第五十一話『アンソス.ルルーディー』前編
どこを見ても、入口や逃げ場が樹木で封鎖されている。
燃やして逃げることは容易いが、僕の性にあわない。
目の前に居るのは魔王軍幹部を名乗る少女に似た姿をした魔物。
僕とホアイダに向かって来ると言うことは、近距離戦闘が得意なのだろう。
隣に居るホアイダは、目の前の存在に恐怖して息を切らしている。
勇気を持とうと必死な面をしているが、足が震えている。
「逃げるなら今じゃが?それとも恐ろしくて逃げれることも忘れてしまったということかなぁぁぁ?」
自信満々に近付いてくるルルーディーの後ろには、ヴェンディが剣を構えて立っていた。
能力でルルーディーの背後に回ったのだろう。
「バカバカしい。背後から攻撃なんて卑怯極まりないのおぉ」
しかし、ルルーディーの体から出てきた樹木によって剣が止められる。
「ちっ。何で気付かれたんだ?」
ヴェンディは、剣を諦めて背後に下がる。
「この地面に触れている間は貴様の動きは無意味じゃ。あたしの手に平に居ると思って良い」
どうやらこの地面に触れているものは、動きや存在がルルーディーに伝わってしまうらしい。
自分からネタばらしをするなんて、そうとう自惚れているな。
きっと、奴からしたら僕らはスライム三匹みたいなものなのだろう。
「こいつ調子乗りすぎだよな。三人でリンチにしようよ」
「言い方は気に入らないが、作戦は気に入った」
「分かりました」
ルルーディーを囲むように広がり、僕は双剣、ヴェンディは剣、ホアイダは銃を構える。
今はホアイダが居るから、能力は一つしか使えない。
つまり、魔法と能力一つと武器だけで倒さなければならないということだ。
「やって見なよ、三下の人間共」
緊迫した空気の中、最初に動いたのは僕だった。
ローブを白いドラゴンの羽根に変え、地面から離れてルルーディーの上空を飛ぶ。
「ヴェンディ!迂闊に地面に潜るなよ!地面は奴の味方だと考えろ!」
「分かった」
僕がヴェンディに声を掛けたことで、ルルーディーの意識が僕やヴェンディに向いた。
その一瞬の隙をついて、ホアイダの水魔法が発動する。
一瞬にしてルルーディーを水の檻で囲った。
「ほぉ?無詠唱で魔法を……カタラ人か?滅んだと聞いたのじゃがな」
水の檻に入ったというのに、ルルーディーには余裕がある。
これ程の魔法は痛くも痒くもないのだろう。
「フォティア.ラナ!」
「グロム.レイ!」
僕とヴェンディが水の檻に向かって魔法を放つ。
水の檻に当たる瞬間、水の檻は解除され、魔法がルルーディーに直接当たる。
ルルーディーの体は激しく痺れ、激しく燃える。
「あああぁ!」
「フォティア.ラナ」
追い討ちに火を放つと、ルルーディーは意図も簡単に燃え尽き、灰となった。
あまりに呆気なさすぎて腑に落ちない。
「嘘?死んだのか?」
ヴェンディもホアイダも、僕同様疑いの目をしている。
――能力番号32『生き物の気配を感じる能力』。
この能力を使って、ルルーディーの気配を探ることにした。
燃え尽き灰になった死体の場所からは気配がしない。
しかし、ヴェンディとホアイダ以外の気配がこの付近にある。
正確な位置が掴めない……その気配は下にある。
「まさか!?皆地面に気を付け――」
声を掛けるのが遅かったようだ。
ホアイダとヴェンディが同時に、地面から出てきた樹木に縛られ、地面に叩き付けられて壁に吹き飛ばされた。
「うげぇ!」
「がはぁ!」
「うけきききっ!アホじゃアホじゃ!大アホじゃん!」
ルルーディーは、傷一つない状態で地面から出てきた。
死にかけのホアイダと傷を負ったヴェンディに目を向ける。
そして、最後の獲物を見る目で、ゆっくりと上空に居る僕を見上げる。
「お仲間にトドメを刺そう」
地面に生えた樹木をタコの足のようにうねうねさせる。
同時に、ルルーディーの顔に弾丸が放たれた。
「あぁ?」
ルルーディーは弾丸を頭にくらいっても、平然と生きている。
だが、少し怒ったようだ。
「はぁ……はぁ……」
弾丸を放ったのはヴェンディだ。
頭から血を流し、スナイパーライフルを紙に戻している。
「一瞬早く紙になったから、ギリギリ助かったぜ」
