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Future  作者: 浅咲夏茶
2nd Chapter;Student council and childhood friend.
7/127

Target:Elisa,Ren,Haku,Miku,Shu and Rito/episode06

「お前ら、なんで夜になると僕の部屋に居るんだ?」

「居て悪いかよ」

 午後8時。ネトゲやろうかと思った矢先、僕が自室の部屋のドアを開けると、僕の部屋には愁と梨人、そしてエリザの三人が部屋を陣取っていた。

「どけよ」

「いや、その前に……。お前のパソコンのファイルを調べさせていただきますぞ……」

「は? ちょ、そりゃ流石にないだろう。てか、パスワード分かるわけ……」

「残念だったな。俺はお前のパソコンのパスワードを知っている。何故なら、前にこの家に来た時に俺がパスワードを設定したからな!」

 愁は右手を前に出して親指をあげ、なんとも苛立つ笑顔を見せてきた。

 そう。僕がマイパソコンを手に入れたのは中1の春だった。それから6年、このパソコンとともに僕は歩んできた。エロ画像の溜まった隠しファイル、二次元嫁ばかりが収納されているZipファイルゾーン。いつかやろうと心に決めておきながら、結局はやることのなかったゲームの体験版の数々……。

 マイパソコンの中には、僕が歩んできた6年間の歴史がぎゅっと詰まっている。結構高性能なパソコンだし、保存などで困ることはなかった。

 が、僕がこのマイパソコンを購入した時、設定を引き受けてくれたのは愁だった。取り敢えず、僕も立ち会いのもとで行ったが、その時に僕が『パスワード入力はお前がしてくれ』と言ったのだ。だから、僕が言ったパスワードは覚えられている可能性があるかもしれない。

 とはいえ、僕はそこまでバカではない。ネットで情報を見つけ、パスワードは頑丈なものに変えておいた。何も知らない人間に、パスワードなど入力できるはずがない。

 しかし、それは僕の甘い考えだった。

「おお、皆さん大集合じゃないですか」

 恋が食器などを片付け、僕の部屋にやってきた。そして、ドアを閉めて僕のベッドの上に、あたかも自分の布団のように座った。

「なんで人の家のベッドに軽々しく座るんだよ」

「別にいいじゃないか。幼馴染だろ」

「いや、なんで僕の寝るところを『幼馴染』に取られなくちゃいけないんだよ」

「疲れたんだ! 私だって、片付け、料理、それに昼間には水掛けあってはしゃいで、疲れたんだからさ、少しくらい休憩させてもらってもよくね?」

「それもそうかもな。んじゃお前寝れば?」

「は? だ、大人数の前で『寝ろ』とか……。それに、この部屋には性欲が盛っている狼男が2人いるし寝にくいよ。ねえ、エリザ?」

 恋は、同じ『女』として、エリザに答えを求めた。しかし、エリザは、「うーん、別に眠たければ寝ればいいんじゃないの? でも、私はダーリン以外に自分の身体を使いたくはないなあ……」とだけ。

 恋は「そ、そうだよね……」と表面では分かったようだったが、内心ではそうでもないようで、「はあ」と溜息をついていた。

 そして、今までのパスワードの話題に会話の内容がチェンジされた。

「結局、凛のパソコンのパスワードでなんなの?」

「ああ。私知ってる。凛のパスワードは、『riml2l2malpc《アールアイエムエルニエルニエムエルピーシー》』だよ。なんか、さっき凛とゲームしてた時、ログオンする時使ってたからそれ覚えちゃった」

 僕は、「なん……だと!?」とドキッとして、一瞬震えが止まらなくなった。何故そこまで正確に暗記できるのか、僕は不思議になった。勉強は一切できないくせに、柔道が上手く、男より力は強い。そして、それにプラスα『暗記能力がLEVEL5』的なのだ。

