第七十九話『宿敵との決戦』
*(ヴェンディ視点)*
左足を切られた俺は、鷹のボブに引っ張って貰い、屋上の上に逃げていた。
傷口を火であぶり、瀉血して布で傷口を縛り付ける。
「あああぁ!あのボケっ!ここで必ず始末してやる!」
悶絶しながらも、ゆっくりと立ち上がり、体育館を見下ろす。
そこには、既にベゼの姿がなくなっており、警官隊の死体だけが転がっていた。
俺の後ろに居たボブが、俺を横に引っ張ったことで、ベゼに気付いて身を一歩引くことが出来た。
ベゼは既に俺と同じ屋上に居て、体中から出している骨をあらゆる形に変形させ、大きな羽根で宙に浮いていた。
もう俺の知ってるマレフィクスではない……中身だけでなく、見た目そのものも、邪悪な悪魔ベゼだ。
「街を見たとこ、住民は避難し終えたようだね」
「そうだ。思う存分やり合えるぞ」
「僕らの育ったこの街で、遊ぼうか」
ベゼはそう言って屋上から落ちた。
俺も落ちて行くベゼを追う。
空中で剣で骨を断ち切り、紙の手裏剣を投げる。
「解除」
手裏剣は巨大な象のような魔物になり、ベゼを押し潰そうとする。
「まだ余裕はある!避けられるぜ!」
ベゼは手から出した釣り糸を魔物の体に引っ掛け、魔物の横に逃げた。
しかし、魔物を紙にして、体内に潜入していた俺が、魔物の体から出て来て、空中で油断したベゼの首を掻っ切った。
しかし、傷は浅い。
「やるね」
「まだだ!」
すかさず紙の手裏剣を投げる。
紙はどろどろで熱々のマグマに変わり、ベゼの体にかかる。
ベゼは羽根と骨でマグマを防ぐが、飛び散った一部がベゼの皮膚を溶かした。
邪魔だった羽根と骨が溶けた今、ベゼの体は隙だらけになる。
新たな能力や魔法を使う前に、素早く剣を振るった。
しかし、ベゼは俺の剣を伸ばした爪で防ぐ。
その爪は鞭のようにしなやかになり、柔らかくなって俺の顔を引っ掻いた。
「爪が柔らかくなったのか?鞭のようになっていた」
地面に着地した俺とベゼは、同時に剣と爪を振るった。
射程距離はベゼの方があるし、爪は両手合わせて十本。
攻撃を受けきるが、俺の方が押されてしまう。
「まだだよセイヴァー、まだ死へ逃げるなよ。生に主着し、君の全力を君自身で引き出すんだ」
ベゼは一歩下がり、自身の影から死神を出す。
死神が俺を襲い、その隙にベゼが俺の背後へとゆっくり歩いて回る。
死神で手一杯だった俺は、やむを得ずに地面を紙にしてその中に逃げる。
* * * * *
ベゼとセイヴァーが戦ってた間に、大都市メディウムの住民は別の区域に避難していた。
大都市メディウムは、二人の犯罪者により壊されつつある。
「また地面に逃げたか……意外と陰気な奴だな」
ベゼは死神を手元に寄せ、どんどん紙になっていく地面を見ていた。
服がマグマで溶けたベゼは、近付くにあった布を羽織って羽根に変える。
羽根をばさばさと広げ、地面から足を離す。
「どこから来るのかな?セイヴァー」
ベゼはニヤッと笑いながら、地面全体を見ていた。
すると、紙になった地面の中央に見覚えのある少女が、血塗れになってるのを目にした。
瞬きした後、突然その少女が現れた。
その少女は、ベゼの側近の部下であるアリアだった。
神聖ベゼ帝国に居るはずのアリアが、何故かこの場に居て、血塗れになっている。
流石のベゼも目を疑った。
「何だこれ?あれアリアだよ……ね?」
ベゼはゆっくりと地面に足をつけ、アリアの傍に近づいた。
アリアは口の中に『じごうじとく』と書かれた折り紙を詰まらせ、死にかけだった。
