第五十話『洞窟探検』
四学期の夏休みが終わり、アリアを通じて何百人もの仲間が出来た。
ほとんどの者が僕と直接会ってはいないが、アリアを通じて仕事を与えたり、報酬を与えたりしている。
仕事の内容は、アリアと同様仲間を増やしたり、付近の者の能力や情報を集めさせたり、魔物の情報を集めさせたり、他にもその時々で仕事を与えている。
どれだけ仲間を増やしたか、どれだけ情報を集めれたか、その実績を見て地位を与えたり、報酬を増やしたりしている。
報酬は基本お金だが、時には個人の望みを叶えたりしている。
家族や恋人と言った人間関係の望み、顔や性格と言った人としての望み、一人では叶えれない夢を現実に変えてあげている。
そうやって常人では与えれないものを与えることで、皆僕という存在に縋る。
べゼという危険な存在でも、報酬を与えることで恐怖と安心が均衡してくる。
まぁ、分かりやすくすると麻薬やタバコみたいな存在かな。
恐怖と安心、そのバランスがあるからこそ、僕はこの巨大な組織の頂点に立っていられる。
勿論、皆僕のように普段は普通の学生や仕事を持った人間を演じている。
世間が知らないうちに、世界中が僕の手足となっていくのだ。
近い内に一国を作る。
そこを拠点とし、世界を恐怖に落とし、僕が絶対悪として君臨する。
その為には同じ恐怖の象徴である魔王が邪魔だ。
早めに消しておきたい。
「やっと来たかマレフィクス」
「おはよう」
それとこいつ……ヴェンディという存在が必要不可欠だ。
いや、正確にはセイヴァーという存在か。
もし僕の思い通り世界が悪で染まったら、その存在が正義になってしまう。
世の中いつだって多数派が正義だからね。
だからセイヴァーという正義が必要になってくる。
こいつが居なければ、僕の存在が霞んでしまう。
セイヴァーが居なければ、僕は死んだも同然になってしまうだろう。
「おはようございます」
「皆揃ったな。早速クエスト受けるぞ!」
「「おー!」」
今日はヴェンディとホアイダの二人とギルドに来ていた。
三人でギルドに通うになって、三年以上経っている。
「洞窟探検なんてどうだ?最近また新しいエリアが発見されたろ?場所は遠いいが、転送するから問題ないだろ?」
「たまにはいいね」
「二人に任せます」
「決まりだな」
ヴェンディはクエストボードからクエストを一つ取り、受付カウンターまで持っていく。
* * *
僕らが転送された洞窟は、光る鉱石がたくさんあった。
地形も歩きずらく、少しも整備されていない。
地面には魔物の足跡や人の足跡が深々と続いている。
奥まではっきり見えるくらい明るい洞窟は初めて見る。
しかし、こんなに足跡があるのに魔物も人も一切見えない。
少し妙な雰囲気だ。
「二日前から何人もの冒険者が訪れているらしいが、帰還した者は居ない」
「ニュースで見ました」
「まぁ、クエスト内容は洞窟探索。危険を感じたらすぐに帰ろう」
どうやら、この洞窟で多くの冒険者が行方不明になっているようだ。
何かあるのは間違いない。
おかげで、ヴェンディは警戒し、ホアイダは少し怯えている。
「怯えながら着いてきなよ。ほら、足跡の方向行くよ」
この先に何があるか気になる。
そう思い、二人の前に出て足を速める。
「おい……あれ人じゃねぇか?」
しばらく歩いた所で、ヴェンディが小声で言った。
遠目に見えるのは、大きな樹木に縛られた人だった。
僕からはハッキリ見えているが、二人にはまだハッキリ見えていないらしい。
「おい……」
「何です……これ……」
二人は駆け足で樹木まで走ったが、樹木の手前で足が止まった。
そして、顔色を変えて体を震わせた。
目の前の光景は、二人からしたら地獄だったろう。
地面から太い根が張られているその樹木は、あまり高くない天上まで続いている。
