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家まで送るよ?いや、ホントはお断るから!

かぐやが一歩歩きだすよりも早く、かぐやの前に立ちはだかった小さな影があった。

めぐるだ。


「はいはーい、保健室には私が連れてくからかぐやあんたは付いて来なくてもいいわよ~」

「なんだよめぐる、コイツ運ぶ邪魔しないでくれないか」

「私は、あんたとイツキがくっついてるのが気に食わないの。一秒でも早くイツキから離れてくれない?」


腰に手を当てて主張するめぐるを一瞥してすたすたとかぐやは歩きはじめた。


「ちょ、ちょっと?!かぐや待ちなさい!」

「コイツ運ぶ方が先、悪いけどお前にかまってる暇ないからな。俺は怪我させた奴を保健室に送ってやりもしない度量の狭い男じゃねえし」

「か、かぐやくん…」

「呼び捨てでいい。…それで何?」

「何で私が主顔じゃないのにヒロインだって気付いたの?」


彼は立ち止まらず歩きながら考えを巡らせた。


「うーん、俺あのボール絶対キャッチしたはずなんだけど…磁石に吸い寄せられるみたいにひゅーんと飛んで行ったから…かな?」


かぐやの歩くスピードは速く、追いかけるめぐるの息が上がっている。


「主顔じゃなかった時はほんとビビったけど…でもお前は間違いなくヒロインだと思う」

「どうして?」

「顔見た時にちょっとかわいいなと思ったから」

「バカっ!」


かぐやは容赦のないめぐるの蹴りをひょいとかわす。

あけすけにそう言われて顔が真っ赤になるのが手にとるように分かった。

背負われててよかった…こんな顔見られたくないし。


「あんたそういうこと言ってまわるから周りの女の子たちが報われない恋心を抱くことになるんだよ?!いいかげん止めてってば!」


かぐやはめぐるの言葉を意に介さない。


「それにしても…イツキって言うんだ。ちょっと俺感動した」

「なんで?」

「名前に〝つき〟が入ってるから、おれ達とお揃いでなんか嬉しい」

「おそろい…?」

「ああ、他の奴にはまだ顔合わせてないのめぐる?」

「そうよ、家まで送るイベントが起こるのはあんたと…深月先輩だけでしょ」

「ああそれで…、でもイツキ、お前一人でも家に帰れるんじゃね?」

私は首を振った。

「家が分かんないの…」

「は?」


そこでようやくかぐやは立ち止まってめぐるを振り返った。


「こいつヒロインなんだろ?こういう欠陥があるなんておかしいだろ」


息が上がりきっためぐるは苦しげに苦笑いを浮かべて「詳しい話は保健室でしましょ」と顎でしゃくって保健室を指した。





保健室の先生はあらあら今度はあなた?っていう感じで手際よく氷をアイシングの袋に詰めて渡してくれた。

じんじんと痛みを主張していた脳天にあてるといくらかマシになったが、それでもまだ痛い。本当に、しっかりしてくれよかぐや。あなたさえボールを手放さなければ痛い思いなんてしなくて済んだんじゃないかな?


「かぐや、名前に〝つき〟がはいっててお揃いってどういう事?」

「ん?ああ、主要キャラとか地名には必ず月にまつわる名前になるって決まってるんだ。おれはかぐや、かぐや姫のかぐやだと思うんだけど…女っぽくて変な名前だろ?」

「別に、そうは思わないけど」

「イツキって名前はすごくしっくりきた、お前ちゃんと地に足付けて生きてる感じがするもんな」


そう言われると顔を赤らめて俯くしかないと思うんだけどどうなんだろう。こういう事を他の女の子たちにもストレートに言ってるのだとしたら…叶わぬ恋に身を投じる女子たちが続出しても仕方ない気がする。

