仮初めの侵入者
「ユーリ…」
軽い口づけが頬から首にかけて落とされる。
「あっ…ロイッ…将軍…ちょっ、」
「何ですか?ほら、顔を隠さないで…」
口づけを落とされた所が熱く、頭がぼおっとする…だがその中でも違和感を感じる
「あのっ、まっ、待って下さい…」
「待ちませんよ…もう止まれない…」
「いやっ、あの、そうじゃなくてっ」
微かに誰か人がいる気配。誰…何処?
あんまり煩いと口を塞いでしまいますよ?
焦る自分とは裏腹にロイ将軍が優しく微笑みかける。そっと静かにと口元に指を当てて腰につけた小さなナイフを取り出す。
取り出すと同時に、ガシャンと大きな音がし、人影と共に窓が割れた。
将軍がナイフを相手に投げつけるが、マントで振り払われてしまった。
が、既に剣先を相手に突きつける将軍を見て相手はさすがだなと少し笑った。
「えっ…あ、あの時の…!」
マントが床に落ちて、目の前にいる侵入者の顔を見ると、あの賭場で出会った男だった…。
こげ茶の髪に妖艶な紅い瞳…
「なんだ、お前も居たのか…おい…いつまで私に剣を向けるつもりだ。」
「…このタイミングで来られると切りたくなりますね。」
剣を下ろすつもりのない様子の将軍に仮面の男が苛立った声を出した。
「貴様…まぁ…いい。少し…休ませろ…。」
ガクッと膝をついた男に慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫?ってあんた怪我してるのっ?」
脇腹にひどくはなさそうだが出血が見えた。
「ロイッ!なんか不審者がいっぱい宿の周りに居たけどっ!」
バンッと勢い良く扉を開けてニース教官が部屋に入ってきた。
三秒ほどこちらの状況をみてニース教官が慌てて叫んだ。
「ロ、ロッ、ロイッ!なっ!な、何してんの⁉︎けっ、剣おろして!早く!剣降ろして!死ぬよ⁉︎」
「あ、ニース教官…別に将軍が切ったわけじゃ…この不審者が勝手に…」
「ユーリ!口を慎んでっ!」
「へっ、」
動揺した様子のニースが少し強い口調で叫ぶ。な、なぜ私まで怒られるのか…
「構わぬ…」
フーッと一息吐いて不審者が声を出した。
「この女の無礼は構わない…おい、さっさとお前も剣を納めろ。今回の事は不問にしてやる。」
「ちょっ…」
気だるそうに、だが偉そうな男の態度が気に入らず文句を言おうとしたらニース教官に口を塞がれた。
「…おい、女。」
ニース教官の手をどうにか口から外して答える。
「ぷはぁつ…ユーリですっ!」
「ユーリ、来い。しばらく俺の側にいろ。」
「はっ?」
「金髪の…部屋を用意してくれ。あと医療箱も。少し休む。」
「あっはい!では、とりあえず私の部屋に…隣の隣ですから…」
「ほら、行くぞ。」
バッと手を取られ部屋の外に連れて行かれそうになる。
「殿下…前にも言った通り彼女は駄目です。」
黙っていたロイ将軍が、反対の手を掴んで言った。
「へっ?で、殿下…?」
聞き間違いかと、思ってそっと不審者の顔を見る。だからどうしたという顔の不審者に対して嘘だろうとロイ将軍の顔も確認した。
「第三王子のメリウス殿下です。」
将軍がため息交じりに答えた。
「えっ!うわっ!むっ無理っ!」
バッと掴まれた手を払いのけて後ずさりすると、将軍の胸にもたれかける形になった。
「無理…だと?なんだその言い方は…。」
「彼女は私の傍でないといけないそうですので。申し訳有りませんが諦めて下さい。」
「貴様…全くそう、思っていないだろう。」
少し嬉しそうなロイ将軍とは逆にどんどん第三王子の顔は不機嫌になっていく。
「メッ、メリウス殿下っ…今までのご無礼申し訳ありませんでしたっ!」
今までの無礼が頭によぎり血の気が引く。あんた呼ばわりしちゃってたし…。
「いい…気にするな。とにかく今は休ませろ。私がここにいることは口外しないよう。」
「えっ、あの、皇軍にもですか?」
「あぁ、そうだ。お前達三人のみだ。他には適当にごまかしておけ。いいな?」
そう言い残してニース教官とメリウス殿下は部屋を後にした。
ふーっ…
お互いに一息ついて散らばったガラスを見る。
「ほうきと塵取り…借りてきます。」
その晩は女将に若いうちから激しいと大変だねぇ、修理は明日するけど次は気をつけておくれよ、と釘を刺された。
メリウス「は、早く休ませてくれ…」
遅くなってすみません。最後まで頑張ります。




