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アラサー女の異世界転生チート清掃業~どんなに泥沼の世界でもあたしは折れない  作者: 明烏
第2章

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雪解け

〝シリル、もしあなたが望み通りのヒーラー殿のガーディアンになれた時は、これだけは守って欲しいの。これはガーディアンとして絶対にやらねばならない事よ。今は理解出来ないでしょうけど、あなたがガーディアンになればきっと納得するはずよ〟


 先輩のその言葉でシリルは気づいた。自分は夢を見ているのだと。

 だって先輩がその言葉を直接自分に言った訳ではなかったから。


 そして思った。あの先輩は今の自分を見たら、今度は何と言うだろうかと。


 せっかく先輩が言う通りに自分に共感してくれるヒーラー殿に巡り逢い、ガーディアンになる事が出来たのに、自分はその信頼を失う羽目になってしまった。


 それはあの時先輩が自分にしたあ(・)る(・)助(・)言(・)を、馬鹿正直に守ったからだが。


 シリルは思う。

 もし自分が先輩の助言通りに行動しなければ、自分は諸々のアクシデントを適切に処置出来たのではないかと。

 そうしたら追い詰められることも無く、サヤにあんな馬鹿な事を口走らなくて済んだのではないか。


 本当にこんな状況を見ても、あの先輩は言うのだろうか。

 あなたはガーディアンとしてやるべき事をやったのだと。


 つらつら考えているうちに、シリルは自分が目覚めていることに気付いた。

 そして違和感を覚える。このところ常に付き纏っていた疲労感が無いのだ。

 そしてハッとした。何故ならそれはつまり、寝過ごしたという事だから。


 シリルは跳ね起きた。


 見るといつもの野宿ではない。久しぶりの柔らかいベッドの上だ。シリルは自分が眠るまでの事を思い出した。


 周りを見回すと、少し離れた所にあるソファーでサヤが横になって眠っている。

 シリルの起きた気配を感じたのか、サヤも目を開けた。


「あ、起きた?」


 あくびをしながら起き上がるサヤに、シリルは焦燥を抑えて尋ねた。


「——私はどれくらい眠っていました? あれからどれだけ経ったんですか?」


 経過した時間によっては、サンクアロー王国にたどり着くまでに更新期間が過ぎてしまう可能性がある。何しろ馬を手配が出来るか微妙な上、国境を越えるとなると手配自体にも時間が掛かるだろうからだ。

 下手をしたらドアーナ領の協会出張所で仮登録の再手続きをしなければならないかもしれない。


 しかしそれではトレントの出張所の所長の制止を振り切ってサンクアロー王国に向かった意(・)味(・)が(・)無(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。


 焦るシリルにサヤは自分の懐中時計を確かめると、のんびりした口調で答えた。


「大体一昼夜だね。本当はもっと寝かせてあげたいけど、まあこれがギリギリかな」


 シリルは愕然とした。一昼夜も費やしてしまったのでは間に合わないかもしれない。

 だが同時にシリルはサヤの言葉に引っかかった。


「——ギリギリとはどういう事ですか?」


 サヤはベッドの前にある椅子に腰かけると言った。


「あのね、クルーガー伯爵が護衛付きの馬車でサンクアロー王国まで送ってくれると申し出ているんだ。その条件として、あたしに闇祓いをして欲しいんだって」

「闇祓いを?」

「うん。伯爵の話だと急がせれば、馬車でサンクアロー王国までは二日で行けるそうだよ。そうすると仮登録の有効期限まで、あと七日あるでしょう? 伯爵の申し出を受けて闇祓いする日数も入れて、更に何かトラブルがあった場合の予備日も考えると、これがギリギリかな、と思って」

「——そういう話になっていたんですか」


 サヤの言う通りなら悪い話ではない。伯爵が求める闇祓いの程度にもよるが。


 そこでシリルは気が付いた。

 サヤから、最近は常に感じられた自分に対する警戒心が消えていることに。


 今のサヤは自分が馬鹿な事を言い出す前の様に、こだわり無く自分に接してくれているようだ。


 シリルは嬉しく思うと共に、不思議だった。自分にはサヤの警戒心を解くよう働きかけた覚えが無いからだ。

 シリルが首をひねっていると、サヤはのんびりした顔を改めて真剣な口調で言った。


「ただ、伯爵とそういう方向で話を進めるにしても、まずあなたに確認しておきたい事があるんだ」

「——何です?」


 シリルが問うとサヤは大きく深呼吸してから、覚悟を決めた面持ちでこう言った。


「出来れば正直に答えて欲しい。あの時シリルが言っていた事だけど、あなたが言う通りにあたしがそのエルフ…… とかいう奴だった場合、協会はあたしをどう扱うの? ……ってちょっとシリル⁉ どうしたの⁉ ……気分悪くなった?」


 サヤの言葉と同時にシリルはベッドに突っ伏した。

 あの時自分のしでかした馬鹿な真似に対する後悔が、怒涛の如く押し寄せたからだ。


「……シリル大丈夫?」


 恐る恐るといった様子で聞いてくるサヤにシリルは首を振って起き上がると、ポツリポツリと語り始めた。

 もっとも話したのはサヤが知りたがっている、サヤに対する協会の扱いではない。


 カナン街の出張所を発ってからの、自分の心の遍歴についてだ。


「……全ては意地を張って、ヒルダさんに食事の支度をお任せしなかった事が誤りでした」

「は⁉」

明日も20時頃更新の予定です。


面白い、続きが読みたいと思って頂けたらブックマーク、評価等頂けると嬉しいです。

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