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51幕 可能性の説明と、隠し事




 リアンに会えば、聞きたいと思っていた事は多々あった。


 例えば、この身体の事については色々と尋ねたい事は多い。バラントの施設にいた時に失ってしまった部分は、味覚の他に何があるのか。リアンでも治せない部分とはなんなのか、など。他にも、森の一眼巨人 モノアイギガンテスのような抵抗力の強いはずの存在に、強力な呪術をかける方法など存在するのかとかいう事。疑問なら次から次へと出てくる。疑問だらけだった。


「ブルームフィールドさんの事なんだけど、彼の魔力はどうにかならないのか?」


 しかし少し考えた後、俺の口から出た疑問はそれだった。


「……おや、意外な所を聞くね。君ならもっと別の事を聞くかと思ってた」


 と彼は本当に意外そうな顔をした。どうやらその事は想定していなかったらしい。


「そう?」と俺は尋ねる。


「ほぼ初対面の相手の事だしね。僕なら、トインビーにあんな話をされた所でもっと益になる別の事を聞くだろうから……と、まぁ、そんな事はどうでもいいか。ブルームフィールドくんの魔力の事だよね。まぁ、『どうにかならなく』はなさそう、かな」


 とリアンは言った。


「本当?」


 と俺は聞く。


「うん。でもあくまでだけど、『どうにかならなく』はない程度の話でしかないんだよ。聞いた所で君は満足しないかもしれないけど、その話でいいかい? もっとほかにも聞きたい事あるんじゃないの?」


「ある……けど、それでも、ブルームフィールドさんがどうにかなるのなら、その方法を聞きたい」


 と俺は少し考えてから言った。少なくとも、今のままではあまりにも彼は救われない。


「うん、わかった。じゃあそれにしよう」


 とリアンは俺の顔を見て頷き、それからまた口を開き始める。


「実際のところ、話な事なんだ。彼の魔力が上がらないのは、単純に彼の魔素(マナ)の『通り道(ゲート)』が極端に狭いせいだからよ。それすらなんとかすれば、今より少しは改善されるようになるんじゃないかな」


 とリアンは言った。


「『通り道(ゲート)』」と俺は繰り返す。


 それは魔術師なら皆知っているような単語だった。


 人は魔素を身体から放出させて、魔法を遣っている。これは生きていれば必ず漏れてしまう『余剰魔素』と言った物とは異なる、意図的な魔素の放出である。体内で存在する魔素を、外へと放出させる時に通るのが『通り道』(ゲート)と呼ばれる『毛穴』のような物だ。


 『通り道(ゲート)』を通る魔素の量に比例して、魔法の威力は高くなる。放出する魔素量が多ければ多いほど強い魔法になり、威力を弱くしたければ放出量を抑えれば良い。俺がスバルと特訓するまで魔力を制御出来ず、強い威力の魔法しか遣えなかったのは、その『通り道』という穴をどうしても小さくする事が出来ず、漏れ出る魔素の量を減らす事が出来なかったからだ。


「彼の場合はね、君と逆なんだよ」


「逆?」と俺は聞く。


「うん、彼はどうも見た感じ、普通の人と違って魔素の『通り道(ゲート)』を上手く『開く』事が出来ないみたいだったからね。しかも針穴(・・)みたいに小さな『通り道』を開くので精一杯みたいだった。多分だけど、彼の元々の魔力量が極端に低いせいで、うまく『通り道』が発達しなかったんだろうね。勿論、そんなに小さな穴だと、出せる量の魔素なんて限られているから、普通の人が出来るような魔法すら遣えない。ここまでは大丈夫?」


「なんとなく」と俺は答える。


「彼は頑張ってみた所で、その『針穴』レベルの『通り道』しか開けないから、それが当たり前の事だと思っている節がある。だから、普通の魔法に必要な『通り道』の大きさという物を想像できないし、普通の魔法を遣うのに、どれくらいの魔素が必要なのかも考えられない。おそらく彼は、今どのくらい、自分に魔力が無いのかもわかってないんだ」


「わかってないって、そんな」


「勿論、頭ではわかっていると思うよ。『自分は魔力が無い』って」


 とリアンは続ける。


「でも、それは言葉としてわかっているだけ。実際それが具体的にどういう事なのかを、感覚としては掴めて無いんじゃないかな。『言葉で知る』事と『実際にその感覚を知る』事は違うだろうから。だから、魔力を増やそうにも、そもそも何をどう増やせばいいかって事がわかってないんだと思う。どんなに頑張ろうとしても、頑張り方がわからないなら、魔力は一向に増やせないからね。彼の魔力が成長しないのはそういう理由だからだよ」


「……ええと、つまり、なんだ」


 と俺は少し考えてから言った。


「彼の『通り道(ゲート)』を大きくして、魔法を遣う事がどういう事なのか解らせてあげる事さえ出来れば、諸々解決するって事?」


「まぁ、うん、そういう事だね」


 とリアンは頷く。


「そうしてやる事で、彼は自分の魔力の無さが具体的にどれくらいの物かに気付くだろうし、あとどのくらい魔力を増やせば、他人の遣っている魔法が遣えるようになるかも理解出来るようになるだろうね。そうなれば今の『どうしようもない状態』からは抜け出せるんじゃないかな?」


