第八十一話『変化』
*(ホアイダ視点)*
大都市メディウムに居た住人のほとんどが、隣の都市に転移して居た。
周りは、離れ離れになった家族や友人との再開で騒がしい。
私も病院で寝たきりだった父と、ベゼを食い止めていたヴェンディの行方を探していた。
「ホアイダ!お父さんは無事よ」
病院の看護師が、車椅子に座っている父を押して来た。
いつも通り虚ろで無気力な父だが、命には別状がなさそうだった。
「お父様!」
父に抱きつき、無事だった事実に一安心した。
「あの、ヴェンディ知りませんか?」
「え?ヴェンディなら前々から行方不明でしょ?きっとメディウムには居ないんだと思うわよ」
「あ!そ、そうですよね」
思わず、ヴェンディのことを聞いてしまった。
良く考えれば、行方不明状態のヴェンディを知るはずがない。
ベゼとの戦いが、どうなったか知りたい。
話によれば、大都市メディウムが更地になったと聞いたが、ベゼやセイヴァーの生存確認はされていない。
「ヴェンディ、無事で居て下さい」
ポム吉を抱き締めて、神様に祈る。
*(ヴェンディ視点)*
爺ちゃんに匿ってもらい、三日経つ。
孫のリオは、俺に近付こうともしないが、良く遠目で見られている。
「怪我はどうじゃ?」
「お陰様で」
「そうか」
爺ちゃんは説教をしなくなったが、毎日のように俺に人殺しを止めるよう言う。
それでも俺は、セイヴァーとして活動し続けていた。
「行ってきます」
毎朝、リオがいつも通りに学校に行く。
そして四日目の朝、爺ちゃんは俺に言ってきた。
「リオが学校で虐められてるかもしれんの……」
「何でそう思う?」
「隠してるが、毎日傷が増えている」
「仕方ない爺ちゃんだな。俺が見て来てやる」
「その言葉を待ってた」
俺は爺ちゃんの策略にハマり、リオを尾行することにした。
すると、リオは学校には行かず、周りを確認する素振りを見せて森の方へと去っていった。
「爺ちゃんの言う通り、何かありそうだ」
リオを付けると、すぐに何をしているか分かった。
森の奥に秘密基地のような場所を作り、そこで一人っきりで魔法や能力を使って修行のようなことをしていた。
「何サボってんだ?」
その日、結局俺はリオを一日中見張っていた。
だが、誰かに虐められてる訳ではなく、ただ修行で傷を付けていただけだった。
俺は夕方になって、森から出ようとしていたリオに話し掛けた。
「何で学校サボったんだ?」
「お前!見ていたのか!」
リオは俺に気付き、睨みを効かせた。
「訳を話してくれたら、爺ちゃんに内緒にしないでもない」
リオはしばらく下を向いて黙っていたが、すぐに訳を話してくれた。
「……学校で虐められてる子が居るんだ。一人悪い奴が居て、そいつのせいでクラス全体がその子を虐めないといけない雰囲気になってる。その虐めはかなり深刻で、前虐められてた奴は自殺した。これ以上犠牲を増やさない為にも、俺が強くなって正々堂々とそいつを倒すんだ。そしたら虐めはなくなる」
――何だ、そんなことなら俺が殺してやるのに。
そう思ったが、そんな簡単なことではないことはリオの表情で分かる。
リオ的には、正々堂々倒して負かすことで、何の問題もなく収まりがつくと考えてる。
実在、卑怯な手を使って悪い奴を倒しても意味はないだろう。
正々堂々と倒すことで、敗北感が飢えられ、もう悪さは出来んと言う気持ちになるから。
「何だ。良い奴何だな、リオは」
「お前ら王族は悪い奴だよな」
「おいおい、それはアーサーだけだって。俺はアーサーみたいに大量虐殺なんて――」
言葉が詰まった。
先祖アーサーは、かつてウルティマから世界を守る為、100万人のカタラ人を魔法の生贄に使用した。
今の俺も、世界の秩序を守る為、殺人犯を殺し回ってる。
そこのどこに違いがあるのか、分からなくなったから、はっきりとアーサーとは違うとは言えなかった。