まだ死んではいないが、確実に助かる状態ではない。
ベゼは何が何だか分からなかった。
「うっ……」
ベゼの胸に痛みが走る。
ベゼの背後で、セイヴァーがベゼの体に剣を突き刺していた。
「今度は確実に心臓だ……」
「がはぁ!?」
セイヴァーは剣を深く刺し、ベゼの体を突き上げる。
ベゼは体から血が大量に垂れ、瀕死に追い込まれる。
「本来ならこういうやり方は拒む。しかし、今までホアイダや親を人質に取っていたお前には何の同情もしない。それに言ったはずだ……どんな手を使っても勝つと」
「昨日までアリアは居た……学校に行く時も居たのに……今日卒業式に来る前に紙にして連れて来たのか!?この時の為に、わざわざ攫ったのだ……な?」
「大正解だ」
セイヴァーはベゼの体から剣を引き抜いた。
そして、アリアの前で倒れ込むベゼにトドメを刺そうとする。
「今この場は俺がお前の神様だ……祈っても無駄だ。お前は俺と同じ地獄行きだ」
「そんな……目の前で突然育ててきた部下が死に、訳も分からぬまま死ぬなんて……絶対に嫌だ……僕の死はもっと美しく在るべきなんだ……」
ベゼは逃げるように地面に這いつくばり、アリアに元へ手を伸ばした。
突然アリアの死を目にし、今にも死にそうな痛みのせいで気が動転したベゼは、能力を使って抵抗しようという思考には至らなかった。
セイヴァーが見るベゼの中で、一番醜く惨めな姿だった。
「地獄で会おう」
セイヴァーがベゼの首元へ剣を振るう。
「がはぁ!?ゴホッゴホッ!?」
だが、そのタイミングで肺がんの症状が出る。
セイヴァーは血溜まりを吐き出し、胸を抑えて地面に蹲った。
「死んじゃう……このままじゃ醜く死んじゃう……そんなの嫌だ!どうにか心臓を瀉血するだ……体内で瀉血しないと……絶頂のまま死にたいのに……誰か助けろぉぉ」
ベゼは苦しんで蹲るセイヴァーを気に求めず、アリアの手を掴んだ。
すると、アリアは微かに目を開け、折り紙と血を吐きながら口を開いた。
「ごめんなさい……ベゼ様。そしてありがとうございます……最後に私の手を握ってくれて……」
アリアはそう言って、ベゼの胸を触った。
すると、体内で切り裂かれた心臓が、鉄に変わった血によって瀉血される。
ベゼはそれによって一命を取り留める。
「私が死んでしまう前にお逃げ下さい……私が死ねば傷口がまた広がります……」
「……はぁはぁ、えっ、偉いよアリア、やはり君は僕の一番の駒だった……良くぞ僕を復活させてくれた」
一命を取り留めたベゼは、ニヤッと笑い、アリアの服を羽根に変えて、アリアを上空に逃がした。
そして、足を震わせながら立ち上がり、血溜まりを吐き出し蹲るセイヴァーの目の前に立った。
「頭にきた……派手に死んでもらうよ」
ベゼは布を一枚取り出し、その布をウルティマに変える。
地面にヒビが入る程の巨体が、セイヴァーを見下ろす。
「生きてたらまた会おう」
ベゼ本人はアリアの居る上空に逃げる。
セイヴァーの目の前に居るウルティマは、指から小さな球体を放った。
その小さな球体は、黄金で禍々しい。
――胸が苦しくて動けない。
セイヴァーは痛みで動くことが出来なかった。
病気が進行し過ぎていて、まともに動けないのだ。
「破壊魔法、シン.エンド」
ウルティマが出した球体が地面に当たる。
その瞬間、大都市メディウム全体に及ぶ爆発が起き、街も建物も跡形もなくなってしまった。
ウルティマ本人だけが残るが、そのウルティマも布になって消滅した。




