【続編 第13話】荒波の洗礼
【続編・第13話】荒海の洗礼
「皆さん、乗せてくれる船が見つかりました!」
千春が見つけてきたのは、江戸前へと魚を運ぶ小ぶりな木造船だった。
ちくが不安げに船体を見つめる。「……おい、こんな小さい船で大丈夫なのか?」
その懸念は、出航して数分で現実のものとなった。
案の定、五十七歳の3人は猛烈な船酔いに襲われ、横一列に並んで海に向かって中身を戻していた。
「……はぁ、はぁ……こんなのが、あと何時間続くんだ……」
「……途中で一度停泊して、また夜に出航する予定です……」
千春も青い顔で答えるが、ちくは必死の形相で妙案を繰り出した。
「……なぁ、川の時みたいにさ……千春にケメ子を引っ張って泳いでもらって、俺とやおたがケメ子の『浮き輪』に掴まって進む作戦はどうだ?」
ケメ子は、キラキラ吐しゃ物を吐きながら「浮き輪なんか付いてないもん。」キラキラキラ「本当だもん」キラキラ。
千春は荒れ狂う波間に浮かぶケメ子を想像し、力なく首を振った。
「……さすがに海は潮の流れも速く、距離も長すぎます。……無理です」
絶望に打ちひしがれる中、ようやく船は中継地の港へと滑り込んだ。
船から這い出した四人は、岸壁に降り立つなり泥のようにぐったりと倒れ込み、指一本動かせなくなった。
「……今日はもう無理だ。宿を探して一泊しよう……」
千春が霞む視界の先に建物を見つけた。
「……あそこ、宿ではないでしょうか。行ってみましょう」
這うようにしてたどり着いた宿。
「……四人ですが、部屋は空いていますか?」
奥から現れたのは、和服をまとった大柄な女性……いや、その彫りの深い顔立ちは明らかに異国のものであった。
やおたが思わず問いかける。
「……女将さん、失礼ですが日本人には見えない。外国の方ですか?」
「私はロシア人デス。名前をフンバルトと言いマス」
「……プッ!!」
やおたが堪えきれずに吹き出した瞬間、乾いた音が響いた。
バッチィィィーン!!
女将の烈火の如きビンタがやおたの頬を捉える。
「……す、すいません……」
やおたが頬を押さえて謝罪するが、女将は無表情に続けた。
「フルネームは、フンバルト・スゲーデルデス」
「……ブフッ!! 」
バッチィィィーン!!
二発目の追撃。やおたは床に転がった。
「……やおた、鼻血出てるわよ」
ケメ子が冷ややかに告げる。千春は震える声で懇願した。
「……女将さん、どうか一泊させていただけないでしょうか……」
「大丈夫デス。……どうぞ、入りなさい」
船酔いの吐き気と、鼻血と、ビンタの痺れ。
57歳の夜は、さらにカオスな深まりを見せていた。




