表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

そして祭りは、はじまった。

新章の構成を迷っていて、時間があいてしまいました……。

などと言い訳しつつ、ほんとのところは作曲AIにはまっていたりして。

ちなみに、この小説のテーマソングでも創ろうかなと遊んでみたので、

気が向けば聴いてみてください。URL貼っておきます。


https://youtu.be/L_4AxsoOb1g

https://youtu.be/OHzht0OTssM






「朝霞くん、コーヒーできてる?」


 エプロン姿の女子がひとり、調理実習室の扉を勢いよく開けて入ってくる。

 調理部の副部長である片瀬莉奈だ。

 よほど急いで走ってきたのだろう、こちらを見たまま肩で息をしている。


「ああ。残り10杯分、そこに用意してあるよ」


 実習室のコンロにかけているパーコレータの様子を見ながら、おれはテーブルの電気ポットを指さす。


 「ありがとう!いやあ、ほんと良い香りだよねえ」


 いまもポコポコと音を立てているパーコレータからは、コーヒーの心地よい香りが立ち上っている。朝からずっとドリップしているので、実習室は喫茶店さながらの香りにみちている。


「最初は、インスタントで良いかと思ってたんだけどさあ。やっぱ、こっちの方がスペシャルだよね!」

「うちの幹事が予算管理に厳しいので、コスト優先のブレンドだけどな」

「いやいや、お客さんにも大人気だよ。おかげでセットメニューが売れまくりだしねえ。今年の学園祭でのカフェは大成功まちがいなし!」


 そう、今日は県立一ケ(いちがせ)高校の学園祭の日だ。

 見慣れた正門には『第68回 一光祭』というアーチが掲げられ、玄関から廊下にいたるまで、どこもかしこも色鮮やかなバルーンやフラッグ、オブジェなどで装飾されている。

 しかも一般公開なので、在校生の家族はもちろん他校の学生や地元の人たちも訪れる。キャンパスは、いつもと桁違いの人口密度だ。


 高校中が年に一度のお祭り状態のなか、ではなぜ、おれはひとり調理実習室にこもっているのか。

 それはクラスで出店している「アミューズメント喫茶」のメニューであるコーヒーを淹れるためだ。

 このアミューズメント喫茶は、もともとカジノ喫茶として企画されたので、ふつうの喫茶店とはすこしシステムが異なる。

 来場者には、500円の入場料と引き換えにチップを10枚手渡す。それを自由に使ってドリンクを注文したり、カードゲームなどの遊戯を楽しんだりできるわけだ。ゲームに勝利して増えたチップは、枚数に応じた景品とも交換できる。まあ景品といっても駄菓子程度だが。


「チップは来場者の間でしか増減しないから、仕入れとコスト管理を間違わないかぎり主催者側は赤字にならない」


 これは、この模擬店において幹事となったクラス委員長・相沢陽菜の言葉だ。


 そういうわけで、ドリンクメニューのひとつであるホットコーヒーを安く準備するため、おれは朝から調理実習室にこもっていた。

 男手という便利な言葉で肉体労働にかりだされるぐらいなら、あらかじめ現場から避難しておくにかぎる。その判断から、この役目を引き受けた。


 そんなおり、おなじく調理実習室を利用していた調理部から、予想外の外注が舞い込んだ。50食限定で用意するスペシャルランチの選べるセットとして、コーヒーの提供をお願いされたのだ。あらかじめ用意していたコーヒー豆には余裕があったし、ミルも持参している。なので30杯程度なら、ということで了承した。


「そのパーコレータとかいうやつ?ふつうのコーヒーとは味が違うよね」

「ああ、ペーパーフィルターより目が粗いからな。コーヒーオイルもしっかり抽出されるんだよ」


 コーヒーのドリップ方法はいろいろあるが、パーコレータはハンドドリップやサイフォンに比べてオイル成分がろ過されすぎないため、豆本来の味がわかりやすい。ただしコーヒー粉が残りやすいので、人によっては味や舌触りが粗野だといって下に見られることもある。

