トリック・オア・トラブル
前回テーマソングとか書きましたが、AI作曲の歌詞はとくべつ本編と関わりありません。
「Hello world!」の方でなんとなく、登場人物をイメージした男性一人と女性二人のコーラス編成にしたかったというだけです。
気が向けば聴いてみてください。URL貼っておきます。
Science Fantasy
https://youtu.be/L_4AxsoOb1g
Hello world!
https://youtu.be/OHzht0OTssM
ティル姉を襲ったやつらの気配は、校門あたりから動こうとしない。
いったいなにが目的なのか。
ちなみに、今日の学園祭にティル姉はきていない。
「えぇぇぇ、いやだいやだ!わたしも行きたいよお」
「なに子どもみたいに駄々こねてるんだよ」
「だってだってえ。ハヤトくんやアルマちゃんの活躍を、ちゃんと撮影しとかないとライブラリーが」
ライブラリーという名の黒歴史を、ストックするのはやめてくれ。
「学園祭なんて、だれでも出入りできる一般開放なんだから危険だろ。この前みたいに襲われたらどうすんだよ」
「だいじょうぶ、コハクちゃんが護ってくれるよ」
「ヴァウ!」
魔狼事件以来、すでに朝霞家の家族同然となったコハクが「まかせろ」とばかりに声を上げる。
「残念だけど、うちの高校はペット禁止だ」
「……クゥ」
親狼のラウェルと違って、まだ魔力にめざめていないコハクは念話が使えない。けれど人の会話はしっかりと理解しているみたいなんだよな。
「というわけで、学園祭の日は家で留守番ね。いちおう親父もいっしょに居てくれるはずだから」
「うぅぅぅぅ」
そんなこんなで、ティル姉はいまごろ家にいるはずだ。彼女がいっしょに暮らすようになってから、念のために設置した魔力センサーも起動していない。
ならば、なぜ襲撃犯たちがここにいるのか。
まさかターゲットを、ティル姉の家族にきりかえたのか。
陸自の小鷹さんや外事の佐竹さんの話では、まだ背後関係は確定していないものの国家クラスの組織が関与しているのは間違いないらしい。だとすると、ティル姉の現住所や同居人なんかはすぐに割れているだろう。
しかし、それなら新たなターゲットのひとりが異世界転移者で、しかも剣聖なんていう未知数の戦闘力を秘めた人物であることもわかるはずだ。
人質にするにしても、わざわざ難易度を上げるか?
外の気配に注意しながら、そんなことを考えていると、教室内で新たな動きがあった。
アルマにまとわりつく少年に、クラスメートのひとりが注意をしにいったのだ。
「ごめんね、きみ。いちおうルールだからさ。ポーカーやりたいなら、こっちに座ってくれるかな」
そう言いながら少年の肩に手を置こうとした途端、クラスメートはきれいにひっくり返った。
伸ばした手を中心に、空中で一回転させられたのだ。
そのまま床に衝突しそうになった身体を、とっさに支えたのは榛名雅晴だった。一年生ながらサッカー部のエースであり、相沢陽菜を守りたい一心で護身術を極めた彼が、間一髪でクラスメートを受け止めた。
「だいじょうぶか?」
「あっ、ああ……」
いま、なにがおきた──。
小学生が体格差を無視して高校生を投げた?
いや、見ていたかぎりでは、小学生の方は指一本動かしていなかった。
まるでアクロバットのように高校生の男子が宙を舞ったのだ。
それはまるで、魔法のように──。
(いまの、なに)
(あの小さい子が投げとばしたの?)
(そんなの無理でしょ)
あまりに一瞬のできごとなので固唾をのんだように沈黙していた教室が、ざわざわと動揺しはじめる。
なんとなくやばい雰囲気になりそうななか、おれはアルマに声をかけた。
「アルマ、その子の相手してやってくれ」
「えっ、でも」
「まあ参加型の特別イベントということで。いいよな、委員長?」
相沢の方を振り返ると、彼女はなにかを察したようにうなずく。
そして榛名を呼び、ふたりで相談をはじめた。
どうやら、手の空いている男子生徒を呼んで教室に配置するらしい。
「じゃあ栗林さん、ディーラーをお願い」
「は、はい」
委員長に指名されたのは栗林鈴花。このあとアルマとディーラーを交替する予定だった女子だ。
ゆるやかにウェーブしたミドルヘアと丸顔のやわらかな表情は、シャープな印象のアルマとは違った愛嬌がある。さらに対象的なのはプロポーションだ。おなじユニフォームなのに胸部と腰部の強調ぶりが段違いだ。
これは、たとえディーラーが交代になっても、客足が遠のくとは思えない。
少しばかり場の空気に圧倒されながら、彼女はポーカーテーブルに向かった。
少年とアルマは、すでに席についている、
「じゃあ、はじめるね。ルールはだいじょうぶ?」
カジノでのポーカーといえばテキサス・ホールデムというルールが主流なのだが、すこし複雑で時間もかかるため、ここではシンプルな家庭用ルールを採用している。
参加者は、まずチップを一枚ずつ場にだす。手札を確認したあと、ディーラーの左から順にチップをかけていく。レイズでチップをつりあげる人がいなくなれば、最後にカードをチェンジ。もっとも強い役をつくった人が勝者として総取りする。
「じゃあ今回はチップ10枚ずつで、先になくなった人の負けね」
「うん。それよりさ、お願いがひとつあるんたけど」
「なに?」
「ぼくが勝ったらさ、お姉さんデートしてよ!」
少年は、アルマの方を向いて言い放つ。
