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第75話 切り札


「そんなことがあってね〜」


「…幸兄は秘密警察か何かなのかしら?」


何故か知らないけれど、唯香に僕と新園さんの定期的な校内ボランティアがバレた。そして説明を求められて今に至る。


「全く、優しい幸兄らしいわね。定期的に危ないことをしていたから、あんなにもスムーズに荒事に対応できたわけね。私とお父さんを助けてくれた時も、ちょっと普通じゃなかったもの…幸兄も…メイドも……」


ナユタと一緒にしないでほしいな〜。僕はそこまではぶっ飛んではいないんだよ。


「幸守先輩はお人好しが過ぎます!」


和奏ちゃんにも怒られてしまった。


「え〜、そんなことはないよ。僕にはたまたまそれができるだけの力があるから、生活指導の先生に学生サイドからの風紀の取り締まりを頼まれちゃってね〜。本当は関わりたくもないんだけれど、仕方無くね〜」


僕が水城院家の人間だと知り、最初に絡んで来た不良の生徒を、暴力を真正面から打ち砕く形で制圧したところ。その一連のやり取りを生活指導の先生に見られてしまい。以来、風紀委員のような真似を陰で行ったりしているのだけれど、そもそも思い返して見れば生活指導の先生なら、僕が複数人に囲まれているのを見てないで助けてほしかったよね。


まあ、別に余裕で制圧したんだけど。


ちなみに新園さんは最初は取り締まられる側の生徒だったが、その情報収集能力と証拠を撮る能力に置いて彼女以上の適任が居なかったために僕が彼女を説得して、こちらサイドに引き込んだ。そんなエピソードもあるのだけれど、この話は別の機会があればだね。


「何をヘラヘラしてんのよ! 完全に幸兄の仕事じゃないじゃない! 本当にお人好し…」


「え? いやまあ、うち風紀委員無いからさ…できる人がやらないと…きっと、回らないんだよ」


「幸兄ばっか危ない目にあって、大変な思いをして、本当にそんな役割ばっか引き受けてどうしてそんなに幸兄は…幸兄はっ!……」


「……………………」


恋する乙女が押し黙る。いいんだよ。その先は恥ずかしいから言わないでくれ。今は唯香の部屋に和奏ちゃんも遊びに来ているし!


「ユイ! 言わなければ伝わりません…」


どうしてそこで余計なこと言っちゃうのかな和奏ちゃん!? 僕に向かって、私いい仕事しましたよねってアピールの親指を立てて来ないでほしいんだけどね!?


「…格好良い……ああ、もう! 私をこれ以上幸兄の虜にしないでぇ〜! バカバカバカぁ…もう…も、もうっ……もぉ〜!!…」


「お〜、悶えていますね…ユイ…可愛過ぎませんか幸守先輩!?」


「そうだね。唯香はいつも可愛くて困るよ…」


「もぉおおおぉ〜!!…」


可愛らしい子牛さんが布団に包まってジタバタしている。可愛いなぁ。和奏ちゃんが居なければ背中から抱き締めて、頭を撫でているところかもしれない。


「しばらく用心棒として将隆君を派遣しておくから…竹刀持たせとけば、大抵の人は滅多打ちにしてくれるよ!」


「梶原先輩ですか? 梶原先輩って、幸守先輩のようにお強かったりするのですか!?」


「うん。彼のお父さんの実家は、古い剣道場を営んでいて、部活動には入っていないものの、将隆君も中学の時まではバスケットボール部だった唯香並みの活躍をしていた名の知れた剣道家だったんだよ」


「……梶原先輩って………い、いえ…やっぱり何でもないです! 梶原先輩、自分のことをあまり話さないです…なので、もっと梶原先輩のことを教えてほしい…です……」


将隆君! どう見ても脈ありだと思う!!


「自分で聞きなさい! 和奏ちゃんが聞けば、マサなら何だって答えてくれるよ!」


「うぅ〜…幸守先輩のいじわる……ユイ、幸守先輩が私に冷たくします!」


「ちょっと、和奏をイジメたら許さないんだからね!?」


「いや〜、むしろ2人のことを考えてのことなんだけどね。言わなきゃ伝わらないこともあるって、どこかの後輩が言ってたな〜」


「ユイ! 幸守先輩がイジメますぅ〜!」

「こらっ! 幸兄ぃい〜!!」


「過保護が過ぎるよ唯香…」


そんなこんなで、また1つ将隆君に借りを返すことに成功した。将隆君は和奏ちゃんのことを意識しているのだから、近くに居る理由をご提供したのは、借りを返したに含めて良いんだよね? 知らんけどね。


「2人がかりなら幸守先輩を倒せます!」

「挟み撃ちにするわよ和奏!」


「え…えぇ〜……」


不良の生徒を更生させたエピソードをいくつか聞かせたばかりなのにこれは、僕って唯香と和奏ちゃんに嘗められてるのかな?


