頼ってもいいの?
話を終えると、知らずのうちに涙が溢れていた。
ホントは、母の話など苦くて嫌な思い出しかなかったけれど、大晦日にあの人が帰ってきたことに、自分自身動揺が隠せなかった。
案の定、風邪ひいて寝込んでしまった。
あの人のことを思い出せば体調を悪くすることが、たまにあった。
でも、遥の顔を見ると泣きそうになる。
大晦日に、偶然駅で会った時もそうだった。
遥は、その異変に気付いてくれていた。
「…オレが、その頃、千歳さんの傍にいなかったことが、とても悔しいです。」
「…遥…。」
「…貴女を一人にしたら、とても心配になります。」
伸ばした腕が、私を優しく包み込んだ。
「…はは。再会した時も、同じこと言ってたね。私ってホント…バカだよね。」
遥の胸に顔を押し当てた。
再び溢れる涙は、きっと、こいつのぬくもりに安心しているからなのか。
「遠慮しないで頼ってください。オレはいつでも貴女の味方です。」
遥の腕が強くなって、ギュッと抱きしめる。
「…う、ううっ…い、いいのかな…。…遥のこと散々迷惑かけてんのに…う、ううっ…」
涙声で、答える私の頭を撫でながら、遥は、
「迷惑じゃないですよ。貴女が甘えてくれると、オレは、嬉しいです。」
「…う、ううっ…遥ぁ!」
子供のように、
嗚咽しながら、遥の胸で泣きじゃくる。
いい大人が、恥ずかしいと思われるかもしれないけれど…
きっと、遥は、こんな私を受け入れてくれる。
そう思うと、涙は、余計に溢れてくるのだった。
大泣きして、落ち着いた後遥は、思い出したように、
「千歳さんが、持参した風呂敷の中身なんですが、冷蔵庫に入れてあります。」
「え?…ああ、多分、温めて食べれば大丈夫。おばあちゃんが、持たせてくれたお節だから…。」
「そうなんですね。」
「うん。だから、一緒に食べようか。」
「いいんですか?」
「い、いいわよ。思いっきり泣かせてくれたお礼。」
私は、照れくさくて、そっぽを向いて答えた。
「ふっ、ありがとうございます!」
はにかみながら、台所へと足を運んだのだった。
食事を済ませた後、スマホを見ると、父さんからのメールが来ていた。
『千歳、平気か?母さんは昨日のうちに帰った。ばあちゃんは、千歳のこと気にしているんだ。向こうに帰るまで、もう一度会いたいそうだが。どうする?』
父さんのメールを見て、考え込んでいると…
遥が、心配そうに声をかけてきた。
「お父さんからですか?」
「…うん。あの人は、昨日帰ったみたい。」
「…そうですか。」
「ただ、帰京するまでに、おばあちゃんに、もう一回会いたいと思ってさ。」
「…なら、明日にでも、会いに行きますか?」
遥は、私の手をそっと、重ね合わせた。
「…そだね。体調もよくなったし、会いに行くよ。」
「…オレも、一緒に着いて行きます。いいですか?」
「え?…で、でも、父さんがいるし、大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。貴女のお父さんには、大晦日にメールを送っておきました。」
「はぁ?…ちょっと、用意周到もいいとこじゃないのよ。つーか、何、父さんとメアド交換してんのよ!」
「…まぁ、説得しに行ったついでに教えていただきました。」
「…あんたね…。」
思わずため息が、漏れた。けれど、父さんもおばあちゃんも心配していたから、結果オーライ?
「オレは、千歳さんを送るだけですから。後は、おばあさんとお父さんと水入らずで1日を過ごしてくださいね。」
「…うん。ありがとう。」
それから、
私は、遥に送ってもらい、おばあちゃん家に再び、帰ったのだった。
・