 個人的には一長一短、いわば好みの問題だ。焙煎の深さやミルの細かさなどをきちんと調整し、コーヒー粉ができるだけ混じらないよう注ぎ方に注意すれば、他では味わえない独特の奥深さを楽しめると思っている。


 なにより、いちどで多くのコーヒーを淹れられるうえ、加熱しながらドリップするので、熱いうちにポットに移せば保温がしやすい。

 大人数分を、あらかじめ準備しておかなくてはならない場合には最適なのだ。


「それじゃあ、もらっていくね。報酬はあとで精算するから」

「売上が好調ならボーナスも期待してるよ」

「いやあ、バリスタさまは手厳しいね。でも時間あれば、朝霞くんも見にきてよ。しっかりサービスするから!」

「あいよ」


 ふたつの電気ポットを両手に提げて、片瀬はまた急いで調律実習室を出ていった。


 メイドカフェでもあるまいに、いったいどんなサービスをしてくれるのやら。

 たしかチラシには「女子高生の手作りメニューでおもてなし」とか、ハートマークつきでわざわざ書いていた。片瀬もそうだが美人揃いといわれる調理部だけに、なにかしら仕掛けがあるのかもしれない。

 よし、いってみる価値はあるな。


 そんなことを考えながら、使用したパーコレータを水洗いする。

 テーブルの水切りにケトルやバスケット、ストレーナーといったパーツを立てかけてから、淹れたてのコーヒーをおさめた電気ポットを両手に携えて教室の方へ向かう。


 午後からは、あらかじめドリップ方法を特訓したクラスメートと交替する予定だ。学園祭を見て回るぐらいの余裕もあるだろう。


 調理実習室を出ると、校内にあふれる喧騒が一気にボリュームアップした。

 プラカードを掲げた着ぐるみや、コスプレした生徒たちが陽気にPRしながら廊下を歩きまわる。さらに体育館の方からは、ステージで演奏するバンドの音も聞こえてくる。そのほか雑多な喧騒もあわさって、繁華街よりも賑やかな校内。


 まだ正午前だというのに、祭りはなかなかに盛り上がっているようだ。


 さまざまな実習教室が集められた実習棟から渡り廊下を伝って。3学年27クラスの教室がある教室棟へ。

 特設ステージが用意されたグラウンドや、露店もならぶ中庭。その活気を窓から眺めつつ、のんびりと自分の教室までたどりつく。


 すると教室の入口前に、なにやら人集りができていた。

 遠目からでも明らかにわかるような混雑ぶりだ。

 クラスメートたちが何人かで通行整理までしている。


(いったいなにごとだ)


 おれは人集りをくぐりぬけ、関係者専用となっている教壇側の入口から教室に入った。入場料をもらう関係から来客用の出入口は教室の反対側に限定している。

 ドリンクメニューの交換カウンターにもなっているバックヤード。そこでは永遠の委員長とも呼ばれる相沢陽菜、このイベントの幹事役が、あいかわらずの平静さをなんとか保ちつつ在庫をカウントしていた。


「すさまじい盛況だな」


 電気ポットをテープルに置きつつ声をかけると、彼女は大きなため息をつきつつ振り返った。


「わたしとしたことが、少しばかり想定外よ」

「おまえが弱音を吐くとは、そりゃたいそうな想定外だ」

「予想では来客のピークは午後の1~3時あたりなのだけど、このままだと用意したメニューの大半で品切れ続出ね。交換するチップの数も足りないので、追加交換は急遽禁止にしたわ。すこしでも滞留時間を減らさないと、入口の渋滞がひどすぎて実行委員会からクレームがきそうよ」

「入口をひとつにしたからなあ。客の出入りがぶつかっちまったか」

「それもそうだけど、人集りのほとんどは廊下からの立ち見よ」

「立ち見?」


 たずねたおれに、相沢は無言のまま、教壇を利用したポーカーテーブルを指さした。


 アミューズメント喫茶といいつつ、教室内に飲食用テーブルはほとんどない。壁際に申し訳程度のイスが数脚ならべられているだけで、メニューもドリンクだけのテイクアウト形式になっている。