「ていっ! ナユタさん直伝正拳突き!」


あっ、使い手の違いってこんなにも差が出るものなんだね。和奏ちゃんの子犬がじゃれてくるような攻撃は可愛いな。避ける意味が見当たらないからなぁ〜。


「私もやるわ! メイド直伝、柴神流格闘術……すぅ〜…はぁ〜……」


いや、ガチの呼吸なんだが!?


「えっ!? ちょっ…と、待って…」


それは一長一短で身に付く技では!?


「正拳突きぃいいい!!」

「んぎゃあぁああぁ〜!!?」


唯香の身体能力とセンスを忘れていた。


僕とナユタの立ち会いを見たあの日以来、唯香はナユタが暇な時間を見付けては、僕に守られるだけではなく、自分で自分の身を守れるようにとナユタに頼んで護身術を教わっているらしい。だが、この場を借りて、あえて言わせてもらいたいことがある。


「ぐふっ…し、柴神流格闘術は…怪物婆さんが編み出した一撃必殺の……ガクッ…」


それは護身術なんかじゃないのである。


危ないから僕以外に使わないでね。


お兄さんとの約束だよ。


「よし! 私、成長してるわね!!」


物凄い成長速度に脱帽である。


「ユイ! 格好良いです〜!」


和奏ちゃんも楽しそうだ。


2人が楽しそうならば、まあ、今日のところは、それはそれで良しとしておこう。


油断した病み上がりの少年。水城院 幸守の傷口が僅かに広がったのであった。




文化祭の準備も佳境に入った。


コスプレ喫茶の準備。その際に、最も力を入れるべきものと言えば、当然コスチュームに決まっている。コスチュームの良し悪しで全てが決まると言っても過言ではない。照明君含む男性陣がそう言っていた。


他にもあると思うけどね。お客さんへのおもてなしとか。そもそも、お出しするメニューが美味しいかどうかとか。色々勝負するポイントは他にもあったと思うんだよね。


「くそう。ダメだ。俺様じゃ不器用過ぎて上手く作れねえ。万事休すか…」


「簡単なのは一通り仕上がったけれど、複雑なコスチュームはやっぱり難しいね。こういうものはやっぱり、その道のプロじゃないと難しいのかな……」


その道のプロと言えば……。


心当たりは1人居ないでもないけれど。


照明君も新園さんも、将隆君すらこちらを見詰めて来ている。ヘルプに来てくれた唯香と和奏ちゃんも、とある1人のアルティメットハイパーコンバットメイドさんのことを思い浮かべていそうだが…。


「ダメ! ダメダメダメ! 学園のことでナユタに協力を仰ぐなんてチートだから!」


「確かにチートではある!」

「メイドちゃんは常にチートだよね〜」


「あのメイド服。自分で仕立てた…」

「そう、言ってたよなぁ〜」


将隆君まで何てことを言うんだ!?


「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメー!」


手を交差させて全力で抗議する僕。


「「…………………………」」


間に合わせるために取れる現実的な手段はそれしか無いのかもしれないけども!


「…外部の人に協力をお願いしているクラスもいくつかはあるから、メイドちゃんが手伝うと言ってくれるなら一応、我が校の文化祭のルール内には収まってるよ幸守君!」


「に、新園さん…余計なことを……」


「よし、幸守、これより貴様に、メイドちゃん勧誘作戦の決行を言い渡す!!」


「くっ、自分で頼めばぁ〜!?」

「俺に死ねと言うのか幸守…」


嗚呼、その通りさ照明君。


「僕が頼んだら100%手伝うでしょ!」

「良いじゃねえか!? すげえ自信だな!」


すげえ自信も何も、この手の僕の頼みごとにナユタが畏まりましたと言わなかった試しが無いんだよ。そりゃ、ナユタに頼めばこの程度一晩で仕上げてしまうだろうが…外部協力の比率がおかしいことになる!


それは最早、僕らのクラスが頑張って仕上げた文化祭の出し物と言えるのか!?


