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28 PK

 突然の宣言に戸惑うプレイヤーたち。

 しかし、PKという文字が飛び込んでくるなり、素早く武器を構え警戒する。


 薄暗く、不気味な風が吹く荒れ地だ。ぐるりと見回すも、動くのはmobばかり。

 今すぐ敵が攻め込んでくるわけではないと知るなり、ひとまずの安堵。


《ダークウルフ レベル95》


 敵のレベルは十分に高い。もしかすると、ここが敵の狩りにおける適正エリアなのかもしれない。となると、奴らは休憩中か、まだここまで達していないということになる。


 ひとまず、そのことを街の住人に連絡すべく、RUNEのマスターは一旦戻っていった。

 俺たちはその間、周辺を警戒する。


『さて、これからどうする?』

『敵を待ち伏せできる場所があるなら、そこを陣取ったほうがいいだろうな。ここじゃ広すぎる。攻め込まれたら、一気に居場所の見当が付かなくなるぞ』

『敵にとっても同じことじゃないか? 相手もこちらのエリアのことは知らないんだ。条件は変わらないだろう』

『仮に「完成が遅れると、災厄がもたらされる」というのが、メッセージが相手に出てないことだとすれば、奴らは警戒してないはず』

『しかし、分からない状態で動くのは危険すぎる』


 進んでいきたいものの、いつのまにか背後を取られている。そんな危険性を危惧して、彼らはできるだけ動きたがらなかった。


 けれど、俺はそんな中にメッセージを投入する。


『偵察してくる。いけるようなら倒してくる。見つかったら奇襲はなしになる、すまん』


 たった一人で乗り込む俺に、彼らは戸惑いを覚える。

 しかし、一人のほうが動きやすいというのはあるのだ。俺は彼らに比べると、遥かに聴力に優れており、偵察にはもってこいだ。


 狭いエリアや逆に遮蔽物がなにもないエリアだったり、待ち伏せでもされたりしない限り、逃げることだって難しくはないだろう。


『頼む』


 そう言って、俺に補助スキルがかけられる。以前のPvPで敵の位置を正確に把握していたこともあって、この辺は俺も信頼されているのだろう。


 俺は早速動き出す。

 付近にプレイヤーがいないことを確認すると、まずは手始めにmobに攻撃。

 刀を抜いて背後から一気に飛び掛かり、一閃。狼のモンスターは、一瞬で頭部を切り離された。


 獲得経験値74.3

 次のレベルまで5188.3



 どうやら敵がとりわけ強いわけではないらしい。また、現状このレベル帯では、あの鍛冶屋の装備一式はかなり強力な武器のようだ。


『mobはレベル相応のようだが柔く、経験値はレベル95で74.2と高い。湧きが悪くないなら、狩場には絶好だ』


 そんなメッセージに対する反応は芳しくない。

 さもありなん、敵を偵察に行ったのに、mobを狩っているのだから。よくそんなのんきでいられる、とでも思ったのだろう。


 しかし俺としては、相手がよほどうまく潜んででもいない限り特に奇襲をかけられる心配はないのだから、美味しいmobがいれば喜んでしまうのも仕方がないと思うのだ。


 いつまでもそんなことをするつもりもないので、さっさと次のエリアポータルを探す。

 敵は見つからない。そしてポータルも。


 そうして30分ほどたった頃、ようやく端に一つのポータルが見えた。


『ポータルを発見。突入する』


 俺はもうこのときにはすっかり探索する気分になっていた。もちろん、敵への警戒はある。けれど、やはり新しいマップに入るときは緊張するし、楽しみでもあるのだ。


 そうして足を踏み入れると、視界が暗転した。



    †



 そこは地下牢のようだった。薄暗く、松明の炎だけがあたりを照らしている。

 慣れるまで、視界はろくに使い物にならないだろう。しかし、丁度闇に慣れるあたりでまた光が現れるような配置になっているため、もう当てにしないほうがよさそうだ。


