ガーディアンの覚悟と誇り
シリルは久しぶりに夢を見ていた。
あまり面白くない夢だ。何しろ自分はまだガーディアン候補生で、先輩のガーディアンに散々愚痴っているのだから。
数日前に顔合わせしたヒーラーのガーディアンにも結局なれなかったので、落ち込むシリルを励ますために先輩が吞みに誘ってくれたという状況だった。
ヤケ酒を呷りながら、シリルは先輩に鬱憤をぶちまけた。
「——俺の抱える理想なんか、ヒーラー殿には厄介なだけなんですよ。ヒーラー殿と共に世界の闇に立ち向いたい、ヒーラー殿が最大限の力を発揮出来るよう、それこそ〝開花〟を目指して共に力を尽くしたい。俺がそう告げると皆さん顔をしかめるんです。言葉にされなくとも分かりましたよ。〝ああ、重い奴に当たっちまった〟とお考えだと」
〝開花〟とは、ヒーラーが到達すべき最高の能力発現を示す。
何としてもその闇祓いを成し遂げようとするヒーラーの熱意や気力といった条件がそのヒーラーの限界を突破した時に現れる、最高の闇祓いだ。
ガーディアンはヒーラーをその境地に導く事こそ理想とされていた。
だがシリルが顔合わせをしたどのヒーラーも、世界の闇に立ち向いたいなどとは微塵も思っていなかった。
無理のない程度に闇祓いを行い、後はのんびりまったり人生を過ごしたい。彼らは、そういう気楽な人生を補佐してくれるガーディアンを求めていたのだ。
シリルは頬杖をついてため息を漏らした。
「——同僚に言われました。やり方を変えるべきだと。顔合わせしたヒーラー殿が闇祓いにおいて自分の手には負えないと尻込みされても、ハッパをかけて無理矢理その能力を引き出そうとするのは止める。そして闇祓いを諦めた失意や罪悪感をなだめることに力を尽くす。開花を目指すのでは無く、ヒーラー殿が安楽に過ごせることに重点を置いて補佐するべきなんだそうです ……確かにそうすればどなたかのガーディアンにはなれるでしょうね。顔合わせしたヒーラー殿は皆さん、俺のガーディアンとしての能力は問題無いと言って下さるのですから ……料理以外は」
そう言ってシリルが自虐的な笑みを浮かべると、それまで黙ってシリルの話を聞いていた先輩がキッパリ言った。
「シリル、その考えはヒーラー殿に対して失礼極まりないわ」
いきなり非難されたシリルは驚いたが、それでも反駁した。
「だけどヒーラー殿の御意思を尊重するのがガーディアンなんでしょう? だったら俺の理想なんか無視したって……」
「それは尊重ではないわ。ただの誤魔化しよ」
「…………」
「確かにガーディアンはヒーラー殿の御意思を補佐する事が役目よ。時にはこちらの想いを圧し殺さねばならない場合もあるでしょうよ。だとしても本気でヒーラー殿の御意思を補佐する為には、そのガーディアンはヒーラー殿のお考えに共感している事が絶対に必要なの」
言葉を失うシリルに先輩は懇々と説いた。
「そりゃ行動を共にすることでお互いの考えが違ってくる場合もあるでしょうし、そうした考えを抑えてヒーラー殿を補佐する事も必要よ。だとしても顔合わせの段階で己の根本の信条を曲げなければお仕え出来ないガーディアンなんて、そのヒーラー殿にとっては害悪なだけよ。いい? ガーディアンの為にヒーラー殿が必要な訳じゃない。ヒーラー殿の為に、ガーディアンが必要なの。そこを忘れては駄目よ。ヒーラー殿の数はあまりに少ないのに対してガーディアン希望者は列を成している。そんな状況なら余計にね。必ずその事は肝に命じなさい。それは、ガーディアン候補が絶対に捨ててはならない誇りよ」
そこまで説くと、先輩は表情を和らげた。
「——あなたの様な信条を持つガーディアンは、むしろ高ランクヒーラー殿にこそ相応しいのでしょうね。世界の命運を握るだけの能力をお持ちのヒーラー殿なら、きっとあなたの理想に共感して下さるわ。気長に、そうしたヒーラー殿が現われるのを待つことね。その為に、己を研ぎ澄ませなさい」
「……待って、それでも現れなかったらどうするんですか?」
シリルの疑問にAランクヒーラーのガーディアンである先輩は、微塵の迷いもない口調で答えた。
「例えそうしたヒーラー殿に生涯巡り逢えなかったとしても、それがガーディアン候補の務めよ。そのヒーラー殿は、それだけの犠牲を捧げるに十分値する存在なのだから」
現れるかどうか分からないヒーラーの為に人生を捧げろ。厳しい言葉だった。
しかし自分の考えを曲げてヒーラーと気楽に過ごせと諭された時とは違い、厳しい言葉はシリルの心にすんなり馴染むものだった。そして改めて悟ったのだ。
そうだ、自分はそういうガーディアンになりたいのだと。
最後に先輩はからかうように付け加えた。
「それに高ランクヒーラー殿の収入なら、専属料理人も気軽に雇えるでしょうしね」
その先輩の言葉は当時シリルが陥っていた迷いを吹き飛ばした。
そしてそれ以来シリルはどれだけヒーラーに拒絶されようと、自分のやり方を通した。自分の考えに共感してくれるヒーラーの為だけに、自分という存在はあるのだと信じて。
明日も20時頃更新の予定です。
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