 僕は、「はっ!」と震えを抑え、意識を取り戻すと、入力し始めた愁をキーボードから離そうと駆けた。駆ける距離も無いのだが。

「入力する……な……あ……」

 表示されたのは、エクスプローラー。そして、そこにあったファイルの数々は、全てエロゲのファイルだった。そして、愁の操作するマウスカーソルはそのファイルの方向へ導かれ、ファイルが選択されて起動されてしまった。

「あ……あ……」

 そして、愁が開いたファイルは、昼間に僕が使っていたあのエロゲのファイルだった。そして、独特の起動時の音声が部屋に響いた。

『全エロゲーマーにつぐ! 君達エロゲーマーは、今日から皆、魔法少年だ!』

 タイトルは、『魔法少年☆エロゲーマーズ!』という、とってもシンプルなタイトルだ。純愛モノでもない。『魔法少年』と入っているが、別に『男の娘』を攻略していくホモゲーでもない。普通の、ノーマルラブを描く作品だ。

 しかし、このゲームは普通の恋愛ゲーではない。いや、恋愛要素はほぼ皆無に近い。何故なら、このゲームは『ノベルエロゲー』でなく、『RPGエロゲー』なのだ。つまり、バトルシーンが超盛りだくさんのエロゲという訳だ。

 さらに、このエロゲには、もはや『普通のRPGゲー』としても行けるぐらいのバトルイベント、スキルだとか課金アイテムだとか。めちゃくちゃ多いアイテムとイベントが有るわけだ。しかも、イベントはエロシーンよりバトル系のイベントのほうが多いということもある。

 それに、『魔法少年』と言ってることからわかるかもしれないが、このゲームに『しっかりとした女キャラ』は、数えるくらいしか登場しない。なにせ、バトルで出会う女キャラは、皆男装をしているからだ。

 まあ、解説はこのくらいにしておくとして、僕はもうその場に立ち尽くすしかなかった。

「……恋。後でお前に話がある。愁と梨人が帰ったらお前だけは残れ。大事なことだからもう一度言う。深い意味は無い。今日、お前はこの部屋から出られない。お前だけ、愁と梨人が帰ったら残れ」

「こ、怖いよ……?」

「いいから残れ。どういう話か、わかるよな?」

「わ、わかるけどさ……」

 恋は、今までのテンションが若干ながら高かったイメージとは打って変わって、一気に高いイメージではなく、低いイメージに捉えられるほどしょんぼりしてしまった。

「女の子に『この部屋から出られない』とか言っちゃう男の人って……」

 愁は、自分の左手を口の前に持ってきて、くすすと笑った。しかし、周りの人間から見れば、やっていることは『オカマ』のやっていることと同じ、いやそういう風に捉えられてしまうような感じだ。

「いや、別に深い意味は無いから」

「いや、普通の人間なら深い意味があるかって捉えちゃうって……」

「だから違うっつってんだろ! いいかげんにしろ!」

「全く。そうそう怒らないでくれよ。小さいことで怒ってしまっている男の姿なんて……。女みたいだわ」

「う、う、うるさい! は、早く画面をロックせい!」

「なんで? このゲーム、何か駄目なところでも有るん?」

「大有りだ! ……っておい、おいプレイすんじゃな……」

 しかし、僕が止めに入ろうとした時、もう遅かった。愁には、中学校時代からPC等、電子機器関連で色々と聞いていた。だから、色々と愁は電子機器に関しての使い方だとか、そういう物を全て知っているのだろう。

 というより、愁はタイピングも、マウスの操作もめちゃくちゃ早い。僕なんて、その速さに追い付くとことすら出来ない。

「これが、お前のエロゲなのか……」

「エロゲを堂々としていくスタイルは本当に流石だわ」

「流石とかそういう問題じゃないだろ……。なんで人に僕のエロゲのデータ見られなくちゃいけないんだ……。それに、今はお前等だけじゃなくて、恋とかエリザとか、そういうの見るとヤバイんじゃ……」