 俺は周囲の音に、耳を傾ける。

 からからと、地面を擦るような音。ゆっくりと歩く足音。息遣い。


『遠方に敵プレイヤーの存在を確認。おそらくあの戦斧を持っていた太めの奴だ』

『このエリアは地下牢で、松明がある。第十二エリアよりはやや明るい。奇襲が可能ならば、やってみよう』

『今のところ、mobのほかには奴だけのようだ』


 俺は思いついたことをひたすらメッセージで伝えていく。こうもまとまりのない情報を与えるのは、俺がパーティに慣れていないだけでなく、興奮しているからなのかもしれない。


 プレイヤーたちの返答によれば、彼らもすでにここの前のポータルまで移動したらしい。敵に追われた場合、こちらに移動してきたところを一気に叩くという算段のようだ。


 ポータルの移動直後は攻撃不可能となるが、一定時間経過後に畳み掛けてしまえばいい。

 となると、俺は囮であるのかもしれない。しかし、ここがフィールドである以上、敵を倒すメリットはある。


 もちろん、PvPのときのように、相手の数を減らせるというのはある。しかし、それ以外にも、ここでは経験値やアイテムが手に入る可能性があるのだ。


 それゆえに、俺は先行する。

 俺はもう躊躇しない。すべきことをやるのだ。


 足音を消すような足の装備に切り替え、俺は静かに進んでいく。すると、呻き声が聞こえ始める。


 どうやらポータルは、牢の一つの中にあったらしい。そこから出て、道なりに進んでいく間、左右の牢の中にいるmobが見える。


《囚人 レベル88》

《凶悪犯 レベル95》


 どちらも一般的なmobのようだ。衣服を纏っているがすでにぼろぼろで、目は落ちくぼんでいる。一応人に近い形をしているが、おそらく、分類としてはアンデッド型モンスターだろう。


 俺は奴らに気付かれないように、進んでいく。

 そうしているうちに、二つ曲がったところに、敵プレイヤーの存在が近づいてくる。


 一つ目の角にて待ち伏せしたいところだ。しかし、そこにはmobがいる。


《脱獄囚 レベル90》


 待ち伏せするとなると、奴が邪魔になる。プレイヤーがmobの相手をしているところを襲うのも歩くないのだが、いかんせん、その前に気付かれてしまう。直線のため、隠れるところがないのだ。


 さて、どうするか……。


 と、そこで俺は一つの鍵に目が留まった。すぐ近くに、錠のたばがかけられていたのだ。

 俺はそれを手に取り、確認する。番号がついている。どうやら、牢のものと対応しているようだ。


 素早く近くにあった牢の鍵を開け、中に飛び込む。

 そして刀を一閃。一撃で、モンスターの首を刎ねた。


「だ、だれだ! 誰かいるのか!」


 男の声が上がった。

 まずい。気付かれたか?


 しかし、すぐ近くでうーうー、と呻く声が上がるなり、どうやらmobだと見なしたようだ。


「はあ。いくらゲームとはいえ、こういうグロいのは苦手なんだよなあ。ったくベルナルトの奴、俺に面倒なクエスト押し付けやがって。くそっ……」


 確かに、あんな協調性のなさそうな奴が同じチームにいれば、苦労するだろうな。可哀そうに。

 俺はそんなことを思いながら、インベントリからアイテムを取り出す。油の入った袋と、ただの鉄の球体だ。


 袋は反対側の牢の近くに置いておき、鉄球はmobのいる格子の中に転がしてやる。

 すると、それに気付いた奴は呻き声を上げながら、徘徊を始めた。


 そうしていると、いよいよ曲がり角を曲がってきたらしい。奴は襲い掛かってくる敵に武器を振り下ろしたらしく、大きな音がした。


 もう、あとは一本道だ。視界は比較的悪くないが、俺のいる場所は死角になっていて見えないはず。そして、俺のいる場所の反対から足音がひたひたと、そして呻き声が頻りにあがっていることから、よほど耳が悪くない限り、そちらに意識を取られるはず。


