【ちく第9話】腰袋とタキシードとサクサクの悪夢
【ちく:同窓会前夜】腰袋とタキシードと、サクサクの悪夢
2026年、愛知。
ちくは自分の工務店の作業場で、一人、巨大な姿見(鏡)と格闘していた。
手元には、ボロボロになった中学時代の生徒手帳と、最近届いた同窓会の案内状。
「……アカン、どうしても『親方』が出すぎてまう」
彼は悩んでいた。
同窓会に着ていく服を新調したまでは良かったが、いざ袖を通してみると、長年の習慣でどうしても腰に「腰袋」を巻きたくなってしまうのだ。
試しにタキシードの上からハンマーをぶら下げてみたが、鏡に映っているのは「やけに正装した解体業者」だった。
「これじゃケメ子に『アンタ、そのまま現場行くの?』って鼻で笑われるわ」
ちくの「同窓会・完璧超人プロジェクト」は、まずこの職人オーラを消すことから始まった。
彼は、やおたから以前送られてきた「リラックス効果のあるお香(中身は不明)」を焚き、クラシック音楽を流してみたが、3分で寝落ちし、夢の中で黄色い服を着たあの男に追いかけられた。
『サクサク……ちく……柱が3ミリ歪んでるよ。サクサク……』
「うわあああ! 夢にまで出てくんな!」
飛び起きた拍子に、愛用の墨出し器をひっくり返し、新調したズボンに真っ黒な一本線が引かれた。
「……終わった。これじゃ『墨出しされた親方』だわ」
そんな時、スマホにきよぴこから動画が送られてきた。
画面の中では、50代後半の男が全裸に近い姿でハリセンを振り回している。
『ちく! 同窓会でこれやるから、お前は受けに回れよ! サクサク!』
「……あいつら、30年以上経っても一ミリも成長しとらんのか」
ちくは呆れ果て、逆に吹っ切れた。
結局、墨のついたズボンを履き替え、いつもの作業着を少しだけ新しくした格好でいくことに決めた。
トランクには、手土産の地酒……ではなく、なぜか「もし会場の建付けが悪かったら直してやる」という名目で、フル装備の工具セットを詰め込んだ。
「待ってろよ、お前ら。俺が一番まともだってことを、現場で見せつけてやるわ」
ちくの同窓会前夜は、墨出しの失敗と、悪友たちの相変わらずのバカさに毒づきながら、トラックのエンジンをかける、最高に騒がしい旅立ちとなった。




