した結果が米軍の首脳部にもたらされる。もちろんごく一部の幹部しか知らされない極秘情報として政府の現政権についてはあっさりとスルーされて、次期大統領の座に就任が決まっているジョーカー氏の元に調査の状況が届けられる。


 当然この情報は政権移行チームの幹部たちの知るところとなり、次期政府としていかように取り扱うべきかという話し合いが行われて、結果をまとめた内容が次期首席補佐官からジョーカー氏の元に届けられる。



「…ということで、いまだ解明されていない部分が多数という状況ではありますが、地下施設に残された様々な技術は百年後の我々が到達できるかどうかというレベルにあって、文字通りの宝の山という結論が出されました」


「なるほど、この技術をより正確に解析すれば合衆国の技術水準は一気に百年進むということか」


「確かにそのような見方も出来るでしょうが、大統領は大事な観点をお忘れです」


「大事な観点? それはどういうことだ?」


「敢えて断定は致しませんが、この地球上にはレプティリアンの超科学技術を打ち負かす存在が実在するという点です。いくら百年後の技術だといっても千年後の技術には太刀打ちできません」


「君は慎重なものの言い方をするんだね。ならば私から敢えて口に出そうか。その存在というのは日本で間違いないだろう」


「はい、私のチームの分析でもそのような結論しか導き出せませんでした」


 そもそもこの地下施設に関する情報をもたらした先は岡山室長という点で確定している。国防情報局長官のオコーネルとのビデオ通話で「地下施設にあるすべての物品や構造物に関しては米国に帰属すると日本政府は認める」という直々の断言が国防総省の記録に残されている。


 それだけならまだしも岡山室長は「レプティリアンの技術に興味はない」とまで述べている。これは米軍にとっては敢えてこのような内容を口にする室長の意図がどこにあるのか理解しがたいところかもしれない。というよりも本当は勘付いているのだが、理解してないフリでなるべく考えないようにしていると言ったほうがいいのかも。これは1世紀以上に渡って超大国として国際社会に良くも悪くも君臨してきた米国のプライドが影響しているのだろう。


 これだけならまだしもの話だが、中国、ロシア、韓国、北朝鮮という4か国連合を相手取ってわずか1週間で軍事施設とその関連の工場とを一切合切破壊し尽くした点を考え合わせると、日本はこれまでの常識ではありえない超高度な技術をその手にしているとしか考えられない。もちろんこの件に関しては日本政府は一切公式に認めたわけではない。


 このような状況証拠も考慮に入れた上で、次期首席補佐官が率いる政策検討チームの導き出した結論が次期大統領に伝えられている。まあ実際に地下施設の遺体収容や瓦礫の除去に携わった兵士たちでさえも直感的に導き出した答えなので、次期大統領のブレーンがこのような回答に辿り着くのは当たり前の話かもしれない。


 さらに補佐官は続ける。



「大統領、TR‐3Bはご存じですよね」


「もちろんだよ。私の第1次政権の時に就役したんだからね」


「すでに実戦任務にも幾度となく出撃していますが、先日ユタ州の上空付近で謎の電波を発する未確認の飛翔体が出現いたしまして。その際にTR-3Bがスクランブルに出たのですが、いとも簡単に振り切られて行方をくらまされました」


「あの機体は優秀なレーダーを装備しているはずだったが?」


「それでも何も発見できずに帰投せざるを得ませんでした。しかも謎の電波を捉えたのはユタ州ですよ。これが今回の件と関連があると考えるのが正解のような気がしまして」


「ということは、日本はTR-3Bを上回る飛翔体を保有していると言いたいのかね?」


「4か国連合の軍事拠点があっさりと壊滅した事実に対する説明がつきます。要するに日本は現状世界最強の軍事国家であり科学技術大国なのです。これは我々がレプティリアンの科学技術をすべて解明したところでまったく覆らないほどの途轍もない格差と考えて間違いないでしょう」


「そうか… 我々もこの後の行く末を色々と考慮せねばならないようだな」


「その通りです。文字通り合衆国はこれまでの覇権国家ではなくなります。この先世界をリードするのは間違いなく日本でしょう。厳しい言い方をするならば、もしも日本に逆らえばいくら合衆国と言えども4か国連合と同様の運命が待っていると考えるしかないです」


「そうか… 覚悟はしていたが、パクスアメリカーナの時代は百年で終焉を迎えるというわけだな。ただし唯一の救いは次の覇権国家が日本という点だ。彼らは極めて理性的だし、話をしっかりと聞く度量を持っている。こちらが友好的な態度で臨めば高圧的に振る舞うとは考えにくい」


「その通りです。ですから大統領はくれぐれも現政権のように道を誤らないでいただきたい。彼らのように日本を敵に回すなど国家としての自殺行為だと肝に銘じる必要があります」


「君の主張は理解したよ。元々私は日本の指導者には好感を持っている。大統領に就任したら、まずは国内改革と並行して日本との関係改善を推し進めるとしよう」


「日本はいまだ多くの謎を隠しています。くれぐれも慎重に、かつ大胆に現政権からの政策の変更を進めていきましょう」


「ああ、今回の件はおそらくこれまでの中で君がもたらした最重要の情報だろう。心して取り掛かるとしよう。まだ就任前ではあるが、私の個人的なツテで日本政府と接触を図っておくよ」


「パーフェクトです。国内と国外で同時に大きな問題の解決に直面しておりますが、これまでの常識が全く通用しないレベルで世界が動き出しています。どうか合衆国の舵取りをよろしくお願いいたします」


「ああ、最初からそのつもりで老体に鞭打って大統領選に出馬したんだ。アメリカ合衆国という偉大な国が今後も存続するように力を尽くすさ」


「それでは日本に関する気になる情報が入りましたら直ちにお知らせいたします」


「そうだな… 最優先で頼む」


「それでは失礼します」


 こうして首席補佐官は次期大統領の執務室を去っていく。ひとり残された次期大統領は過去の常識がまったく通用しないこの先の世界情勢に大いに頭を悩ませるのだった。

 

 

眠っている間にジジイは第2形態に進化するし、アメリカはアメリカで日本との関係に頭を悩ませるしで、各地でいまだにレプティリアンの地下施設強襲が尾を引いているようです。次回の舞台は久しぶりに魔法学院に戻って学期末の恒例行事からスタートの予定。勘のいい方なら「ああ、あの時期か」とお分かりになるはず… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!


最後に皆様にいつものお願いです。


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