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14 殺戮


 黒衣のSAMURAIギルドマスターは、血を吐きながら振り向き、震える声で憤怒を露わにした。


「貴様……! 騙し討ちとは卑怯な!」

「こんな手に引っかかるとは思ってなかったよ。さすがはアルマの言った通りだ。お人よしのばかしかいねえって」


 先ほど降伏する振りをしていた男は、彼の背を蹴りつけながら剣を引き抜く。


 俺はその様子を眺めながら、武器を弓に持ち替えた。今なら、奴はすっかり油断している。弱った相手をいたぶるときこそ、隙が生まれるものだ。


 気付かれない最低の距離を取ったところで、狙いを定める。

 まだ、確実じゃない。完全に男の注意がなにかに向いたところでなければ。


 そして、男が合図を出すなり、相手チームのメンバーが二人、援護につこうとする。

 その瞬間、囲まれるのを嫌って黒衣のギルドマスターが男へと飛び掛かった。しかし、息が乱れているせいか、力が入りきっていない。


 男は躱しざまに、胴体へと剣を叩き込む。そして、HPの限界を迎えたギルドマスターの肉体は、この世界から消え去った。


 刹那、俺は弓を引く。

 愉悦に歪んだ男の顔面を、矢が貫いていった。


 たったの一撃で男は倒れ込み、消滅する。装備の差が大きかったのだろう。加えてモーション補正も悪くない。


《獲得アイテム Uブラックワームスピア》


 どうやら、PvPでもアイテムは獲得できるようだ。


 俺は位置を捕捉される前に移動を始める。すると、並走する柳さんが俺にスキルを使用した。

 ふんわりと羽根が生えるエフェクトとともに、全体の速度が上昇する。


 なぜ、パーティでの行動をしていない彼女が支援スキルを取ったのか。その疑問はすぐに頭の片隅に追いやられ、俺の目は新たな敵に行く。


 mobと黒衣のメンバー、そして襲撃者、三者三様の行動をとる中、俺は狙うべき相手をすぐに見つける。リーダー格の男が死んだことに動揺している奴だ。突然の出来事に驚いているのだろう。


 しかし格好の的だ。俺は再び敵を狙い撃つ。二度目も狙い通りに矢は敵に突き刺さった。そして、やはりたった一度の攻撃で消滅していった。


 このとき俺の中に湧き起こっていた感情は、自身の行為への恐怖でも敵の行動に対する怒りでもなく、暗い失望だった。


 待ち侘びていたはずの世界大会。どのような形であれ、最高のパフォーマンスを発揮してやりたかったというのが本音だ。


 だが、今のこの状況は、理想とは大きくかけ離れている。恐怖が蔓延し、誰もが思った通りの動きができないでいる。


 これが、本当にリアルな戦いだというのなら――。


 俺はすぐに剣に持ち替えた。こちらに気付いて向かってくる男の姿があったからだ。


『下がってていいよ。俺がやる』


 俺はそんなことを柳さんに告げる。すぐ近くにいるのだから直接言えばいいのに、わざわざ個人間のチャット機能を使用して。


 もしかすると、不適切な言葉だったかもしれない。彼女も選ばれて、この場所にいるのだから。


 けれど彼女は素直に下がると、武器としてスリングを選んだ。

 俺は男へと自ら飛び込んでいく。勝負は一瞬で決まる。緊張感は自然と高まっていった。


 男が抱えた槍に殺意を込めて、鋭い突きを繰り出す。

 俺はぎりぎりのところで回避しようとするも、間に合わず鎧の側面を掠めるように穂先が進んでいき、衝撃が伝わる。


 が、剣を振り抜くには、奴が槍を引くまでの時間だけで十分だ。

 俺は勢いよく、相手の首を狙う。しかし、すぐさま「ステップ」のスキルを使用され、距離を取られる。


 悪くない反応速度だ。しかし、俺も逃す気はない。同様に「ステップ」を用いて同じだけ距離を詰めると、そのまま剣を振り抜いた。

 