ああ、だから「いい奴だけど残念なイケメン」なのかな。

イツキ、という名前を漢字に戻すと樹、となる。

男の子とよく間違われるような名前なのでかぐやには親近感がわく。


「で、イツキ。お前の分かんない事って何なの?家だけ?」


少し考え込む、が答えは一つしかない。


「この世界の事全部」


沈痛な面持ちなのはめぐるの方だ。


「わたし、ヒロインとか配役とかセリフとか設定とかそういうこと全部分かんない。頼ることしかできない。すごく迷惑かけることになるけど…いいの?」

「私がイツキをここで見離すとおもう?」

「俺も、そういう事で困ってる奴を平気なツラして素通りするような奴だと思われてるんだったらちょっとカチンとくる」


もう、こんな事を言われたらどんな顔したらいいのか分かんないよ。


「で?めぐる、お前が俺にイツキをまかせたのは…家まで送るイベントを発生させたいからだよな?」

「任せただなんて一言もいってない…けど、そういうこと」

「じゃあ、めぐるお前がいるからイベントが進まないんだと思う、悪いけどちょっと席外してくんない?」


眉間にこれでもかとしわを寄せて「わかったわよ!」とめぐるはでていってしまった。

まてまてまて!待ってよメグ~~~~~!一人にしないで!

いや厳密にいうとふたりっきりにしないで~~~~~!

保健室のベッドに腰掛けた私とかぐやの周りに白いカーテンがかかっている。

窓から風が入ってくると、ふわふわとたなびいいた。


「さて、じゃあ続きをしよっか」


ごめん、これは私の心が薄汚れているせいだと思うんだけど、めちゃくちゃやましい事をしている気分になるからそういういたずらっ子みたいな笑みを浮かべながらセリフを吐かないでくれるかな!?

黙っている事を肯定ととらえられたのかテロップが現れた。



〝「ホントごめんな」

  彼の申し訳なさそうな顔になんだか居心地が悪くなる

 「いいよ、別に…大した事もないし、私は平気だから」〟



テロップは消えない、黙り込んだままの私にかぐやが視線で読むように促し

た。

読むの?!ねえこれ読まなきゃ駄目なの?!私の声なんて聞かなくたっていいでしょ!?