 ほとんどのスペースは、マグネットダーツやミニルーレットなどの遊具で占められている。そのなかでもメインステージとして凝ったのがポーカーテーブルだ。


 そして、ここにいる連中の視線がほぼすべて、このポーカーテーブルに集中していた。

 いや、正確には、壇上でカードを配っているディーラーに、だ。


 なにを隠そう、いまディーラーを務めているのがアルマ・ローレントである。


 つい先日、1年3組に編入してきた彼女は、異世界からの転移者である。

 この地球基準だと北欧人のようなスラリとしたスタイルに、ブロンドのロングヘアー。日本では間違いなく目を引く彼女が、いかにもディーラーといったユニフォームを身にまとっている。

 ホワイトシャツに黒のベストとタイトスカート。シンプルな服装が、抜群のプロポーションをあきらかに強調している。


 しかも、そのカードさばきが圧巻だった。

 ワッシュやリフル、デックカットといった一連のシャッフルを流れるようにおこない、プレイヤーたちの目前に一枚ずつぴたりとピッチングしていく。

  スタッ。シャー。ササッ。スーー。

 そのスムーズで、カードが響かせる音までも美しい所作。それだけでも、充分に見る価値がある。

 実際、彼女が動くたびに、教室外の見物人から「おお」という驚きの声が聞こえてくる。



 まあ、もちろん、彼女は彼女なりに特訓をしていた。

 ディーラー役に決まってからは、毎晩、家でカードの扱いを学んでいたのだ。

 とはいえ、素人が短時間でここまで上達をするとも考えられない。あきらかに彼女の持つスキル「剣聖」の恩恵に違いない。

 剣とカードに共通点などなさそうだが、動体視力や身体操作といったすべての能力に補正がかかるのだろう。一応は投擲技もあるしな。


 ───スキル、ぱねえな。


 めきめきと上達していくアルマの練習姿を眺めつつ、おれはあらためて異世界チートに驚嘆していたものだ。


「まあ、そろそろ交代時間だから、そうしたら混雑も落ち着くでしょう」


 ディーラー役は、女子三人が一時間ずつ交代で務めるらしい。


「休憩時間をあわせてあげたんだからね。せっかくの学園祭、きちんとエスコートしてあげなさいよ」


 なんだよ、その幹事特権を無駄づかいした気遣い。

 しかし、アルマがいっしょだと、せっかくの調理部スペシャルサービスが……。

 そんな雑念に惑わされているとき、ポーカーテーブルの方が急にざわめきだした。


 見ると一人の少年が、テーブルに乗り出すようにしてアルマを指さしている。


「ねえねえ。お姉ちゃん、ぼくと勝負しようよ!」


 ハーフパンツにトレーナーの、たぶん小学生だろうか。

 にこにこと人懐っこい笑顔の少年がひとり、アルマに詰め寄っていく。


「すいません、わたしはディーラーですので」


 とまどうアルマは、それでも笑顔で対応する。

 彼女が言うように、ディーラーというのはゲームの進行役であってプレイヤーではない。どうやら、そのあたりを理解できていないのだろう。

 クラスメートたちも「どうしたものか」と顔を見合わせている。


「え~?いいじゃん。お姉ちゃん、ここにいるやつらより、ずっと強いでしょ。どうせゲームするなら強い相手とやりたいしさ」

「いえ、あの、そういわれましても」


 とつぜんの要求に困惑するアルマ。

 元気いっぱいにつめよる少年の言葉に、おれはすこしだけひっかかった。


 (ポーカーで強い弱いってどういうことだ)


 カードの引きが強い人を「肩が強い」といったりするらしいが、そうした運をのぞけば勝負の決め手は心理的な駆け引きぐらいだ。長期戦で黒字を狙うなら期待値の計算も必要らしいが。

 あの少年の求めている「強さ」の意味が、どうも気になった。


 ──そのとき。

 おれの気配察知に、覚えのある反応があらわれる。

 おそらくは校門あたりで立ち止まっている複数人。

 これは……間違いない。

 

 ティル姉を襲ったやつらだ!



ご意見ご感想があればぜひともお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