 早い話が、実際に経験させてみるのが一番、という事のようだ。


「……でもさ、聞いているとなんだか凄く単純な事のように思えるんだけど。そんな事、もうとっくに誰かが気付いているんじゃないの?」


「そりゃ気付いているだろうね。トインビーなんかは特に」


 とリアンは言った。


「でも、彼ですら、それは出来ないんだ」


「どういう事?」


 と俺は聞く。


「『通り道』を開いてあげればいいだけじゃないのか? スバルが俺にしてくれたのと逆に」


「うん。方法としてはそれであってるよ。ブルームフィールドくんの『通り道』を、魔力で無理矢理こじあけてやればいいだけさ。でもね、物事はそう簡単には行かないんだ。『通り道』を限界以上に開くっていうのはね、言ってみれば他人の才能を伸ばすって事で、かなりの魔力が必要なんだ。それこそ、ニンゲン程度の魔力じゃ不可能だよ。それこそ、精霊の力(・・・・)でもない限り、ね」


 とリアンは強調する。つまりは、そういう事なのだろう。


「多分君の力でも、彼くらいの『通り道(ゲート)』を開いてあげるだけで精一杯だろうね。それ以上の物を開こう物ならその魔力に身体が持たないかもしれない。でも1度開いてあげればそれで十分だろうから、君がやろうと思えば一瞬で終わる事ではあるよ。なんなら男子生徒寮へ行って、今すぐそれをしてやる事だって出来るだろう」


「そうなんだ」と俺は言う。「リアン、教えてくれてありがとう。なら、明日にでも早速――」


「でもねノエル、僕はそれが、彼の幸せになるかどうかについては怪しいと思っているんだよ。多分、トインビーが君にその可能性を教えなかったのも、同じ事を思っているからだ」


 俺の言葉は、彼の優しい声に遮られる。


「どういうこと?」と俺は聞いた。


「言ったよね。彼の『通り道(ゲート)』を開いてあげれば、彼は自分の魔力の無さが具体的にどれくらいの物かに気付くって。確かに『通り道』を開いてあげれば、彼は少しづつ魔力を上げていく事が出来るかもしれない。だけどね、ほんとに少しづつでしかないんだ。気付いていると思うけど、彼の魔力は相当低い、才能がほとんどない。それこそ、普通の人なら出来る、『物持ち上げ』すら満足に出来ないくらいで、針穴程度の『通り道』を通る魔素しか出せないくらいにね」


「……っ」


 彼の言わんとしている事がわかってしまう。


「彼の魔力はとてつもなく低い。それはもう、何年、いや、もしかしたら何十年かけても、今の君の同級生がやっているような、初歩的な『物持ち上げ』が出来るようになるかどうかってくらいに、凄く時間がかかる。君がしようとしているのはね、彼に魔力を与える事じゃない。ほとんど初対面の彼に『お前には魔力が無いんだよ、才能が無いんだよ。魔術の道なんて、諦めた方がいいんですよ』って事を、はっきりと理解させる事でもあるんだ」


 リアンは続ける。


「『どうにかならなく』はない程度しか出来ないっていうのはね、そういう事なんだよ、ノエル」





「お前、こんな所で眠っていたら風邪を引くぞ。おい、起きろ、おい」


 身体をゆすられて、それで目が覚める。


 目を開けると、スバルがいた。俺は気付けば床に座り、ベッドによりかかる体制になっていた。どうやらリアンと話をした後、その事について考えているうちに、ついうっかりと眠ってしまっていたらしい。一体どのくらい俺は眠っていたのだろうか。少しばかり身体が硬く痛い。


「スバル、お前、帰って来たのか」


「ああ、たった今な。そうしたら部屋にお前が眠っていた。待ってくれていたのか?」


「いや……うっ、くしゅ」


 そういう訳でもないのだけど、と続けようとした言葉はくしゃみに遮られてしまう。身体の奥から寒気がして、身震いをする。風邪をひいてしまったのかもしれない。


「まったく……。嬉しいが、待たなくていいと手紙に書いていただろう。読まなかったのか?」


 とスバルは苦笑いをする。どうやらスバルは俺が待っていたのだと解釈したらしい。少し馬鹿にされたような気もするが、否定するのも何か違う気がしたのでそのままにしておく。


「いや、読んだけどさ……今何時?」


「とうに日は変わっている」


 ほら、立てるか。


 と彼は俺の腕を掴んで立ち上がらせる。立ち眩みがしてしまい、額に手を添える。少しばかり身体がふらつく。


「……おかえり、お前、今日はどこへ行ってたんだよ、そんな急に」


「ただいま。……まぁ、色々と、な」


「なんだよ?」


「そうだな、まぁ、お前には関係の無い所だ、気にしなくて良い」


(……なんだよ、その言い方)


 はぐらかされる。別にお互いの事を、何もかも話さなければならない関係でもない。だが急にいなくなって、少しばかり心配もしたというのに、そういう言い方をされてしまうと少しばかり思う所も出来てしまう。


「……そっか」


 と俺は少しばかりもやとした物を感じながらも、そう返す。


「何か、話したい事でもあったのか?」


 とスバルは聞く。


「……いや、大丈夫」


 と俺は言う。彼を待っていたつもりでは無かったものの、会えたなら会えたで、リアンに聞いた話の事で、少しばかり相談に乗って貰いとは思っていた。しかし、今の事で話したいと言う気持ちが、萎えてしまっていた。


「急にどこへ行ったのか、心配になっただけだから。それに、お前も帰って来たばかりだし、疲れているだろ。夜も遅いし、俺は部屋に帰るわ」


「送っていこうか」


「それくらい1人で帰れるっての。じゃあな」


 と言って、部屋を出る。


(子供みたいに扱いやがって……)


 自分でも理不尽な怒りを感じている事はわかっていたが、それでもその怒りを上手くコントロールする事が出来なかった。


 その怒りは一晩眠れば収まるようなつまらない物だった。しかし話しそびれたその相談は、結局実行に移すまで、スバルどころか、アレックス本人以外には誰にも相談出来ずじまいだった。




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