しかし、しぶしぶ「いいよ別に大した事もないし私は平気だから~」と言ってみる。

かぐやが頭のてっぺんに触れた。

反射でぎくりと体を強張らせてしまう私に、大丈夫とでもいうようにあやすように撫でられる。



〝「大したことなんかじゃないだろ、万が一当たりどころが悪かったらたんこぶひとつですまなかったんだからな?」〟


かぐやが立ちあがって私の手を引いた。


〝「心配だから家まで送る、荷物取ってくるからお前はここで大人しくしてろよ?」〟

〝>「うん、わかった」

>「え、別にそんなこといいよ」〟



さすがにここは「うん」を選ばなきゃいけないことくらい私にだってわかる。

頷くと、かぐやは柔らかく目を細めた。


「じゃあ、帰るか」

「あ、は、はいっ」


くしゃっと、大きな骨ばってマメタコだらけの手が髪をかきまぜた。


「何照れてんだ、イツキお前この程度で赤くなってるとこの先持たないぞ?」

「わ、わかってるよ!」


本当は全然分かってないけど、ここは意地を張っておいた。

だって、なんか笑って余裕たっぷりの顔が絵になるから悔しかったんだもの。

ああ、でもこんなに顔赤かったら説得力なんてないかも。

そっと、頬に指をなぞらせると熱さがじんわりと伝わってきて思わず目を伏せた。


「どうした?」

「……ううん、ちょっと疲れただけ」


本当は胸の中でたくさんの事が渦巻いていた。

これから「帰る」という家はどんなところだろうか。母と父を演じている人の元に行くのだろうか。ハリボテのような家なのではないのだろうか。

もやもやとした胸の内を見透かしたかのようにもう一度くしゃくしゃと頭をかきまぜられた。


「イツキ、」


その先は続けなくとも分かる。


「いいよ、かぐや家まで送って?」






「へえ、ちゃんと住宅街がある」

「当たり前だろ、この窓ひとつひとつにちゃんと生活してる人間がいるんだ」

「そうなんだ」


お前の家はここな、と案内された道は思いのほか簡単だった。

青い屋根の今風のシンプルな家はひと目で気にいった。

かぐやがインターホンをプッシュすると「はーい、ちょっと待ってねー」という明るい声が返ってきた。

固まってしまう私の背中にかぐやが手を添えた。

どっどっどっど、と心臓が嫌な鼓動のリズムを刻む。

玄関が開いた瞬間、テロップとBGMが始まった。




〝「イツキおかえりなさい、学校はどうだった?気に入ってくれたらとっても嬉しいんだけど…あらこの子はどちら様?」〟


〝「沖口かぐやと申します。すみませんお嬢さんに怪我をさせてしまったので家まで送らせてもらいました」〟


〝「イツキ、大丈夫なの?沖口くんもほんとにありがとね。この子どんくさくってすぐに転んだり物にぶつかったりしちゃうのよ…沖口くんは気にしなくっていいからね」〟


〝「いえ、大切なお嬢さんに怪我をさせてしまうなんて…イツキ、もう大丈夫か?」〟


〝>「大丈夫」

 >「ううん、まだ気分悪い」〟


ここは「大丈夫」を選ばせてもらおう。

頷くと少しほっとしたように顔を綻ばせた。

そんな顔に安心してしまう。



BGMが途切れると一気に明るい声が弾けた。


「もーーー!ほんとにいつもいつもかぐやくんありがとうね!また磁石に吸い寄せらえるように球が飛んでったんでしょ?」

「いえいえ、毎度のことながら今回は肝を冷やしましたよ」

イツキ、と母親(役)の前に突き出された。


「イツキちゃんおかえり!」

「ど、どうして私の名前…?」

「学校からよ、今回はいつもの通りにはいかないようだどうしようって校長が半泣きですがってきたんだからほんとに頼りないわよね!」


それはあなたが強靭すぎるからなんじゃ…?

いや、半泣きであなたを頼る校長も校長だけどさ!


「かぐやくんあなた早く帰りなさい、そろそろひと雨きそうよ?」

差し出された傘を受け取ってかぐやは爽やかスマイルを浮かべた。

「はい!ありがとうございます!じゃあまた!」




「イツキちゃん、家の中はいりなさい」

「あ、あのっ!」


家に入る前に白黒はっきりさせたかった。


「あのっ、あなたは私の母親役としてインプットされたデータなんですか?それともエキストラみたいに公募された方なんですか?家の中に入ったら…」


家の中に入ったらゲームのデータが無い事として真っ白い空間に放り出されたりしないだろうか、それが怖かった。

しかし彼女はそれを見透かしたように怒りも取り乱しもせず、仕方ない子ねというように笑って腰に手を当てた。


「イツキちゃん、あなたは根本的に間違っているわ」

母はイツキの手を取って胸に押し付けさせた。

「心臓動いてるの、分かる?」

頷く。

「呼吸をするたびに胸が上下するのも、温かいのも、分かる?」

頷く。

「一晩駅のロータリーの前のベンチで眠って悲鳴を上げてるあなたの体の疲れは…ゲームの中の物だと思う?生きてるあなたの体の悲鳴が嘘だと思えないんじゃないの?」

「…はい」

「とりあえず家の中に入りなさいって」





「まずは温かいもの飲みなさい。何が好き?」

「あ、えっと…」

「ホットミルクににしとく?」


こくこくと頷いた。


「ベンチで一晩とかいくら若くても無茶しちゃだめよ、この辺治安がいいって言っても変態はいるんだから」

「あ、え?ああはい」


一瞬何を言われたのか分からなかったが、とりあえず心配されたのだと理解する。


「さて、イツキちゃんはゲームの中だって勘違いしてるみたいだけど、ちがうの…あなたがしたのって〝異世界トリップ〟なのよ」

「は、はあ?」

「あれ?二次創作とかネットの夢小説とかそういうの読まない方の子?」

「え、ええ、そうですね…」


母だと思っていた人の口からあの腐れヲタの言っていた単語が飛び出てくるのがどこか悲しいのだがそれは私だけか?

