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家族の内情

「マミー」

「どうしたのイツキちゃん」

「ついこの間引っ越してきたていうのは本当?」

「ほんとよ。ある程度記憶があっても今の人生は1度きりだから何もかも楽しくて仕方が無いわ」


なんだか真美とたどたどしくもそういうやり取りを交わしているうちに、眠たくなってきた。

ほっとすると、張りつめていた糸がふっつりと切れるように体のこわばりが溶けるのだ。


「ねえマミー、みんなは私の事をバグだとかモブだとか欠陥だとかエラーっていうけど、本当に私はヒロイン、なの?」

「そうよ?」

「本当に?みんなは…マミーみたいな感じではなくてちょっとデータだとか設定だとか、本当にゲームの中の人間みたいな感じだった」


その点、真美の言動は自由度が高く、思想や言葉遣いも人間らしい。

ここにいるのは生きた人間だと理解するのは少し複雑な気もしたが、真美の手の温かさやかぐやの背中の温かさ、そして体のあちこちから上がる悲鳴をもう無視することはできない。


「あの子たち…学園にいる子たちは、そうね…少し制約に縛られている節があるし、役が役だから私みたいにはいかないっていうのもあるんじゃないかしら」


彼女はうつらうつらしている私を見てちょっと笑った。


「部屋で休んできてもいいのよ?帰ってきたら起こしてあげるから」


お言葉に甘えようかな…。

でも最後に、本っ当に気になって気になって仕方が無い事があるからそれだけ聞いて眠る事にしよう。




「マミー、最後に一つだけはっきりさせておきたいことがあるの」

彼女は操作していたパールホワイトのノートパソコンから顔をあげすに頷いた。







「攻めの反対は?」


「受け!」




そうですかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!


若干目が輝いて見えるのはどうしてなのかな?!すっごい勢いで顔、バッて上げたよね!

さすがにそういう確認方法で来るとは思ってなかったのかな?!


「イツキちゃん!あなたって最高ね!てっきり私『マミーってヲタクですか?』って聞かれると思ってたの!」


いえいえ、ヲタクなのは分かっていたんですよ?

でもねー、アニソンだと思われるCDが大量にあっても、メイトっぽい紙袋が部屋の隅にあっても、背表紙を隠すように薄い本が本棚に差されてあっても信じたくは無かった!


「実はねっ、私〝ムーン@ディスタンス〟のゲームをやりたくてやりたくてたまらなかったのよ!考察サイトとかにあしげく通って、ゲーム実況とか見たりするんだけど、やっぱり本物やってみたいなーって」

「まってまってまって!」


大事なことを、何かとてつもなく大事なことを聞いた気がする。


「そのパソコン!どこのネットにつながってるんですか!?」


すると真美はしまった、というように口元に手を当てて口をつぐんだ。


「ムーン@ディスタンスのゲーム実況やってるのってゲームのある世界ですよね?」

「えっ…とぉ」

「マミー?」


やさしく、しかし絶対に吐かせてやるという強い姿勢で彼女に詰め寄った。


「なんで、ゲーム実況とか、考察サイトとか、あしげくかよえてるんですか?」


黙秘をするつもりかわざとらしく紅茶に口をつけて目を泳がせるマミー。


ちっ、往生際の悪い!


「マミー、もしもこのパソコンが外に繋がってたら私の腐れ縁の友人で〝ムーン@ディスタンス〟にぞっこんLOVEだったヲタクのメールアドレスとアカウントを教えてあげましょう」

「………イツキちゃんの言う通り、このパソコンだけはよその世界のネットに接続しています」


まじかーーーーーーーーー!


昨日から何度メールを送っても送信失敗の表示ばかり、ネットにも繋がらないただの電子の塊と化したケータイをタップするが相変わらずだ。


「メールは?!」

「送れる……かも?」

「よしっ!」


さっそくマミーからノートパソコンを奪って友人にメールを組み立てる。

即レス…してくるはず!というなんとも無責任で無根拠な勘と勢いの元enterキーを叩いた。





〝To:*******-****@gmail.com

 Sub:Re:ムーン@ディスタンスなう

 

 ちょおおおおおおおおおっとぉ!

 あんた二日間どこ探してもいないし連絡つかないって大騒ぎになって捜索願出されてニュースとかでも失踪事件として取り上げられはじめてるってえのになんてぐふぐふ言いたくなるような冗談ぶっ込んだメールをよこしてくるかなあ!

