10話 白銀の光
「な、なんなんですのその剣は!」
「そんな驚くこともないでしょ? これはただの聖剣よ、真の聖女が祈りを込めただけのね。」
「ミリィ、アーリアルだよ。聖剣じゃないよぉ〜。」
えっと、今いいところなんだから剣の名前なんてどうでもいいでしょう・・・。
「まぁ、そういう事よ。この剣はアーリアル、精霊を御する力がある剣よ」
「そんなバカな、聖剣アーリアル? そんな物があるなんて聞いた事がありませんわ!」
アリスが遠くで『聖剣じゃないんだけどなぁ』とか言っているが今丁度熱い場面だから!
「それはそうでしょ今初めて使っているんだから。」
「初めてですって!? いったいどこでそんな物を手に入れたって言うんですの!」
いちいちうるさいわね。適当に誤魔化そうかと思ったけれどレガリアの技術力で脅しておくのもいいかと思い教えてやる。
もっともこのアーリアルは未完成品、アリスが今の知識で試しに祈りを込めた試作品にすぎない。
(それにしても思った以上にすごいわねこの剣)
「何も驚く事はないでしょ? あなた達がその笛を開発したように、私たちレガリアにも聖剣を作る技術を編み出しても何も不思議じゃないでしょ? もっとも、その笛は聖女の力を持つ者にしか使えないようだけれどこの聖剣は一介の騎士でも使える。ただそれだけの事よ。」
「くっ。」
私の言っている意味が分かったのだろう、もし再び戦争が再開された場合聖女は離れた処から笛を吹いただけで敵にとっては驚異だ。
だけど一兵士が全員その対抗手段があったとすれば前線まででている聖女は恰好の餌食であろう。
恐らくロベリアとしてはドゥーベ軍の切り札として精霊の力を見せびらかしたかっただけなのかもしれないが、こちらにも対抗手段があると知らしめる好い機会だ。ロベリアの事だ危険な目に会うのが分かっていてわざわざ前線まで出てこないだろう。
こちらにある聖剣はこの一本だけなのだから。
この剣は大量生産ができない、作るにあたりアリスの血が必要なのだ。以前の私のように刀身全体を血で濡らすほどの量はいらないけれど、それでもアリスを傷つけることには違いない。
アリスは自らの血で刀身にある古代文字を書き綴った。その文字がなんて書いてあったのかは分からないが、その後三日間アリスは祈りを込め続けて出来たのがこのアーリアルなのだ。
「さぁ、そろそろ決着をつけましょうか。」
「い、いい気にならないで! 見えない攻撃をいつまで躱し続けられると思わない事ね。」
ヴィーー!
「だから、躱す必要ないんだって。」
ロベリアが無意味に鳴らし続ける笛に合わせ、迫ってくる精霊を切りまくる。
今になってアリスの言っている意味が分かったわ。
私が切り裂いたあとの精霊が穏やかな雰囲気に戻っている。
恐らくあの笛の音色で一時的に精霊が混乱でもしているのだろう、それをこの真の聖女の祈りを込められた剣で切り裂くことで正気に戻る、そんな処だろう。
「な、なんなんですのその剣の力は。」
「何度も言わせないで、偽りの聖女が真の聖女の力に敵うはずないでしょ!」
再び迫る精霊を切り裂き力ある言葉を紡ぎだす。
「烈風!」
上段から振り抜くと同時に私の言霊を重ねる。
突如吹き抜ける猛烈な風に一瞬の踏ん張りも虚しく後方に飛ばされるロベリア。
このアーリアルに隠されたもうもう一つの力。
アリスは最初邪霊に対抗できるためだけにこの聖剣作りは始めた。だけどその過程である発見をしたのだ。
刀身にある種の文字を書き込むことで使用者と相性のいい精霊の力を具現化させることができる言わば魔法剣。
アリスが言うには私は風の精霊と非常に相性がいいらしい、そのため刀身には風の精霊の祝福が込められている。アリスの祈りの力で。
力の発言方法はいたってシンプルだ、具現化させる為のキッカケと短略化された言霊を紡ぐだけであの効果だ。
ついでに言うならアリス自身は全ての精霊と相性がいいらしい、さすがは真の聖女というところか。本人は未だ聖女だと思っていないけど。
今私が使ったのは『烈風』は強風を起こすだけの技、カマイタチのように切り裂く技もあるが流石にそこまでは必要ないだろう、これで勝負は決まったのだから。
「さぁ、私の勝ちよ。」
ロベリアに近寄り剣先を首元へと近づける。
「だ、だれが負けなんて認めるもんですか! そもそもそんな剣なんて反則ですわ。」
「この剣が反則なら、あなたが使っている笛はどうだと言うのよ。」
この子自分が何言っているのかわかってるのかしら。
「仕方ないわね、少し痛いけど我慢しなさいよ。」
ロベリアの事だから恐らく何を言っても負けを認めないだろう、だったら近距離の烈風で気絶させようとと思い再び剣に力を込める。
「ひぃ。」
「ふざけんな!」
突然左の方から雄叫びをあげながら迫ってきたシオンに一瞬どまどってしまう、だけどその一瞬が致命的だった。
利き手じゃない方向からのせいで咄嗟に対応しきれない、シオンが持っているのは木剣だがあの大きで上段からの振り下ろされれば怪我だけでは済まないだろう。
(私としたことがミスったわね。)
迫り来る木剣を眺めつづけ、次に起こるであろう衝撃を覚悟した。
「ぐわぁっ」
だけど来るべき衝撃がこず、逆にシオンの呻き声が聞こえ遥か後方に吹き飛ばされている姿が眼に入る。
何が起こったの?
「いい加減にして!」
沈黙の中響き渡ったのは白銀の光に包まれたアリスの声だった。