「……まあ、そうだな…わりぃ幸守…ここは間に合う分だけでも作って、当日に臨むとしようぜ! 皆もそれで頼むわ!!」


「…………ああ、もう、わかったよ…こういう時にゴリ押して来ないから、テルって質が悪いんだよね。わざとじゃないよね?」


いや、このお猿に頭脳プレイは無い。


「は? いや、やめとけよ。冷静に考えたらメイドちゃんだってこんなん頼まれても困るだけだろ。頼むなら、もっと早く協力を要請すべきだった。俺様のミスだ! クラスの奴らには間に合いそうもねえって俺が謝る!…いいからさっさと間に合う分だけでも作るぞ幸守!」


こういう奴だよ…。


君がもう少しお灸を据えてやるべきだと思える奴だったら協力なんてしないのに。


「複雑なものは…これと、これと、これと…こっちも…あとはこれもだね……」


5着。まあ、ナユタなら可能な範囲内だ。


「おい、俺はやめとけって言ったぞ!」


「そうだね。でも僕は、テルの言うことを素直に聞く程、人間ができていない……」


「…………………………」

「…………………………」


「メイドちゃんに今度何か必ず借りは返すって言っといてくれ。俺に返せるようなものは何も無い。と言うんだろうけどな!?」


「言いそうだ…いいよ。僕がその分ナユタに返すから…テルは僕に返してくれる?」


「しゃ〜ね〜…それで手を打とう。わりいな幸守…恩に着るぜ……」


「いいって……」


これも、ここ数日の妥協しない照明君を見ていたからこその判断だ。この不器用で一生懸命な男の努力を中途半端な形で披露したくは無い。僕がそう思ってしまった。僕にそう思わせた時点で君の勝ちだ。僕も、僕が持つ手札を切るさ。出し惜しみはしない。


僕は早速、複雑なコスチュームだけ全て水城院家のお屋敷に持ち帰ることにした。照明君たちを残して唯香と一緒に帰宅する。和奏ちゃんのことは将隆君に頼んであるから問題は無いだろう。


早速、帰宅した僕を出迎えてくれた緑髪のメイドさん。今日も笑顔がとても可愛い。


「幸守様ぁ〜!!」


「はいストップ! その勢いで抱き締められたら僕がまたベッドにワープしちゃうから!」


「言ってて悲しくならない幸兄?」


「ちょっと、僕をぶっ飛ばせるのか知りたくて覚えたての危険な武術を思い切り僕に叩き込んじゃった唯香には、後できっちりとお仕置きなんだからね!?」


「…………わ、若気の至りだもん……」


反省はしているようで弱々しい発言だ。


まあ、可愛く言っても許さないけどね?


「…おしおき……じゅるり………」


こっちはこっちで羨ましそうだ。


「やっぱり嘘。おしおきはしない。…ごめんナユタ…学園の文化祭で使うコスチューム作りが上手く進んでいなくてね。外部の人の協力を受けることも許可は降りているんだけど…メイド服と他4着……これ、1日でどうにか出来たりしませんか?…」


「幸守様からの頼まれ事! ナユタにしかできない、唯香様ではできない、ナユタにしかできない幸守様からの頼まれ事!!」


気合いに満ち溢れている。文化祭の準備をしているクラスメートたちの誰よりも、気合いに満ち溢れている。これでいいのか??


「一言も二言も多いのよっ!?」

「唯香にも感謝してるって…」


「ふっふっふ! お裁縫は鍵開け同様にメイドさんが十八番とする必須技能! 幸守様の最強の手札であるジョーカー足るこのナユタめが、一晩で仕立てて見せましょう!」


鍵開けはメイドに必要とされていない。むしろそんな技能は無かった方が良かった。


「頼もし過ぎる…」

「幸兄の手札最強なの?…」


言ったじゃないか。チートだって。


ご覧の通りである。彼女は全てに勝つ札だ。




ここで僕が切れる手札をご紹介しよう。


最初にご紹介するのはこの野生のカード。


クラスのお調子者こと尚川 照明君。逆立つ金髪がトレードマークのナイスガイからナイスの部分を引いたような脳筋お猿だ。一説によると銀河の彼方から丸いポッドに乗って飛来して来た宇宙人だという話がある。力仕事は任せておけというまさに脳筋。そのあり余る体力で大量の荷物持ちにうってつけのカードである。乱暴者だが、ここ1年間は意外にも暴力事件を起こすようなことはしていない。もともと乱暴な性格だったのが、幼い時に頭を強く打ち温厚な性格になったとかならなかったとかテキトウな噂が飛び交っている。常にスーパー戦士に変身しているが、かめ◯めはは撃てない。きっと修行をサボったのだろう。


