8話 大将戦
「これで二勝、私達の勝ちね。」
「あら、逃げるんですの?私くし達の勝負がまだ終わっておりませんわ。」
ミリィの勝利宣言にロベリアさんが何を言ってくるかと思えば勝負が付いてないって?3戦なら先に2勝した方が勝ちに決まってるじゃないですか。
「何言ってるんですか、もう2勝したじゃ・・・」
「あら奇遇ね、私もそう思っていたのよ。」
って、ミリィ何言ってるの!
私が文句を言いかけたら、横からミリィが邪魔をしてロベリアさんの挑発に。乗っちゃダメだから!
「ミリィ、もう私たち勝ったんだよ。ミリィが戦う必要ないじゃない。」
「そうですわ、ミリィ様もう少し冷静に、ひぃ」
私とリリスちゃんが止めようとしたら、ミリィ、目が笑ってないんです・・・。めっちゃコワイよ!リリスちゃん怯えさせてどうするの!
「もしかしてミリィ、怒ってる?」
「私が?ふふふ、怒ってないわよ。散々バカにされたり、レガリアが負けただの言われたり、アリスをもらうだの言ったり、デカイ口をたたいた上まさかこんな雑魚だとは思わなくてね。ちょーっとストレスが溜まっているだけだから。」
「ひぃ!」
それ十分怒ってるから!ロベリアさんもさすがに怯えてるよね!
「い、い、いいですわよ。私くしも本気で参りますから。」
「へぇ〜、本気ね。じゃどうせなら真剣でやりましょう、その方が手っ取り早いわ。」
「ななな、真剣って何いってるんですの!」
「あぁ、心配しなくても自分で傷ぐらい直せるんでしょ?あなたが負けたって言うまで付き合ってあげるわ。」
ミリィちょっと何怖い事言ってるんですか!?仮にも次期聖女様なら傷ぐらい直せるでしょうけど、それって怪我させるの前提じゃないですか!
「おいおい、いくらなんでも真剣は・・・」
「アストリアは黙ってなさい。これは私とロベリアの試合よ。それに最初に言ったわよね、両者が認めればどんな武器を使用してもいいって。」
た、確かに言ってたよね。もしかして初めから真剣で戦うつもりだったの?でもミリィの持ってるその剣って。
「まさかドゥーベの王女様ともあろう者が逃げるなんて言わないわよね、自分から振って来たんだもの。まさか今更怖くなったってありえないわよね?」
「あああ、当たり前ですわ、私を只の王女だと思っていたら痛い目にあいますわよ。」
ロベリアさん、自分が振ったもんだから断るに断れないって感じです。プライドの塊だものね。
「ミリィ大丈夫なの?」
「大丈夫よ、だいたいの予想が付いていたからこれを持ってきたのよ。逆にこれがないと私が不利になるわ。」
ミリィが私にしか聞こえないように話しかけてきた。
怒って挑発してたのは考えがあっての事だったんだね、私てっきり本気で怒っていたのだと思ってたよ。
「うん、わかった、でも注意してよね。」
「うふふふ、さぁどこから刻んであげようかしら。」
あ、あれ?怒っていたフリ・・・をしてたんだよね?
「アリス様、ミリィ様は大丈夫なんですの?」
「ミリィ様ちょっと冷静じゃないんじゃない?」
リリスちゃんとルテアちゃんがこっそり私に話しかけてきた。今ミリィに聞こえるとちょっと怖いもんね。
「多分大丈夫、だと思う。けど・・・。」
私たちの心配をよそに、ミリィとロベリアさんの試合が始まった。
ミリィが持つのは細身の長剣1本、対するロベリアさんはレイピアを持って対峙されています。
試合開始と同時にミリィが仕掛けていきます。
ミリィの剣閃がロベリアさんが持つレイピア横腹に激突、切りつける細剣に対しレイピアは突きに特化した武器ですから、剣の打ち合いにはロベリアさんが不利な感じ。
でもどこか不敵な笑みが気になるんですが・・・。
そんな事を思っていた時でした。
ロベリアさんが一瞬の隙を付いてポケットから何かを取り出したんです。
ピィー
すかさずミリィがロベリアさんから距離を取ったかと思うと、服の一部がスッパリと切り割かれていたんです。
「おい、今あいつ何をしたんだ?」
「暗器じゃないな、何だあれは。」
アストリア様とジーク様もロベリアさんが何をしたのか分からなかったみたい。
「何かを隠していると思っていたけれど、まさかそんな物があるなんてね。初めて見たわよ。」
「あら、これはドゥーベが開発したアイテムですもの、蛮族の国なんかにあるわけありませんわ。」
ロベリアさんが手に持っていたのは何かの金属でできた笛だった。
「笛?あんなんで何ができるってんだ?」
アストリア様が不思議がるのも無理はありません、わからない人には何が起こっているのか知る由もありませんから。
でも私には分かる、おそらくこの中で理解しているのは聖女の血を引くミリィとロベリアさん、そして私だけだ。
「あの笛の音色は精霊を無理やり意のままに操る道具だと思います。」
そう、精霊は言霊という歌、メロディーで話しかけて力を借りる。
だけどあの笛の音色は一瞬だけ精霊を混乱させてしまう効力があるみたい、その混乱している間に無理やり操っていると思われる。
もちろん精霊を扱えるロベリアさんだからこそあの笛が使えるんだと思う、だけど精霊たちが怯え怖がっている。あの笛の音色せいで一瞬でも正気を失ってしまうんだもの、怖いに決まっている。
「わかるのか?」
アストリア様が私たちだけに聞こえるように聞いてきました。
「はい、あの笛の音色で精霊を操ってミリィに攻撃をしかけているんです。たぶんですが、笛の音の大きさで操る精霊の量、威力が変わるはずです。」
「おいおい、ミリィには精霊が見えないんだろう?どうやって避けるんだよ。」
アストリア様は精霊のことを何もわかっておられないようです。そもそも精霊は見えないんです。
恐らく歴代の聖女様たちでさえ見えた方はいないはず、見えるようになるとすればそれは邪霊になってしまった時。
精霊は見るのではなく存在を感じるもの、今だってこの空間に精霊たちが漂っているんですから。
「大丈夫です。ミリィは初めからロベリアさんが精霊の力を使うと思って真剣での戦いを選んだんだと思います。」
だってあの剣は・・・。
次話 「アーリアル」