 剣は浅く敵の喉を裂いていく。ぶわっと勢いよく血が噴き出た。

 致命傷とはいえ、まだ死には至らないだろう。そんなことを思ったのだが、どうやらあまりにも俺の武器の攻撃力が高すぎたらしい。これだけでHPがゼロになったようだ。


 消えゆく相手。そして、者どもが俺に注目し始める。


 現状手に入る装備の中では、おそらく俺の持つこの剣が一番の攻撃力を持つだろう。そして攻撃力ばかりを高めるスタイル。防御力を上げなかった分、俺も一撃でやられてしまう可能性が低くはない。


 が、成す術もなく敵に圧倒されるというのなら、それも悪くはない。これまでソロでやってきたように、俺は一対一では誰が相手だろうと、負ける気はしなかった。俺の力量を上回るというのなら、もう運命的な出会いと言っていいだろう。


 むしろ、その状況を渇望しているのは俺自身なのかもしれない。

 俺は自ら混戦の中へと飛び込んだ。黒衣のメンバーに狙いを定めているモンスターを切り裂き、彼の背後を狙っていた男の前に躍り出る。


 恐懼とともに、巨大なハンマーが打ち下ろされる。しかし、大振りだ。

 俺は地面から数センチだけ跳躍するなり、「エアリアルステップ」を発動。一気に敵の懐へと飛び込み、剣で貫いた。


 それから顔面に向けて、スキル「スラスト」により強化された掌底を放つ。男は勢いよく吹き飛んでいって、消滅した。


 これで移動系二つのスキルは使い切った。俺は念のために距離を取る。


 と、好機と見たのか、盛んに飛び掛かってくる者があった。しかし、横から飛んできた石に当たられて、怯んだところを別のプレイヤーに討ち取られた。


 柳さんがやったのだ。

 腕は悪くない。たまたまだったのかもしれないが、それでも大会で勝ち残っただけのことはある。


 やがて、劣勢と見た敵のチームは一旦引き上げていく。


 俺は柳さんに向けて、チャットをしようとする。上手いんだね、強いね、見事だった。色々案は浮かぶものの、どれも適切ではないような気がして、なかなか伝えることはできなかった。


 そうしていると、彼女から先にチャットが届いた。


『躊躇、しないんだね』


 その意味を理解するよりも早く、俺は付近の惨状を目にした。

 血だまりだ。地面にはモンスターのものとも人のものともつかない肉が転がっている。


 そして、誰一人言葉を発せずに、俺のほうを見ていた。


「……だよ」


 誰かが呟く。


「なんでだよ! お前なあ、気付いてたんなら、なんでもっと早く言わなかったんだよ! そしたら、オスニエルさんも死ななくて済んだだろ!」


 激昂する男の声が、響き渡る。オスニエルさんは、きっとあのギルドマスターの名前だろう。

 近くにいた友人らしき者が、そんな彼を止めにかかった。


「やめなよ」

「うるせーよ!ダボ!」


 彼にまで当り散らし、俺を鋭く睨み付ける。

 なにか言わなければ。そう思うも、口からは何の言葉も出てこなかった。重い空気が、一帯にのしかかっていた。


 しばらくして、いち早く硬直から解けた男が、全員を纏め上げる。この状態は危険だったからだ。


 けれど、どうにも凄惨な空気が拭えない。俺はパーティを脱退すべく、ウィンドウを開く。そこには、トゥーレの名前はなかった。


『ごめん』


 それだけ柳さんに送ると、俺は再び一人になる。

 俺がこの場にいれば、彼らは一向に気が休まらないだろう。だから、これでいい。


『ごめんなさい』


 柳さんから返信があった。俺はもうなにも返さずに、歩き出す。相手チームの残党が、まだここらには残っているだろう。探せば見つかるはずだ。


 インベントリから回復ポーションを取り出して、口にする。HPはすぐに満タンになった。

 あと1時間半ほど。その間に、俺は奴らを仕留める。意識を切り替える。余計な考えは、剣を鈍らせるから。


 俺は動き出した。できるだけ、黒衣のSAMURAIメンバーとは違うほうへと。



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