一瞬、クラスメートの男子たちから、まるで殺意のような気配がわきたった。
転入してきて以来、彼女の人気は青天井なのだ。
アルマとのデート権を景品に。アミューズメント喫茶の企画をつめていたとき、冗談めかしてそんな提案があった。しかし相沢委員長が「学校中が死闘になるわよ」と断言して却下したのだ。
「デート、わたしとですか?」
「そうそう」
「残念ですが、このゲームでの勝敗はチップのやりとりだけですので」
「えぇえ。もしかして、なにか警戒されてる?ならそこのお兄さんもいっしょで良いからさ」
そういって少年は、今度はおれの方を向いて指さしてきた。
「見たところ、ふたりは仲良さそうだし。ぼくもその方が楽しめそうだからさ」
いったいなにを楽しむというのだ。
困惑げにこちらを見てきたアルマに、おれは首を振る。
こんなところで下手に言質をとられるのはめんどうだ。
「申し訳ありません。わたしだけならまだしも、ハヤトまで巻き込むわけにはいきませんので」
「そっかあ。まあいいや。じゃあゲームをはじめようよ」
「あ、はい。ではいきますよ」
あっさり引き下がる少年を見ていた栗林さんが、あわてたようにシャッフルをはじめ、ふたりの前に5枚のカードを配った。
アルマほどではないが、それなりに練習してきたような手際だ。
「ベット」
テーブルの位置的に先順となったアルマが手札を確認し、コイン一枚を追加してスタート。
ラウンドチェアで足をぶらぶらさせている少年は「う~ん」と考えてからチップ2枚を手にした。
「レイズ」
そのままアルマは「コール」を宣言。自分の手札から3枚を選んでカードを交換した。
しかし少年は、カードを交換しようとしない。というか、まだ配られたままの状態でテーブルに伏せられている。
「交換しないのですか?」
「あっ、いいよ。このままで」
「……ではオープンします」
テーブルに公開されたアルマの手札は、ツーペアだった。
それを見た少年も「はい、はい」といいながら手札をオープン。
ダイヤのフラッシュだ。
「よしっ。ぼくの勝ちだね」
ディーラーからチップを受け取りながら、少年は無邪気にはしゃぐ。
しかし、勝負を見ていたギャラリーには、まるで手品か奇術のような一幕だった。
チェンジなしでオープンされた手札がフラッシュ。
……いったいどんな確率だよ。ふつうならイカサマを疑うところだが、少年はカードに手を触れていない。
おかしいと声をあげようにも、その自分自身が無実の目撃者であり証人なわけだ。
「で、では、次いきますね」
重苦しい空気の中で、栗林さんは懸命に明るくつとめてカードをシャッフルする。
アルマに配られたカードを背後から確認すると、最初からスリーカードだ。
「ベットします」
かなり強力な手札だが、彼女は淡々とゲームをプレイする。
「よしよし、わかってきたぞ。それじゃあ終わりにしようか。レイズ」
そう言って少年は6枚のチップを積み上げた。
アルマが勝負するには、手持ちのすべてを賭けなければならない。
いくら手札が良くても、チェンジの運が悪くて負ければ終わりだ。
「コール」
それでも、アルマは平然とチップを追加する。
そのうえで、交換した2枚のカードがワンペアという、これまたとんでもない強運をひきあてた。スリーカードとあわせてフルハウスの完成だ。
しかし、彼女の強力な手札を見ても、少年はあいかわらずにこにこ顔を崩さない。どこか自信満々という感じで、配られたままの手札をオープンする。
「じゃあ、はい!」
そこにあるのは……。ストレートフラッシュだった。
(おおおお)
(まじ?)
(すげえっ)
(いったいどんなトリックだよ)
今度こそ、いっせいに教室中がわきかえる。
半信半疑だった奇跡が、あらためて目の前に再現されたわけだ。
テーブルに置かれたダイヤの9からKまでのカード。惜しくも9がAだったらロイヤルストレートフラッシュだが、それでも充分な結果に違いない。少なくともフルハウスより強い役だ。
しかし、全員の視線がテーブルに集中する中で、さっきまで笑顔だった少年の様子が変わっていた。
自分の手札を驚いたような顔で凝視している。テーブルの上に置いた手が、よく見ればぷるぷると震えている。まるで「こんなはずじゃない」と言わんばかりに。
そして、はっと気づいたように顔をあげると、こちらを睨みつけてきた。
おれは、なにくわぬ顔でその視線を受け止める。
「……ふうん。そういうことか」
少年は、また元通りの笑顔をはりつけて視線をもどした。
「はい。今回の勝負はきみの勝ち!おめでとう。みんなも拍手よろしく」
パチパチパチと、周囲から拍手が巻き起こる。この勝負が真剣だったかどうかはともかく、だれもが特別なマジックでも見せてもらえたような満足感につつまれていた。
「それでは、これで特別イベントは終了で~す。あっ、きみが勝ったチップは好きなものに交換できるからね。こっちきて、こっち」
イレギュラーなハプニングだったにもかかわらず、栗林さんが妙に手慣れた司会スキルを発揮する。それでいて張本人の少年を、とっとと衆目から遠ざけていく。
人材豊富だな、うちのクラス。
そんななか、アルマがいつものようにおだやかな表情でこちらにやってきた。
そして、小声で話しかけてくる。
「なにか、わかりましたか?」
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