「生きていたのね。ホアイダも息はあるが、かなりやばいな」
僕はホアイダの所に移動し、大量に血を流すホアイダを抱える。
当然のようにルルーディーを無視して、ヴェンディの元に足を運んだ。
「何呑気にしてんだよ!!」
ルルーディーが樹木で僕に攻撃するが、手で触れて樹木を燃やし、華麗に避ける。
「何怒ってんだよ?植物らしく穏やかに出来ないのか?」
「あぁぁん?」
煽られたルルーディーは、体から樹木を大量に生やし、戦闘態勢に入った。
「ヴェンディ、ホアイダを紙にしろ。生物が紙になっている間は時間が止まるのだろ?」
「なるほど。ホアイダの時間を止めて命を維持するってことか。分かった」
ホアイダを折り紙サイズの紙にし、ヴェンディのポーチにしまう。
これでひとまずホアイダは助かるだろう。
「ヴェンディ、楽しくなってきたね」
「イカレ野郎」
「そう言わないの」
ニコリと笑う僕を見て、ヴェンディがムスッする。
「来いよガキ共」
「僕はベゼ、隣のこいつはセイヴァー。今世間を騒がしてる二人だよ」
「バカ!マレフィクス!んなこと言わなくても良いだろ!」
「言わないとダメだ……こいつに誰を相手にしてるか分からせないとならない」
「ちっ。好きにしろ」
ヴェンディは呆れた顔をし、ルルーディーは目を細めて困った表情を浮べる。
「本人?顔違うけど……」
「本人さ」
僕は顔をベゼの顔に変える。
ルルーディーは細めていた目を見開き、驚いた表情を浮かべた。
そしてため息をつく。
「まじかよぉぉ……魔王に間違ってもベゼに喧嘩売るなって言われたのに……どうしようもう手遅れだよなぁ?やばいやばい……あっ――」
一人で慌てふためくルルーディー。
しかし、すぐに何か閃いたように態度を変えた。
「証拠隠滅……殺せば問題ないか」
ルルーディーはそう言って、樹木を横に振った。
しかし僕は、ヴェンディを抱えて上空に避けた。
「ベゼとセイヴァーの最強タッグ見せてやろうぜ」
「お前が死にかけだったら絶対助けない。そのまま死んでもらうからな」
「僕は君を助ける。いつでも安心して死に急ぎな」
僕は顔をマレフィクスの顔に戻し、ヴェンディを抱えたままニヤリと笑う。
「どこで下ろして欲しい?」
「今すぐだ」
手を離すと、ヴェンディは紙になって地面に着地した。
着地狩りを狙ったルルーディーの攻撃を、剣で斬りながらも、ルルーディーに向かって樹木を駆け抜ける。
――能力番号38『指からビームを放つ能力』。
その上空から、指から放つビームでルルーディーの頭を何度も打ち抜く。
このビームは、威力も早さもあるし、使い勝手がいい。
大抵の魔物は余裕で貫通して打ち抜ける。
「あぁ!」
ルルーディーの体は何度もビームを放たれ、徐々に崩れ落ちてゆく。
しかし、崩れていくのと同時に体が再生している。
再生のスピードが同じ魔王軍幹部のオルニスと段違いだ。
さっき精気を吸い取っていた人間が、再生力の糧となっているのかもしれない。
「今だヴェンディ!殺っちゃえ!」
ルルーディーの動きが鈍った。
その隙をつき、背後に回ったヴェンディが剣を振るう寸前になった。
決着が着くと思われた。
「殺さないでぇ……」
ルルーディーがヴェンディの方を振り向いた。
その顔には魔物の面影がなく、最初に出会った時の少女の綺麗な顔立ちをしていた。
その少女の顔で、同情を買うような涙を見せている。
おかげで、ヴェンディの動きが止まった。
「くっ……」
「なんてね」
ルルーディーの体から出た樹木が、ヴェンディの腹を突き刺した。
「がはぁ!」
「大マヌケじゃな、少年」
ルルーディーは流れるようにヴェンディをに近寄り、ヴェンディを持ち上げる。
勿論、僕のビームを受けない為――ヴェンディを盾にする為にだ。
「打ってみろ!こやつが死んでも良いならな!きゃははは!」
「やるじゃん……そういうの嫌いじゃないよ」
僕はビームを放つのを止めて、ゆっくりと地面に降り立つ。
「人質を取らないと戦えないかい?僕が怖いならそのままで良いよ」
「勘違いするな。貴様が怖くて人質を取っているのではなく、貴様を困らせているだけじゃ」
ルルーディーは、品のない笑いと長い舌を見せながら、ヴェンディを盾にする。




