【ケメ子第9話】ネオンの逆襲とアフロの残像
【ケメ子:第8話】ネオンの逆襲と、アフロの残像
2020年代半ば。東京。
50代後半のケメ子は、ある夜、表参道のバーで安いカクテルを啜りながら、心の中で激しい炎を燃やしていた。
昼間、大手代理店の若造に「ケメ子さんのスタイルは、古き良き『昭和の遺産』として保存すべきですね」と、まるで剥製扱いされたことが、どうしても許せなかったのだ。
「……保存? 冗談じゃないわ。私はまだ、生きて動いてるのよ!」
彼女は翌日、縮小しかけていたアトリエのスタッフを招集した。
ターゲットは、老朽化が進んで解体寸前と言われていた、新宿歌舞伎町の雑居ビル一棟。
最新のミニマリズムだの、洗練されたベージュトーンだの、そんな「今風」の退屈なデザインを彼女はゴミ箱に捨てた。
「いい? コンセプトは『1982年の爆発』よ。目に刺さるようなピンク、暴力的なまでのネオン、そして全フロアにミラーボールを吊るして!」
周囲は「狂ったか」と囁いた。予算も、体力も、かつてのようにはいかない。
だが、ケメ子は止まらなかった。膝の痛みを湿布で抑え、老眼鏡の上からド派手なサングラスをかけ、現場で若手職人たちを怒鳴りつけた。
「そこ、色が地味よ! もっと下品なまでのゴールドを塗りなさい!」
完成したそのビルは、夜の歌舞伎町で異彩を放っていた。
オープン初日。そこは20代の若者たちで溢れかえった。彼らにとって、ケメ子が作った「過剰なまでのエネルギー」は、効率化された現代では決して味わえない、未知の劇薬だったのだ。
「ヤバい、このババア、天才だわ」
フロアの隅でそう呟いた若者の言葉を、ケメ子は見逃さなかった。
彼女は、短く整えていたグレーヘアに、この日のために特注した「シルバーのアフロ・ウィッグ」を被り、シャンパングラスを高く掲げた。
「クラシック? 結構じゃない。私はヴィンテージの皮を被った、最新のダイナマイトよ!」
更年期のホットフラッシュさえも、ビルを照らす熱源に変えてやる。
腰を振ってディスコステップを踏むケメ子の瞳には、1982年のあの夏、プールの水面に反射していたギラギラとした太陽が、今も確かに宿っていた。
守りに入るには、まだ100年早いわ。
ケメ子の50代後半は、周囲を置き去りにして加速する、極彩色のリスタートとなった。