 しかし、直ぐ様二人共首を横に振った。どうやら、二人共僕がエロゲをプレイしていることに何の抵抗も感じないらしい。いや、それ以前にエリザの場合は、「ダーリンなら……」からお決まりのフレーズが始まる。何となく、こうなるだろうというのは分かっていた。

「クソ……。でもそのエロゲ本当にバトルシーンとかマジ攻略面倒だぞ?」

「なんでよ? じゃあ凛プレイしてみてよ」

「無理無理。なんで人の前でエロゲプレイするんだ!」

「いいからいいから。本当は、自分がエロゲをプレイするところを愛しのエリザちゃんと恋ちゃんに見せつけたいんだろ? そして、傍観者である俺と梨人を貶そう、そう考えてるんだろ? クソ。リア充爆発しろ」

「た、確かに僕はエリザも恋も好きだが別に付き合ってるわけじゃないし……。あ、今の『好き』ってのは『幼馴染』『親友』両方の意味でだぞ?」

 その時、今まで黙っていた梨人が、耳を壊すくらい大きな声で、僕の方を睨みつけ、机を叩いて言った。

「嘘だッ!!」

 空間は静まり返った。外の風の音色が耳を通り抜けていった。

「おい。なんでここでアニメネタ使うんだよ」

「いや、絶対嘘でしょ。つうか、いい加減気づいたらどうなん? 俺さ、お前が自分の本心犠牲にしてんの分かってるからな? 男ならさ、どっちかと付き合ってやれよ。お前本当、『ザ・ラノベの主人公』だよな」

「い、いや本当お前何言ってんだ……。だから本当に僕は……」

「ふっ。こんな簡単に恋愛小説が結末を迎えても困るから、きっと作者はなんか考えてるだろうな。お前が一体何処まで屑なやつ、もしくは良い奴なのか分かるイベントが来るだろうさ」

「だから本当に嘘だから! 僕は、恋もエリザも好きだ! しかしながら、恋愛対象としては中々見れないというか……」

「じゃあさ。一ついいか?」

「な、なんだよ……」

 梨人は、僕の耳元に近づいて、小さな声で僕に話した。

「12月12日。凛が生まれた日だな。その日、僕はエリザ、恋のどちらかに本心を伝える。それまでにお前は、自分の本心を抑えないで伝えておくんだな。後悔をしたくなければ。ひとつ言う。俺は、今日エリザちゃんを知ったばかりだ。お前と俺は、幼馴染。これからも長い付き合いになるかもしれない。だがな、自分の本心はいくら幼馴染が居たとしても、俺は曲げないでいようとおもうんだ。だから、俺は12月12日に、今日から約3週間後だ。どちらかに本心を伝える。つまり告白する。それまで俺と凛は、『幼馴染』と書いて、『おさななじみ』だけでなく『らいばる』って読む関係になるわけだ。覚悟は、出来ているか?」

「……」

「今答えを出す必要はない。12月12日。俺はそれまで待ってやる」

 昔から僕と梨人は対立してきていた。僕ばかり女子に囲まれていることを、小さい時から羨ましがられ、時には恨まれ。だけど、今まで梨人とは恋愛で衝突することはなかった。

 しかし、僕はまだ『エリザ、恋が好き』というその感情が、一体『恋愛対象』としてなのか『友人/幼馴染』としてなのか。まだ僕にはわからなかった。でも、幼馴染以上の『好き』であることは、何となく思った。でも恋人以下だ。恋愛感情なのか、僕にはそれがまだわからなかった。

