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エタらないように頑張るよ(震え声)
――なんだ、この豚面は……!!
それが、私が鏡を見て発した一言だ。転生? トリップ? 憑依? どれだろうと構うものか。人生をドロップアウトするしかないであろうド畜生の通り魔に殺された身としては、生きているだけでもありがたい。
だが、それを差し引いてもこの醜悪な面はいただけない。ぶくぶくと豚のように肥え太った顔は、今世の記憶にあるオークの顔と同格と言える酷さだ。ぽっちゃりしているだけならいいが、顔にむくみがつき尚且つ肌も荒れ放題。絶世の美男子などとは口が裂けても言えない前世であったが、男前といえばそれで通じるくらいには普通以上の容姿だったのだ。それがこんな豚になってしまうとは、最早悲しいを通り越して卒倒してしまいかねない事実だ。
加えて今世の記憶を辿れば山のように出てくる恥知らずな言動の数々。そのあまりの身勝手さに我がことながら憤死してしまいそうになった。家臣団の治癒術師がいなければ本当に逝ってしまっていたかもしれない。
正々堂々、清廉潔白でもって突き進んできた前世と比べて、今世はあまりにも卑怯に過ぎた。自分で得たわけでもない権力を振りかざし、学園内で横暴を極め、果ては正論を言う生みの親にすら暴言を吐く。そんな、前世で嫌悪していた『実力もないのに偉ぶる人間の屑』と同じことを、自分は今世にてしていたのだ。これほどまでに自己嫌悪を感じたことはない。
アンジェリカ・フォン・アルセシュタインという子豚女の話をしよう。その馬鹿で高飛車な豚面女は、見るに堪えない醜悪な容姿と、聞くに堪えない響きの濁声。加えて自分が世界の中心であるかのような尊大な態度の持ち主である。平民・貴族問わずに教育する『学園』において、もっとも面倒でもっとも厄介な問題児であった。
気に入らない生徒を苛めるだけに限らず、結果を出せていない教科の成績を教師に強請る。教師が断れば親の力でもって罷免に追い込もうとする。そんな、誰からも好かれないであろう『害悪』。
そう、そんなとんでもない人間に生まれ変わり、階段で躓いて頭を強打。一週間の昏睡の後、前世の記憶と人格を取り戻したのがこの私だ。正直、今世の記憶を覗いているとそのまま死んでおけよと思わなくもないが、これが自分のことなのでなんとも言えない。
が、そうして悲観的になっていても意味がない。女体化云々のことも後回しだ。横になっていた実家のベッドから下り、机に向かう。引き出しにあった手記――10歳のころプレゼントされたが一切使っていない――を取り出し今後こなしていくべき事柄を、日本語で書き出していく。ダイエット、魔法の鍛錬etcと書き込む内容は事欠かない。一通り書き出して、最後にこう付け加える。
――『学園』の休学。