必要なものは
「 あんたたちが心配してんのは、それよりも、下界にあの子が降りたときに、あの『気』を、感づかれるのが、嫌なんだろう? 色街なら、なおさらってことだ。 よどみに、あんなきれいなのが入ったら、それだけで場が《乱れて》、すぐにそれを悟られる。 いっくらスザクが《蓋》をしようとも、完全にふさぐことはできねえし、さらに、笠をかぶせてふさいでるつもりだろうが、・・・それでも、嫌なモンは追ってくる。 ―― このまえ、スザクがおれんところに来たのも、それから逃れるためだ。 本人がまだ、あの『気』を操れてねえから、あんたたちまわりが気を遣うのもよくわかる。 あれだけのものなら、妖物だけじゃなくて、いろんな悪いモンがほしがるだろうからな。 ―― あの子はまだ、どっかの将軍さんに、狙われてるってことか?」
「わかっているなら、なぜ下に呼ぶ?」
「あんたたちもわかってるはずだ。 ―― あの子の、シュンカの『気』は、慈愛にみちて、ふれただけで養生になるものだ。 色街に一番必要なのはなんだと思う? 酒と金と女と、 ―― その、女たちの《幸せ》だ」
「 ふ、思いのほか、青いことを口にするな」
「《大堀》には、あそこの女たちの『不幸』だけが集まった。 ―― たしかに、あんな街だし、あの商売だ。いいことばかりじゃねえし、ひどい終わりになることもあるが、 ―― おれは、あの街にはずいぶんとながいこと世話になってるんで、好きなんだよ。 あの場所と、あそこにいるやつらが」
言い終えてじっと目をあわせる。