その樹木と一体化となりつつある人々が数十人は居る。
目は虚ろで、体は枯れた花のように乾ききっている。
まるで、樹木が人間の精気を吸い取っているようだ。
恐らく、彼らはここに来た冒険者達だろう。
「うっ……」
ホアイダは気持ち悪そうにし、体を縮こませる。
ヴェンディも嫌そうな表情を浮かべている。
「ヴェンディ、あれ見ろ」
僕は、樹木から離れた隅っこで怯えるように座り込んでいる少女を指さした。
「あ!生存者?けど何で女の子が?」
ヴェンディはそう言いながらも、少女に駆け寄った。
「もう大丈夫だよ。立てるかい?」
「あああぁ!!やめろぉ!」
少女は酷く脅えていた。
駆け寄ったヴェンディを押し飛ばし、地面を蹴るように走った。
「あっ!」
足場が悪いせいか、少女はすぐに転けた。
「落ち着いて、大丈夫だから」
「いやぁ!」
ヴェンディは怯える少女に顔を蹴られる。
しかしヴェンディは、嫌な顔一つせず少女を強く抱き締めた。
「大丈夫だから……」
「うぅ……私を助けに来たの?」
「そうだよ」
「それは良かった。助かったよ……貴様はもう助からんがな」
少女の口調と態度が一変した。
「え?」
「ヴェンディ離れろ!何か妙だそいつ!」
僕は少女が普通ではないと気付き、すぐに叫んだ。
しかし、ヴェンディが少女から離れようとした時には遅かった。
「なぁ!?」
「新しい餌じゃ……若くて新鮮な餌が三つも来たぞ」
少女の声は太くて汚らしい獣のような声に変わっていた。
そして、地面から生えた根が一気に動き、僕ら三人を縛り上げた。
「何だこれ!」
「何ですこれ?」
「ほんと何これ?」
根に縛られた今、力が入らなくなっていた。
力を吸い取られたかのように、思うように体が動かない。
「力が……」
僕とホアイダが根に苦戦する中、ヴェンディは真っ先に自分自身を紙にして根から逃れた。
「マレフィクス!ホアイダ!今行く!」
ヴェンディがすぐに僕らの方へ向かって来たが、樹木の根が暴れるように動く為、迂闊に近付けない。
「ちっ」
「頑張れ少年」
さっきの少女は、そう言って樹木と一体化した。
「火魔法、エスリア」
僕に触れているものを燃やす魔法で、縛っていた根を燃やす。
おかげで、動ける内に根から抜けれた。
「うぅ」
持っていた短剣で、近くで縛られてるホアイダの根を切り落とした。
「たっ、助かりました」
「ヴェンディ!一旦入口まで引くぞ!先に行ってる!」
「分かった!すぐに行く!」
ホアイダを助けた後、大声でお互いの生存を確認する。
入口に走ろうとした途端、入口は樹木によって封鎖された。
どうやら、先手打たれようだ。
「ありゃ……これは戦うしかないね」
「転送で逃げるべきです。あまりも危険すぎます」
「奴は転送機を理解していたようだよ。さっきので転送機が壊れた」
ホアイダは自分の腕に着いている転送機に目を向けた。
潰れて壊されている転送機を見て、頭を悩ませる。
「そんな……」
「きっとヴェンディのも壊された。言語を話し、転送機を理解している魔物……そうとうの魔物だ」
暴れるよう動いていた樹木と根が動きを止めた。
そして、軋むような音を立てながら、人々を取り込んだまま樹木が姿を変えていく。
「うけきききっ!元気になったあたしの力を思う存分使ってやる」
姿を変える樹木から声がする。
大きかった樹木は、圧縮されたかのよに小さくなる。
その姿はさっきの少女だった。
だが、少女と呼ぶにはあまりにも異質で歪だ。
両手は複数の口がある植物で、足は触手のような植物の根、片目は人の歯の様になっている。
名付けるなら、植物人間と言ったところだ。
「あたしは魔王軍幹部、アンソス.ルルーディー。貴様らが雑草を踏み潰すように、あたしが貴様らを踏み潰そう」
植物人間――ルルーディーはヘラヘラと笑いながら、僕とホアイダに向かって足を運ぶ。