とりあえずkwsk!話聞かせなさいよ!できればどこまで攻略したかもkwsk!っていうかどうやってそんなとこに行ったのか教えろ!試す!そっちの世界がリアルだって言うんなら攻略するんじゃなくって攻略されるってことか!おいしすぐるじゃまいか!以下省略〟





人に見せるのが恥ずかしくなるようなメールをよこさないで欲しい。

本当にどこに出しても恥ずかしい友人だ。


「マミー、これからこのヲタと自由にやり取りしていいですよ」

「えっ、いいの?」

「そいつも喜びますから。こっちでそういう風に話しつけておくんで」


手慣れたようにキーボードをタイプする私をマミーはじいっと見つめる。穴が開くから止めてくれませんか。視線ってビームですよ、刺さるんですよ。


「このメールアドレスって、私とのやり取りのためだけに作ったんで、それですぐに気付いてくれて信用してくれてるんです。どこに出しても恥ずかしいヲタクですけど、根はいい奴なんで」

「信頼されてるのね」


「え?」


振り返る私にマミーは微笑んでいた。


「誰よりも先に頼りたいって頭に浮かぶなんて、信頼されてるんだなあって」

「……縁も趣味も腐りきってるんで、切るのが面倒なだけな関係ですよ」


マミーは、私のケータイを何度かつついて使い物にならない事を確認するとふっと笑った。


「今度のお休みに、一緒にケータイ買いに行きましょ?」

「え?」

「あら?だって連絡取れないと困っちゃうじゃない。文化レベルが昭和よ?そんなんで生きていけるだなんて思えないわ」


それはあなたがネットと仲良しこよしだからな気もするけど…、でも、ケータイがなくて困っていたのは事実だし…。


「じゃあ、マミー一緒に選んで」







がばっと身を起こすと見知らぬ家の中だった。

浅くはっはっと肩で息をする自分は、一体に何に驚いて起きたのだろう。

いや…いつの間に眠っていたのだろう?

掛けられていた毛布がはらりと落ちて、突然肌寒くなる。

どれほどぬくもりと柔らかさに飢えていたのか、人様の家のソファで爆睡するなんて…とただただ唖然とするばかりだ。

自分が気を張っていた事も同時にわかった。


「マミー…?」


かろうじて、ここで助けを求められる人物の事を思いだして部屋を見渡した。

しかし、そこはリビングではなかった。

もっとよく見ると、自分が横たわっていたのもソファではなくベッドだった。

リビングのソファで…眠っていたのではなかったのだろうか?

頭の中は混乱を極めた。

思わず、頭に手を当てる。

そこには確かに痛みを主張するたんこぶが存在した。


ああ、あのふざけた学園での出来事も…めぐるの事もかぐやの事も…そして異世界トリップという現象の事も夢ではなかったのか…。

体から力が抜ける。

そしてもう一度ぼふんとベッドに体を放り投げた。

実家で使っていたベッドよりも格段に質のいいそれは、イツキの体を溶かすように包み込みそして沈みこまぬように支えた。

うっかり眠ってしまったが、ここは仮住まいで、私の本当の家ではないし、ここにいる人たちも本当の家族ではない。

なのに、もう自分はそこに溶け込もうとしている。

いやいやいや…、そうするしかないでしょ…わたし、か弱い乙女だし…。

か弱い乙女、という言葉に自分で笑ってしまう。

だって本当に


「…ここでは私、ヒロインなんだもん」


その一言は全ての逆境に対する免罪符のようで…思わず眉をしかめる。

眉をしかめ、ふくれっ面でもしていなければやってらんないわよ!





部屋を出て階段を下りていくとちょうどパールホワイトのパソコンを閉じた真美がいた。


「マミー…あの…」

「ああ、ごめんなさいねソファで船をこいでたから…部屋に連れていったの、覚えてない?」


ゆっくりと首を横に振ると、更に申し訳なさそうに「ごめんなさいね、驚いたでしょう」と肩をすくめた。

「あいつとは…」

「今、ちょうどチャットを開設して話に花が咲いたところよ。でもお互い考察に時間がいるだろうって一時中断したところ、家事が滞っちゃあ主婦の名がすたるしね!」


すこしどころではなくとてもうれしそうに頬を上気させる姿は無邪気な少女のようだ。

その顔にはやはりゲームパッケージで困惑した笑みを浮かべるヒロイン(私ではない)の面影が見えかくれする。





真美がキッチンで料理をしている間、私は流しっぱなしのテレビをぼんやり眺めていた。

やっぱり、というか当然のことだが知っている顔はひとつも見当たらないし、私と同世代の女の子たちが黄色い悲鳴をあげてうちわを持ってはしゃいでいるアイドル達もヒットしているポップスもどれも知らない。

