玖
「久しぶりに来たけど結構賑わってんな」
鷹の商業区に来て一番の感想はこれだった。
鷹自身、出不精なので仕事が無いときは部屋からあまりでない。
前提としてほぼ毎日仕事をしているので仕事が無い日というのがほとんど存在していないわけだが。
それにしても鷹の想像以上に賑わっていた。あまり広いとは言えない道にそれなりの人が入っている。
まぁ、それもそうかもしれない。
今この地下都市の総人口は二十万人。その人間が物が欲しいと思ったときはここに全員が集まることになる。それならばこれだけの人がいても不思議ではない。
見回りをしろとは言われたものの鷹には見回りの仕方というものがいまいち分かっていない。
なので鷹は適当に自分がしたいことをすることにした。一応周りに目を配りながら。
実際には自然体でブラブラと町を見るのが見回りなので、今の鷹の行動は実に正しいのだが鷹は気づかない。
真金は治安が悪いと言っていたが、パッと鷹が見渡した感じでは平和そのものだった。
「・・・面白くねぇ」
鷹は小声で毒づいた。
鷹としてはなにか事件が起きていた方が楽しかった。かと言って自分から問題を起こすほど鷹はひねくれてはいなかった。
平和そのものの商業区に興味をなくした鷹はもう仕事のことを完全に忘れて遊ぶことにした。そう考えたとき、
「ひったくりー!!」
鷹の背後から悲鳴が聞こえてきた。仕事を忘れようと思った矢先にこれである。鷹は運が悪いらしかった。
鷹がゆっくりと後ろを振り向くと、人の波を器用に避けながらこちらに走ってくる女がいる。
「あれかな?」
鷹はその走ってくる女に視線を定めると、女が走ってくるであろう場所に移動した。
そして、女が鷹の脇をすり抜けようとしたとき、さりげない動作で男の足に自分の足を引っ掻けた。
「ぎゃふっ」
女は鷹に足をかけられたことによって盛大に転ぶ。
鷹は即座に立ち上がって逃げようとした女の背中を踏みつける。
「お嬢さんちょっと待とうね」
鷹は軽く声をかける。女は鷹の声を無視してもがくが一向に抜け出すことはできない。
鷹は女がじたばたと暴れている間に女の手元を見る。
女は手に女物の鞄を持っている。鷹は状況証拠だけで女をひったくり犯と見定めて捕まえた。鷹は女が物的証拠になり得るものを持っているのを見て少し安心したらしい。
これでも鷹は小心者なのだ。
「さて、ここからどうしたもんかね。お嬢さんはどうされたい?」
鷹はやはり気楽に女に話しかける。女はいくらやっても無駄だと言うことを悟ったのか途中からは動かなくなった。
そこへ息を切らせた中年の女性が来た。息を整えたあと、鷹がひったくり犯を踏みつけているのを見て歓喜の声をあげる。
「捕まえてくれたんですか!?」
「えぇ、まぁ」
鷹は見てわからんのか、と思いながらも女から女性もののバックを取り上げ女性に手渡す。
「ありがとうございます!! このお礼はどうしたらいいか・・・」
「あ〜・・・。お礼とかはいいんでこいつの身柄を預からせてもらってもよろしいか?」
「あ、はい!! どうぞどうぞ。窃盗犯ですからね。煮るなり焼くなり好きにしてやってください」
それだけ言うと女性は何度も頭を下げながら立ち去ってしまった。
そして、その場には鷹とひったくり犯だけが残された。
「んじゃお嬢さん。目立ってるし場所変えようか」
回りの注目を集めていることに気づいた鷹は女の背中から足をどけると、ポケットから取り出した手錠を男につける。
何故鷹が手錠なんかを持ち歩いているかと言うと趣味だ。何の趣味かは深く追求しないでほしい。
鷹は女を手錠で拘束したあと、女と共に移動した。