「さーて。エロゲ、プレイしていこうかな!」

「ちょ、梨人いきなりすぎっぞって……うわああああああああ!」

 愁は、あえて音を出さないでプレイしていたのだが、梨人は笑顔でそのミュートボタンを解除した。そして、一気に部屋中に音声が響き渡った。

『―――お、お前は……ボクの事がその……す、スキ……なのか? も、もしボクの事がす、スキなんだったら、あ、頭をな、撫でて欲しい……。』

「うわああああああ! もう僕を虐めるのはやめてくれえ!」

「無理だな」

「クッソワロタ……。クソ……ワロタ……」

 恋は他人ごとのように、「可哀想ねえ」と棒読みで、愁は一切の反応を見せず。そしてエリザは「ダーリン、ドンマイ♪」と、全然かばっているような感じがしない声で、態度でそれぞれ僕をそれなりにかばってくれたのだろう。

「まあ、人には人に言えない秘密とか嘘とかはあるもんさ。でもな、それくらいで泣くんじゃない。男だろ」

「なあ。僕、今日そのエロゲのデータ復旧すんのに凄い時間かかったんだぞ……。絶対に、エロゲのデータをまた壊すんじゃないぞ?」

「壊すわけ無いだろ。てか、このエロゲ、バトルシーンはないのか?」

「いや、それは今『バトル』は殆ど終わっててさ。それでもまだバトルシーンは有るんだが、もうボス戦みたいなもんよ。めっちゃ強いからなラスボス」

「ラスボスか……。そんなに強いんだったら、俺が討伐してやらあ!」

「別に討伐する必要はないだろ。別に僕はもうプレイ済みなんだし、これ以上見せられてもなあ。それに、バトルだけしたいなら、そこのセーブデータあるし、いっそそこロードすれば? いや、それ以外にもバトルだけのやつはあるぞ?」

「つか、思ったんだけどこのエロゲは何? どういうジャンルなの?」

「ああ。それは僕も思ってるんだけど、絶対これ『エロゲ』じゃなくても売れるんだよね。てか、全年齢版あるけど、これもう完全に『RPG』だし」

 そして、このゲーム(全年齢版)を昼間にプレイしていた恋が、口を挟んで、自分がプレイしていた感想を語った。

「そうそう。これRPGなんだよね。てかさ、本当にこれもう『ギャルゲ』としてだけじゃなくて、十分『RPGゲー』として楽しめるレベル。しかもオンライン対戦あるし」

「オンライン対戦だと? 課金ってそういうことか……」

「ああ。そういう事だ。で、梨人は結局バトル楽しむのか?」

「楽しんでやろうじゃないか! 初見で中ボスくらいのやつを倒してやろうじゃねえか!」

「あ、頑張ってね」

 愁は、一気にゲーマーモードに切り替わった。目が燃えている気がする。そして、近づくと何故か熱気を感じた。

「さて。僕らは何を話そうか?」

「しかし、愁って本当、ゲーマーだよな」

「僕よりオンラインゲームとかRPGゲームとか好きそうだもんね」

「わかります、ダーリン。あ。そういえば、何かさっき『水掛けあって遊んでた』みたいなこと言ってませんでしたか? まさかこの泥棒猫と……」

「誰が泥棒猫だゴルア! 私は『泥棒猫』じゃなああいっ!」

「嘘だね。私のダーリンに手を出した時点でアウトさ!」

「おいエリザ! 約束守れ!」

「嫌だねえだ! 今夜は一緒に寝ようね、ダーリン♪」

「マジで羨ましいわ。本当凛は何でリア充になったんだ……。僕や愁はこんなに苦しんでいるというのに……。成績は優秀、近くには自然と女の子が寄ってくる。しかも姉妹も居る。典型型のラノベ主人公は死んで、どうぞ」

