【続編 第14話】晩酌の戦慄
【続編・第14話】晩餐の戦慄
宿の部屋で、ケメ子がやおたの鼻にちり紙を詰め、腫れ上がった頬を冷やしていた。
「……いくら日本の読み方だと面白い言葉になっちゃう名前でも、笑うのは我慢した方がいいわよ」
ちくが呆れ顔で同調する。「……にしても驚いた。やおたが一発で吹き飛ぶなんてな」
そこへ、食欲をそそる香りと共に食事が運ばれてきた。
港町の宿らしく、膳の上には見事な厚切りのお刺身が並んでいる。
「……すごいですね、これ。女将さんがさばいたんですか?」
「アタリマエデス。ウミノオンナハ、ミンナコレクライデキマス」
フンバルトは胸を張った。ちくはその堂々たる姿に、思わず感嘆の声を漏らす。
「……綺麗な上に、こんな見事な料理まで作れるなんて素敵です。な、なぁケメ子?」
「……そ、そうね。とても美味しそうだわ…」
食事も進み、場の空気が和んできた頃、ケメ子がふと問いかけた。
「ところでフンバルトさんは、ロシアのどこ出身なんですか?」
女将は遠い空を見るような目で、静かに答えた。
「ワタシハ、ロシアノ……ヤキマンコデ、ウマレマシタ」
「「……ブフッ!!!」」
ちくとやおたが、飲んでいた味噌汁を同時に吹き出した。
パチン! パチン!!
間髪入れずに、二人の頬へ往復ビンタが飛んでくる。
「……い、いや! そういうことじゃないんです!」ちくが必死に弁解し、やおたも鼻血を抑えながら頭を下げる。「……私でよければ、いくらでも謝ります!」
「ケメ子、もう何も聞くな! きよぴこを助ける前に、俺たちが死んでしまう……!」
凍り付く食卓。そこへ、千春が涼やかな声で割って入った。
「……女将さん、本当に素晴らしい料理でした。とても美味しかったです」
フンバルトの表情がわずかに和らぐ。「……オマエハ、イイコダネ」
千春の完璧なフォローで全滅を免れた一行は、核心に触れる質問を切り出した。
「ところで、私たちは東京へ行きたいのですが、船や列車以外で行く方法はありますか?」
「……ノリアイバスガ、アルヨ。チカクニバステイモ、アリマス」
バス。四人は顔を見合わせた。
海路の地獄を味わった彼らにとって、それは福音のように聞こえた。
一行は明朝、陸路——乗り合いバスで東京を目指すことを決意した。




