【きよぴこ第8話】爆笑の 業火とマイク 1本の真剣勝負
【きよぴこ:第8話】爆笑の業火と、マイク一本の真剣勝負
2020年代半ば。大阪。
50代後半のきよぴこは、あるIT企業の新人研修に講師として呼ばれていた。
会議室に座る20代の社員たちは、タブレットを片手に、無表情で「はいはい、おじさんの精神論ね」というオーラを隠そうともしない。
きよぴこは、ステージの袖で自分の白髪が混じった短髪をくしゃりと掻いた。
昨日、エゴサーチで見つけた「きよぴこ氏のトーク、昭和のコテコテすぎてキツい」という書き込みが頭をよぎる。
「……キツい、やと? おもろい。ほな、ホンマにキツいのがどんなもんか、見せたるわ」
彼はネクタイを緩め、マイクスタンドを思い切り蹴り飛ばす勢いでステージ中央へ飛び出した。
最初の一言。用意していた「効率的なコミュニケーション術」のパワーポイントなんて、一切無視だ。
「えー、皆さん。今日は『効率』の話をしに来ました。でもね、一番効率悪いのは、今お前らがしとるその『冷めたツラ』や! 葬式か! 誰か死んだんか! サクサク死んだんか!」
1982年のあの夏、教室の隅で「おむつマン」の作戦を立て、先生に怒鳴られても笑い転げていた、あの不屈のエネルギーが爆発した。
彼は、自分の失敗談、下ネタギリギリの自虐、そして「ナウい」と言い張る死語の数々を、機関銃のようなスピードで浴びせかけた。
最初はポカンとしていた若手たちが、一人、また一人と吹き出し始める。
きよぴこは止まらない。舞台狭しと動き回り、最前列の若者のタブレットを取り上げて「こんなもん見て人生わかるか! 俺の顔を見ろ! 50年分のシワ、全部ネタや!」と叫ぶ。
気づけば、会場は地鳴りのような爆笑に包まれていた。
アンケートの「時代遅れ」なんて言葉は、彼の熱量に焼かれて消え去った。
講演終了後、汗だくになったきよぴこは、楽屋のソファに沈み込んだ。
喉はヒリヒリし、膝はガクガクだ。でも、不思議と身体は軽い。
「……喋りすぎたな。でも、これが俺や」
彼は、鏡の中の自分に向かって、ニカッと笑ってみせた。
時代に合わせて上品に振る舞う必要なんて、どこにもない。
死ぬまでお調子者で、死ぬまで空気を読まず、死ぬまで笑わせ続ける。
きよぴこの50代後半は、錆びついた殻を自らぶち壊し、マイク一本で世界を「サクサク」に彩る、圧巻の独演会となっていた。