せめてもの救いは、あの使えないスマホにみっちり詰め込んでおいた私の好きな音楽たちを再生することが出来るという事くらいだ。

抱きかかえたクッションにずぶずぶと顔を埋める。

もう日もくれてカーテンも閉めて、ここは完全に密室だ、何のイベントもおこらないし、私は私のままでいてもいい。

押し付けられた役を無理矢理に演じる必要なんてないんだから。




「ただいま」


「あらおかえりなさい」


リビングのドアを開けて響いてきた声は父親役にしては幼すぎた。

思わず顔を上げて声のする方をまじまじと見つめてしまう。


〝彼ら〟は微笑んだ。



「ただいま、ねーちゃん」



その瞬間、なぜか背筋がぞわぞわーっとして体中に電流が流れたような甘いしびれがはしった。

それはどう言い表せればいいのか分からなかったけれど、めぐるが守るように腰に手をまわしてくれた時の感じに似ていた。

直感的にわかる、〝この子たち〟が私を助けてくれるんだ……って。



「って言っても、はじめまして?になるんだっけ、ね、母さん」

真美の方を少し見上げて少し背の低い彼は首を傾げた。

真美も笑う。

「そうねえ…イツキちゃん、うちの家族構成知らないだろうから紹介するわね」


瓜二つのまったく見分けのつかない少年が…ふたり、照れくさそうに顔を見合わせる。それはまるで合わせ鏡のようで。


「あなたの双子の弟さーくんとゆーくんよ!」


咲馬さくまです、中等部2年14歳えっと…好きなものは」

「おいそんなの追々一緒に生活してれば分かるんだからさっさとおれに代われ」

「ったく、初対面の時の印象って大事なんだぞ、おれはねーちゃんと仲良くしたいの」

「このシスコン!」

「うっせえ、お前こそ帰り路ぶつぶつなんて自己紹介しようか悩んでたくせに!」

「あっ!てめえそれを今言うやつがあるか!?サイッテーだな!」




息がとってもあってる……漫才コンビの掛け合いを見ているみたいでとても癒されて頬が緩む。

ああ、双子の弟がいたんだ…このヒロイン。やっぱ家族構成も超ぶっ飛んでる。

おずおずと手を上げてみた。


「…あの、さーくんと仲がいいのはよく分かったからゆーくんの自己紹介が早く聞きたいです」


すると片割れの…おそらくゆーくんの顔がぱあっと晴れるように明るくなった。

何この天使。わんこみたい!


結馬ゆうまです、同じく中等部2年の14歳で双子でバスケしてます!」

「バスケ?!わたしもやってたの!」

「「ホント?!」」


ポジションはどこ?何番?あ、オフェンスとディフェンスどっちが得意?そっかー中学から始めたんだ、私も中学からはじめたんだよー、偶然だねー以下略…。

何だ、この突如生まれた一体感は。

初対面の他人とこんなあっちゅうまに打ち解けられた事なんて人生で皆無に等しい。

あー、弟かー兄弟いなかったからちょっと嬉しいかもしれない。


「イツキちゃん、私もふたりの事よく間違えちゃうくらいそっくりだけどふたりともとってもかわいいから仲良くしてあげてね!」

「さーくんとゆーくんって呼んでもいい?」

「もちろんっす!」

「おい咲馬、敬語は止そう。ねーちゃんが馴染みづらくなるからって話しただろ?」

「あ、そうだった」


そんなことまで考えて私のこと受け入れてくれるなんてなんて優しいんだろう!ああ天使!

…見方によってはこのような兄弟を俗に〝シスコン〟という。


…とそれはさておき…

「ねえ、私が…ここに来る前にいた…お姉ちゃんは…どうしたの?」

ふたりが小首を傾げた。

「それが不思議なことに…ねーちゃんはねーちゃんの姿で記憶の中にあって…二日前に失踪して…母さんから今朝電話があった時に漠然と…」

「なんか、ヘンな感じがするんだけど…でもやっぱり、思い出とかは全部ねーちゃんのままで」

「ちなみに私も同じよ。…気にしなくていいのあなたの前に誰かがいた事実なんてないから。私の娘はあなただけで、さーくんとゆーくんのお姉ちゃんもあなただけだから」

「そ、ですか」

「まあ簡単に言えば、おれたちのねーちゃんはねーちゃんしかいないってこと!」


よろしく!

差し出された二人分の手をおずおずと両手でつないだ。


この二人がイツキを守る最強の(もしくは最凶の)守護神と後に呼ばれることを今はまだ誰も知らない……。


この双子くんを兄にするか弟にするかとても悩みました(笑)

イケメンの中に双子を入れようかとも考えたのだけど…やっぱり鉄壁の防御がいるなあと

じゃあ守護神ってなんだろうって考えた時にぱっと思い浮かんだのが狛犬です…きっとさーくんとゆーくんは立派な狛犬になってくれるでしょう(笑)


そして、マミーの事に関してはあえて触れずにおいてみましょう

ええ、放置です


最新話の更新が遅れてしまって申し訳ありません;

今話も読んでくださってありがとうございます

では次話も乞うご期待!

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