「それ、本心じゃないだろ?」

「ああ。本心じゃない。つか、割とマジにお前と話してると楽しいから、死なれると困る。だが、リア充爆発しろというのは本心だ。受け入れたまえ」

「受け入れられるか! 爆発できる訳無いだろうが!」

 そして、僕が突っ込んだ後に、エリザが聞いた内容に話題が戻され、再度また会話が展開されていく。

「ダーリンは、恋さんと水を掛けあってえっちな遊びをしたんですか?」

「え、えっちな遊びじゃないけど……。でも、凛に胸に水掛けられた」

 その瞬間、梨人が僕の耳を引っ張った。

「痛ってえ……。な、何するんだ! 耳引っ張ったら痛くて話しにならないだろ!」

「馬鹿め。自分で羨ましがられるようなことをされておきながら、何にも征伐を受けないつもりだったのかこの鈍感野郎!」

「うっせえ!」

 そして、梨人の行ったことに続いてエリザは僕の右手に自分の体を密着させて僕の方をうるうるした目で見つめながら、話しかけてきた。

「ダーリンは、胸に水を当てるっていう変態行為したの?」

「いや、したっつかアレはその……わざとではない」

「それならいいんだけどさ……。じゃあ、明日は恋にしてくれた以上のことを私にしてくれるよね?」

「それってどういうことだよ……」

「恋さんと水掛けあいやったんだったら、私とも水掛け合いしてもいいよね?」

「んなこと出来るか!」

「恋とは違うから……無理? それって悪い意味?」

「だから、違うっての。なんていうか、今日あったばかりで、幼馴染だって言うのは教えてもらったけど、一応まだまだ親密ってわけではないというか……。その、エリザからは何かオーラが出てるんだよ。『この娘には手を出しちゃいけない』みたいな」

 僕の言葉に恋はキレ気味のようだ。どうやら『この娘には手を出しちゃいけない』という部分にキレているらしい。

「それは、私が『単なる幼馴染』とか私には『どんなことでも』しちゃっていいみたいな女って思ってるってことかなあ?」

「落ち着け。僕は恋にそんな扱いをした覚えはない!」

「じゃあ、ダーリンは私の事が好きじゃないから手出しできない、って言いたいの?」

「おまえら勘違いするなああ!」

「勘違いなんかしていないじゃんか。これの何が勘違いなのさ」

「勘違いだ! とにかく、僕はエリザも恋も好きだよ! まだ『恋愛感情』じゃないけどさ……」

「ダーリンはツンデレだから……本心言えばいいのに」

「ツンツンしていなああああい!」

 僕が若干キレ気味でツッコミを入れると同時に、愁の大発狂の声が部屋中に響いた。さらに、それと同時に勢い良く引っ張られたヘッドホンのコードが取れ、エロゲの音声が部屋に流れた。

「何で発狂してんだ!」

「負けたんだよ! あと残りちょっとだったのに! うわあああああ!」

「人の貸したゲームで発狂するんじゃねーよ!」

「でもお……」

「一つ言わせてもらう。今のお前、相当キモかったぞ」

「やめてえええええええっ!」

 僕と愁のやりとりをみて、コソコソと話す仕草をしながら、僕にまで聞こえる声で恋とエリザが話をしていた。

「なんか、愁と凛って、似てるよね」

「ああわかる。それわかる。でもダーリンはキモくないよ?」

 そして、愁にもそれが届き、愁は「言わないでええっ!」と、耳を抑えて椅子から降りてしゃがみこんでしまった。


 ***


 結局、夜も遅くなった。が、丁度雨が降り始めてきた。そのため、僕の家で急遽『お泊りパーティー』ならぬ、『勝手に宿泊パーティー』が始まった。しかし、そのパーティーが始まるやいなや、小雨だと思われた雨は大雨になり、そして雷もなり始めていた。

「おい、どうすんだよ。ネット繋がんねえぞ」

「うわ回線落ちかよ。LANケーブルで繋がらないならアウトだろ」

「最悪だわ」

「まあ朝には直っているさ。それこそ、テザリング使えばいいじゃん」

「でもあれって7GBでしょ? すぐ埋まるだろ」

「じゃあ諦めろ。仕方ないさ。でもまだ停電してないから、懐中電灯用意して皆でこの部屋で寝ようか」

「徹夜しようぜ」

「朝まで何話してんだよ」

「怪談?」

「勝手に話してろ」

「乗り気になれよ」

「慣れるかアホ。つか、もし明日の朝晴れていたらどうするんだよ。学校行かなくちゃいけなく何だろ。お前はいっつも『徹夜』とかほざいてるから勉強でいい成績取ることが出来ないだよバーカ」