「ふんっ、どうだが……。俺はお前ら王族と違ってセイヴァーみたい世界中の皆の為になれる人間になる」
「えへへっ」
「何でお前が照れてんだよ」
褒められて照れてしまった。
だが、リオは俺がセイヴァーだと言うことを知らない。
照れるのは不自然だった。
「リオはセイヴァーに憧れてるの?」
「うん。けど爺ちゃんにそれ言ったら間違っても人を殺すなって少し怒られた。セイヴァーに憧れること自体は別にいいって言ってたけど……」
「良し、ならリオは人を殺さないセイヴァーになれば良い。その悪い奴を倒す為の特訓、手伝ってやるぜ」
「別に良いし」
リオに拒まれたが、俺は自分からリオに協力した。
組手の相手、魔法の使い方、能力の応用、一週間みっちりと訓練した。
「ゴホッゴホッ!」
「大丈夫か!」
「全然大丈夫。それより随分強くなったんじゃない?」
「そうかな?」
血溜まりを吐き出すのが頻繁になった。
少し激しく動くと、すぐに咳が出るようになった。
それでも、リオの成長を手伝いたかった俺は、最後の最後まで訓練に付き合った。
「今日、戦かう。俺は奴を倒して悪事を出来ないようにする」
「お前ならやれる」
「俺が勝ったら夕食の当番これからずっとヴェンディな」
「良いぜ」
一週間しか経っていないが、俺とリオには友情が芽生えていた。
師弟関係でもあり、家族でもあり、友達でもあるようなそんな関係だ。
リオも俺のことを名前で呼ぶようになった。
その日の夜、リオはボロボロになって帰って来た。
顔を腫らして、足を引きずり、帰って来た。
「おい!大丈夫か!?」
「ハハッ!勝ったよヴェンディ、俺勝った!あいつ仲間連れて来たけど、俺諦めないで戦ったらクラスの何人かが手伝ってくれたんだ!皆俺に希望を抱き、俺に未来をかけてくれた!あいつら明日からこそこそ生きるんだ!ざまぁみろ!」
「良くやった!お前すげぇよ!」
ボロボロになったリオを抱き抱え、リオを褒め称えた。
そんな俺とリオを、爺ちゃんが人知れずに見ていた。
* * *
その日、都市アヴァロンに危険信号が現れたので、その場所に行った。
ちょうど俺の住んでる場所と近かった。
「ひぃ!?」
目の前には殺人犯が居る。
帽子を被り、肌ツヤの良い健康そうな男が、俺にビビっている。
近くには、男が殺した女性の死体が転がっている。
「見逃してくれ!もう悪さしない!どうか命だけはー!」
命乞いをする奴は、今まで何人も見てきたが、全員殺した。
そいつら全員殺人犯だったから、自分のルールを守って殺した。
しかし、この日は違った。
リオの勇敢で自分本位ではない行動と、爺ちゃんの言葉を思い出していたからだ。
俺はこの一週間とちょっと、考え方が変わりつつあった。
爺ちゃんの言う通りだなと、正直に認めることが出来るようになっていた。
それに、ホアイダも俺に殺しを止めて欲しいと言っていた。
揺らいでた心に決心が着いた。
殺人犯だからって、わざわざ殺さなくても良いではないか。
腕を折るでも、半殺しにするでも、悪さをしないよう痛めつけるなど、方法は沢山ある。
俺は、認めたくなかったそれを認めた。
昔の俺は、目的に目が向き過ぎて、殺す一筋だったのだろう。
「もう悪さしないな?」
「もうしない!この通りだぁ!」
「分かった」
「うっ、うげあぁぃ!」
目の前の男の腕をへし折り、一発ぶん殴る。
「命までは取らないでやる。だが、警察には連れて行く」
「へい!分かったよぉ!」
「行くぞ」
俺は男を殺さずに警察に突き出した。
「爺ちゃん、あんたが正しかった……。俺止めます……残りの人生殺しを止めて清く生きます」
男を警察に突き出した後、俺は天に向かってそう呟いた。
しかし、罪人がいくら反省しようと、その反省も独り善がりに過ぎない。
俺はそれに気付かず、変われた気でいた。