「ぶえっくしょ!! ふっ、どこかで絶世の美少女たちが俺様の噂をしていやがる!」


「気のせいだ猿」

「手を動かせ猿」

「終わらんぞ猿」


なお、クラスメートからの信用は薄い。



次にご紹介するのはこの悪魔のカード。


私立鳥羽園学園の陰の女王、新園 弓莉さん。情報収集のエキスパートで、生徒から教師までありとあらゆる学園の人材をおど…説得することが得意な悪魔っ娘である。社会的に抹殺されることを恐れ、彼女に逆らえない幼気な生徒たち急増中だ。おいたが過ぎた時はたまに僕がストップをかけていたりする。そうは言っても警察にお世話になるようなことまではしない小悪魔問題児さんなので、今のところは僕とは協力関係が結ばれている。学園の危機を事前に察知し、風紀委員的な活動をしている僕に伝えたり、問題解決のサポートをしてくれる相棒の1人でもある。


「お猿さん、そこのバナナちょ〜だい!」


「これは俺様のおやつだ! 1本につき、乳揉み10回を要求させてもらおうかぁ〜!!」


「…さて、何から暴露されたいかな〜?」


「ま、待て! わかった! エネルギー補給は確かに重要だ。もともと全員に配るつもりで買っておいたのさ! ははははははは!…」


お猿はよくカモられている。


まあ、これは自業自得なので仕方が無い。



次にご紹介するのはこの寡黙のカード!


我がクラスのクールガイ代表、梶原 将隆君。祖父に名のある剣道家を持つ我が校における陰の実力者であり、竹刀を持たせばそこら辺の不良くらい一掃してくれる頼もしい僕の相棒の1人だ。風紀委員的な活動をする際に、相手の数があまりにも多かったり、守る対象が居る時に彼の力を借りていたりもする。ほうじ茶とお萩をこよなく愛するお爺ちゃんくさい一面を持つ青年だが、女性からの人気はそこそこあり、去年のバレンタインでもチョコレートを3つ貰っていた。恋愛に興味の無い彼だったが、今は1つ歳下の女の子である和奏ちゃんのことが気になっているようだ。正直、両想いだと思っています。


「マサちんバナナ〜パース!」

「ん…サンキュ…食べるか白沢?…」


「えっ!? あ、あ〜ん。ですか!?」

「……いや…普通に……………」


こちらは今1番乞うご期待の胸熱な2人だ。


将隆君は硬派なので、進展は遅そうである。



最後にご紹介するのはこのジョーカー。


「ふんふふんふふんふふんふふ〜ん!」


水城院家が世界にすら誇れるアルティメットハイパーコンバットメイドのナユタさんだ。


一言で言うならば、彼女は何でもできる。


逆に何ならできないのか教えてほしい。


僕らが幼少期を過ごした月ノ宮孤児院という少々変わった施設で育ち、源治郎さんの古い友でもあるという武術の達人、柴神師範に彼女が扱う天下無双の武術を習い、身体能力に置いて右に出る者が居ない程の地力と無限なのかと錯覚する程の体力を身に着けた彼女は水城院家のお屋敷の管理をたった1人で完璧に熟してしまうまさに究極超人である。


本来ならば、プロの使用人を10人は雇わなければ管理が行き届かないと言われているのだが、この超人にかかれば10人分の働きなどお茶の子さいさいである。


何故、源治郎さんがナユタではなく僕を跡取りにと迎えたのか今でも謎である。妖怪は跡取りにはできない。という話なら納得せざるを得ないのかもしれない。


彼女の特技は多岐に渡り、その技能メイドさんに必要ありますか? というものから、ちゃんと必要不可欠だなと思えるものまで、源治郎さんが不満を口にしたことが無いくらいに完璧な仕事を熟す必殺仕事人だ。


休日を与えようとすると、あ〜あ〜言って働こうとするので、どこかでパンクする前に1度無理矢理にでも休ませてあげたい。水城院家は非常勤の使用人さんも、プライベートポリスの皆さんも抱えている。源治郎さんに養女として迎え入れられたナユタは、本来働く必要など皆無なのだが、本人たっての希望でメイド業を勤しんでいるのである。


メイドさんの必須スキル。ミシンを扱わせれば右に出る者が居ない程の裁縫のセンスを見せつけて、ド素人が数日かけても上手く縫うことができなかった複雑な仕立ても何のその。ナユタが一晩でやってくれました。と、もう何度言ったかわからない。


本当にいつもいつも頼り切ってしまってすまないと思う。




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