 刻一刻と迫る状況に、冷や汗が流れ出す。。

 ややもすれば、俺のほうが危機に陥りかねない。奇襲が失敗すれば、狭い牢の中にいる分、刀は扱いにくいのだから。


 息を殺して潜んでいると、奴の足音が近くなってきた。

 刹那、奴を視界に入れた敵が、格子戸に汲みついてがしゃんと大きな音を立てた。


「ひっ! く、くそ、驚かせやがって!」


 男は苛立ち交じりにずんずんと近づいてくる。俺はスキル「パワーチャージ」と「セカンドリーパー」、「シャドウエッジ」を使用。


 姿勢を低くし、牢を飛び出すなり、刀を振るう。

 男の巨体がすぐ目の前に迫っていた。


 刀が闇に煌めく。手ごたえとともに、液体が飛び散る。

 しかし、致命傷にはなりえなかった。


「なんだ! なんだお前! どうして、ここに――!」


 わけのわからない言葉を呻く男に、俺は立て続けに二本の刀を振るう。しかし、奴もここまで生き残ってきた実力者だ。斧を巧みに扱い、ギリギリのところで弾き返してくる。


 俺は一方の刀を、体の側面に向けてスキル「フレア」を使用。

 ごう、と音を立てて巨大な業火が生じ、放たれる。


 それは油の入っていた袋にぶち当たり、ますます赤く燃え上がった。

 その瞬間、俺は奴の死角に入り込む。炎の明るさのせいで、俺の姿はもう見えまい。


 俺は刀を突き出す。奴は咄嗟に防がんとするも、狙いが外れて上腕に突き刺さった。


「あああああ!」


 叫び声とともに、力づくで斧を打ち下ろさんとする。

 不利な体勢からの攻撃など、失策だ。俺はさっと回避するなり、もう一本の刀を振り抜いた。


 刀は男の胴体を切り裂いていく。

 それでも、奴は倒れない。どうやら装備でHPが底上げされているらしい。


 数度の打ち合いの後、たまたま振るった斧がいいところに迫ってくる。俺はなんとか受け止めるも、力の差が現れた。


 突き飛ばされ、受け身を取ったときには、敵が俺目がけて振りかぶっていた。

 しかし、俺はあえて動かなかった。敵が振り下ろした瞬間、「ステップ」で無理やり体を動かす。


 敵は油断していたのだろう。そして、まだ目が慣れていないこともあったのかもしれない。

 俺の姿を見失って、慌てて振り返る。


 しかし、もう遅い。俺は刀を敵の首に、突き立てた。ごぽっと音を立てて、血が流れ出す。



 獲得経験値 7800

 レベルアップ!

 次のレベルまで6023.7

 獲得アイテム U邪神の斧



 敵の使用していたと思しき武器が手に入る。

 俺は早速確認。



 U邪神の斧

 重量6500

 攻撃力8000

 ◇打撃ダメージ+44%

 ◇切断ダメージ+44%

 ◇闇ダメージ99



 どうやら、完全に攻撃力に特化した装備のようだ。しかし、重量があまりにも大きいため、このままだと他の装備が疎かになる。


 おそらく、最大重量を増加させる効果を持つ装備と組み合わせているのだろう。たいてい、そういったものは移動速度などが低下するものだが、確かに奴の移動は早くなかった。


 すっかり忘れていた報告を、慌てて行う。


『奴を倒した』


 それ以上のことが特に浮かばなかった。アイテムなどはとくに連絡すべきことではなかったから。むしろたかられては困るのだ。


 プレイヤーたちの喜びを余所に、俺はてくてくと歩き出す。


『気付かれていないみたいだったが、奴が死んだ以上、メッセージが通じなくなるため、気付かれるのも時間の問題だ。今のうちに一気に攻め込む』


 俺はますます敵地へと入り込んでいく。あたかも、この状況を自分から望んでいたかのように。


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