私だけなのか?


「あっ、そっかあ、じゃあ分からなくっても当たり前よねえ」


正確に言うと、言葉の意味は知っているので理解はしていますけどね。

相槌を打つ母(仮)は優雅に紅茶をすすった。

そしてちょっと席を立って、パールホワイトのノートパソコンに電源を入れた。


「この町も学園も私たちも、仕事をしに通勤しているし、勉強するために学園に行くわ。私だって、子どものころから記憶を持ていたけれど普通に暮らしてる。つい最近引っ越してきたのもほんとよ?」

「え?ええ、えっと、あの同じ年月を何度もやり直すんじゃ…?」

「ばかねえ、そんなサザエさんじゃあるまいし」


おおっと、そこで国民的アニメの甘えを持ちだしてきますか!お母さま怖いものなしですね!


「私たちがゲームの記憶を持っているのは、何度も繰り返した前世の記憶何じゃないかなーっていうのが私の考察?」

「は、はあ」


そこに考察ときますか…あんたほんとはあの腐れヲタと同類の人間なんじゃないかって心配になってきた!


「小説とかではありがちな設定なんだけどねー、何度も前世を繰り返してるっていうサイクルは興味深いわ!萌え…燃えるわよね!」


いま、萌える言おうとした!

ヲタ、ヲタ確定でもういいよね!?

なんかお母さんがヲタクって複雑やわ…子どもとしては複雑。


「だから心配しないで、イツキちゃんは普通に年を取って普通に大人になって、就職して家庭を持って老いて死ぬから」

「そうですか…」

「あ、でもね?」


でも、と続けられた言葉に不安を覚える。


「でもたぶん、このサイクルに放り込まれちゃったら、この先何度も何度もヒロインの配役で来世も再来世も続けることになるんじゃないかしら…」



あまりの衝撃に思わず立ち上がって「どうして!」と声を上げた。


手に持っていたマグカップは床に転がって、牛乳が床にぶちまけられた。


「そうよね、ふつうそういう反応するわよねえ」

笑みを浮かべたまま母(仮)はぶちまけられた牛乳と転がったマグカップを

片づけた。


「……………あなたは何度も何度も繰り返すことがこわくないんですか…?」

「そうねえ」


彼女はそう問いかけられるとは思っていなかったのか、ちょっと頤に指を当てて首を傾げた。

「はじめはね、怖いと思うわ。私がこの世界の仕組みについて真剣に考えたときだってちょっと身震いしたもの」

身震いの種類が、好奇心なのか恐怖なのか彼女はあえて言わなかった。

「でも…たぶん私はこの先感謝して死ぬと思うわ」

「…どうしてか、聞いても?」

「死んだあと、何度も恋をして旦那とまためぐりあって結婚して、あなたを産んで、あなたの成長を見守って、そして幸せに老いて死ぬのが分かっているからよ。あなたの事はこれから知っていくつもりだけど…このみょうちくりんな決まりごとのある世界でそれだけは感謝しているの。何度も幸せにめぐりあう事ができてよかった、ってね」


突っ立ったままの私の肩にそっと手を置いて座るように促した。

そして座った私の隣に彼女は腰掛けた。


「私の考えの通りだとすれば、たぶんイツキちゃんの元いた世界には戻れないと思うのよ。色々思うところあると思うし、私の事なんて〝お母さん〟だなんて思えないだろうけど…頼ったり甘えたりしてほしいな」


そう言われてはじめてまじまじと彼女の顔を見つめた。


「私は真美よ。マミーってよんでね」

片目を瞑った彼女は、母であることを押し付けはせず古馴染の友人のように私に振る舞った。


ええっと、はたして更新を心待ちにしてくださっている方がいるのか心配な筆者だけども更新しましたよ!

かぐやくんがちょっと男前すぎますかね?大丈夫です今後出てくるイケメン達は期待を裏切らない残念っぷりを発揮してくれる予定ですので!←

 

読んでくださってありがとうございます!

次話も乞うご期待☆

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