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侯爵家に引き取られた令嬢は王妃陛下の通訳になる  作者: 鶴見 日向子


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20/20

エピローグ

とうとう最終話です

「それでなんだが……」


王太子は、少し声を落とす。


「これは公爵殿には内緒だ。国王陛下と私、そしてそなただけの秘密にしてほしい」


そう言って、王太子は数枚の書類を取り出した。


「リリアーナの母親について、いろいろ調べさせた。その結果だ」


アレクシスは書類に目を通した。


そして――目を見開く。


「え? え? えーーーっ!?」


あまりの内容に声が裏返った。


王太子は苦笑する。


「まあ、驚くよな。公爵殿はまったく覚えていないのだと思う」


そして肩をすくめた。


「前侯爵にも、いろいろ事情があったらしい。代替わりしてよかったと思ったよ」


王太子は書類を指で軽く叩く。


「見ての通りだ。そなたとリリアーナは実のいとこではない」


アレクシスは言葉を失った。


しばらく沈黙が続く。


やがて大きく息を吐いた。


「父は……叔母上を本当の妹だと信じています」


アレクは静かに言う。


「これは、このまま隠しておいた方がよいでしょう」


「私もそう思う」


王太子はうなずいた。


「だから、この話はここだけだ」


そして、少しだけ笑う。


「要するに、そなたとリリアーナに血の繋がりはないということだ。頭の片隅に置いておけばよい」


アレクシスはしばらく考え込んだ。


だが、やがて晴れやかな顔を上げる。


「そうですね」


そして、はっきりと言った。


「たとえ本当に実の妹だったとしても、もう遅いです」


王太子が目を丸くする。


アレクは胸を張った。


「私はリリアーナを幸せにします!」


その言葉に、王太子は大きな声で笑った。


「うむ。その意気だ」


そして、迷いなく答えた。


「僕の愛する人は、リリアだけです」


王太子は満足そうに笑った。


「我が妹を頼んだぞ」


そして肩を叩く。


「今度こそ、本当に結婚まで行ってくれよ」


「はい!」


今度の返事に迷いはなかった。


王太子はうれしそうにうなずいた。


こうして、しばらくして二人の結婚式が盛大に執り行われた。


「今度こそ本当だ」


そんな噂が関係者の間に広まっていた。


多くの令嬢たちも祝福に駆けつけ、あのデルマルク子爵子息も妻を伴ってやって来た。


「私はこの結婚で『本当の愛』を知りました。相手から本当に愛してもらえているという幸せです。

きっかけを作っていただき、ありがとうございます」


子爵子息はとても幸せそうだった。


「でも、夫は全然太ってくれませんの。それだけが不満ですわ」


妻が頬を膨らませる。


「そういう体質の方もいらっしゃいますもの」


リリアは現地の言葉で微笑みながら答えた。


レオン夫妻も祝福に訪れていた。


レオンの妻、ジャンヌのお腹は大きくなっている。


そして、ふくよかになったせいだろうか。頬の傷跡も以前ほど目立たなくなっていた。


「お医者さまから、年齢とともに薄くなっていくでしょうと言われました」


ジャンヌは傷跡にそっと触れる。


「人の心の傷も、こうして少しずつ薄くなっていけばいいのですけれど」


アレクとリリアは静かにうなずいた。


過去は変えられない。


けれど、未来は変えることができる。


これから先、どんな出来事が待っているのかは誰にもわからない。


「良い時ばかりではありません」


リリアが穏やかに言った。


「辛い時にこそ、人の本性が現れるのだと思います。だからこそ、乗り越えられるように、普段から心がけていたいのです」


「まずは自分を大切にしなければな」


アレクが苦笑する。


「リリアは働き過ぎだ。これからは少し仕事を減らしてほしい」


「はい、お兄様」


反射的に答えたリリアに、アレクが呆れた顔をした。


「もう夫婦なのだから、お兄様はやめなさい。アレクと呼んでくれ」


リリアの顔が真っ赤になる。


「わ、わかりました……アレクシス様」


小さな声でそう言うと、さらに顔を赤くした。


アレクは思わず笑ってしまう。


「語学を学べる学校を作ればどうだろう」


ふと、アレクが言った。


「人材を育てれば、そなた一人で抱え込む必要もなくなる」


その言葉にリリアの顔がぱっと明るくなる。


「レオン様の領地には、昔、私に言葉を教えてくれた侍女や侍従たちが戻ってきているそうです。きっと力を貸してくださいます」


こうして、庶民にも語学を学ぶ機会が与えられることになった。


国はますます発展していく。


アンドルにも縁談が持ち込まれていた。


だが、なかなか心は動かなかった。


「リリアーナ殿ほどの女性は、そうそうおりませんから」


そう言って周囲を困らせていた。


アレクシスが本当にリリアーナと結婚しないのであれば、自分が求婚したかった。


だが、リリアーナの気持ちはわかっていた。


だからこそ、その想いを口にすることはなかった。


そんなある日。


王太子妃がアンドルに声をかけた。


「実は、私のいとこがこちらの国へ嫁ぎたいと言っているの。会ってみてくださらない?」


「言葉は大丈夫なのでしょうか?」


アンドルが尋ねる。


「日常会話なら問題ないわ。でも、その代わり、あなたにも私の母国の言葉を覚えていただきたいの」


その言葉にアンドルは苦笑した。


そして――。


やがてアンドルも妻を迎えることとなり、両国の関係はさらに深まっていった。


交流は盛んになり、人々の暮らしも豊かになっていく。


「孫たちが増えるのが楽しみだな」


国王が王妃に微笑みかける。


「本当に」


王妃も嬉しそうにうなずいた。


二人はバルコニーに立ち、眼下に広がる城下町を見下ろした。


人々の笑い声が聞こえる。


子どもたちが走り回り、商人たちが行き交う。


平和で穏やかな光景だった。


「どうか、皆が幸せでありますように」


王妃の願いに応えるように、優しい風が二人の頬を撫でていった。


                      完


最後までお読みいただきまして、ありがとうございます

途中でいろいろ迷ってばかりでしたが、何とか最後まで書く事ができました。


最初の構想とはかけ離れてしまいました。


この作品は皇女の帰還シリーズ、新しく公開された「辺境伯令嬢と竜の子」に続く第3作目です

2作目の方が公開が後になってしまいました。

竜の子の方もよろしくお願いいたします

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