魔法使い
「俺が魔法使い?」
中学三年の夏休み初日。
進路を考える時期というわけで、俺は両親に呼び出されていた。
都立高校や私立高校。それ以外にも進路はある。そんなわけで俺も色々な高校のパンフレットを見せたのだが、両親は話し合いを初めてすぐにそう告げた。
「ああ。龍勢、お前は魔法使いなんだ」
「へー……。それはいいけどさ、いきなりすぎだろ。今まで教えなかったのはなんでだよ。ハリー○ッターみたいな感じで実は虐待されていたとか?」
魔法と言えば最初にそれが浮かぶくらい、俺にとっては有名な本。というか俺以外にも多いだろうけど。
ただ、両親は首を横に振った。
「封じられてはいない。だが、今は女性にしか出ないのが魔法なんだ。私は使えないが……母さんは使えるんだよ」
「え、そうなの?」
「ええ。ほら」
母親は俺の目の前で、テーブルにあったバナナを浮かせて見せる。
種も仕掛けもないらしい。
もちろん父親はできない。
証明が済んだところで、一枚の手紙を俺に渡してきた。要するに案内書。びっしりと文字が書かれている。
「華道龍勢様……貴方を国立魔法女子学校への入学を許可します。所在地は……北海道!?」
「ああ。寮で暮らすことになるな」
「北海道にあんのか……つーか女子校じゃねえか!?」
「だからさっきも言っただろう。お前は世界で初めての、男の魔法使いだと」
父親は真面目な顔でそう言ってくる。いつもはふざけていることが多い親なだけあって、マジなのは珍しい。
ということは本当なのかよ……。
「拒否権は?」
「ない、だろうな。できればお前を入学させて欲しいって電話がきたくらいだ」
「マジかよ。つーか俺って魔法なんか使えないぞ?」
実はできるんじゃないかと思って手を振るってみるが、バナナは浮かび上がらない。ならばと思って皿や煎餅を浮かばせても駄目。
やっぱり魔法は使えないや。
「お母さんも最初は使えなかったわ。だけど身体に魔力を秘めている人にはこの手紙が送られてくるし……間違いではないと思うの。電話でも確認されたし……」
そう思っていたが、母親も同じだったらしい。
つーか電話なのかよ。
そこはふくろう便とか使って欲しいよな。
入学してから諸々の検査を受けて使えるようになるのか……。後から実は使えませんでしたー、とかならないよな。
なったら困るよな。
編入とかしないといけなくなるし。ま、なるようになるとは思うけれど。それよりも今は気になることがある。
「……しかし、なんで俺なんだろうな? 父さんも母さんも心当たりはないのかよ?」
「……そうだな……ないこともない」
考える人のようなポーズを取り、俯く父親。
かなり深刻な様子。
まるで過去に人体実験を受けていたかのような……驚愕の事実を述べるのかもしれない。
「どんな心当たりなんだ……?」
俺も思わず唾をごくりの飲み込んで、父親の報告を聞くことにした集中した。
多少の出来事は受け入れられるだろう。
覚悟は決めた。
今ならどんな事実も受け入れられる。
「……実は」
そんな俺の覚悟を悟ったのか、父親もゆっくりと口を開いた。
「……実は父さん、女装趣味があるんだ……」
「……そう……なのか。って、え?」
聞き間違いだろうか?
そう思ったが、父親は繰り返して言った。
「実は父さん……女装趣味があるんだ……」
「二回繰り返すのかよ! いや、ちゃんと聞いてたから!」
「そうか?」
「そうだって! なんだよただの女装趣味かよ……もっと重い過去だと思ってたんだけど。人体実験とかさ」
「ははは、人体実験なんか受けるわけないだろう。まあ父さんの心当たりはこれくらいしかないぞ」
けらけら笑う父親と、同じようにくすくす笑う母親。
仲が良いのはいいことなんだろうけど……心配して損した。
「まぁ、とりあえず頑張れ龍勢。応援してるぞ」
「ええ。先生によろしくね?」
「はいはい……。すぐ退学にならなきゃいいけどな……」
そんなわけで、俺は魔法女子学校に通うことになったのだった。