「ちっ……。的を当てているから言い返せねえ……」

「残念だったな。じゃあ徹夜は無しってこった。そうだ。テレビでも見ようか」

「だな。懐中電灯使うのも勿体ないし。取り敢えず停電するまでテレビを付けておこう。誰かワンセグ付きのスマホ持ってる奴居るか?」

「ああ、俺持ってる。モバイルバッテリーない?」

「梨人、お前いい奴だな。ああ、あるぞ。バッテリーならいつも満タンにしている。5回は持つぞ」

「ということは朝まで持つかな。じゃあ、情報とかはそっからでOKか。で、灯りは懐中電灯でいいか。電池なくなったらスマホのフラッシュ使って朝まで乗り切ろう」

「だな」

「賛成」

「二人に同じく」

「三人に同じく」

「じゃあこれで全員一致。さてと。あとはテレビで情報を……」

 その時だった。

「お、お兄ちゃん……」

 妹が抱枕を抱えて僕の部屋へやって来た。そして、その後ろには姉ちゃんの姿も有った。なんと、二人共雷が怖いから僕と寝たいとのことだった。

「おいおい。リア充死ねよ」

「梨人はこんなときでもその調子なんだな。だがそれがいい」

「いいのか。で、結局今凛の部屋には何人いるんだ?」

「僕、恋、エリザ、姉ちゃん、美来、梨人、愁。7人だな。僕のベッドで寝れるのは3人が限界だと思うけど。布団2つ用意できればいいんだが……」

「布団あるよ! 持ってくるね!」

「じゃあ私も部屋から持ってくるわ」

 姉ちゃんと美来は、素早い行動で布団を持ってきた。別に可愛い布団でもない。普通の布団だ。

「さて。停電に備えるため、今のうちに皆布団の近くにいようぜ」

「じゃこれから怪談開始な」

「何勝手にストーリーを進めているんだよ」

「別にいいじゃないか。停電した時に怪談話してたらみんなドキッとするでしょ」

「当然じゃないかな、それは」

「たしかにそれは俺も思うわ」

 結局、男子組三人だけの話になってしまった。姉ちゃんと美来はもう布団に入ってしまった。恋とエリザも布団に入ってなにか話していた。

「さて。結局ベッドの上で寝るのは、俺ら三人か」

「暑苦しいなおい」

「僕は恋とかエリザとかと寝たかったのに……」

「お前は黙ってろ!」

 二人共、声を合わせて僕が羨ましいらしく叱る。まあ、さっきから言われ続けていることだが。愁は、ネットが使えないことにさらに怒りを感じており、相当苛ついている様子だった。

「ったく。寝るか」

「いやここは普通、パソコンをしよう。そしてエロゲをしよう」

「あ。パソコンの電源落とさないと。データ消えちゃう」

「はよしろ」

 僕は布団を越え、デスクトップのパソコンの電源を落とした上で、またベッドの方へ戻った。その時、ピカッと雷が落ちた。そして、その雷は、この街を停電にさせた。

「うわ。神戸市内停電かよ。速報入ったぞ」

 ワンセグ放送を見だした梨人。そして、梨人の周りに僕らはついて、そのワンセグ放送を一緒に見た。

「あ、そうだ。ラジオもつけようか」

「だな。ラジオもつけよう」

 結局、ワンセグ、懐中電灯でラジオということで、2つのことをこの夜通しやることにした。結果、僕、愁、梨人の三人は寝ることなく徹夜組となった。

「明日、雨が振りますように」

 何故か僕は、そんなことを思ってしまっていたのだった。

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