救荒食物
「なにやってるのかしらね」
北伊勢高校には、園芸の授業がある。紅の発言は一連の米騒動に対してである。
「戦時中だよ、これじゃ」
食物とエネルギーと金融を握るものが、世界を制する。
北伊勢高校には広大な畑がある。いま紅たちが植えているのは、サツマイモの苗だ。
「救荒食物ってわけね」
サツマイモは痩せた土地でも栽培可能で、日本史上、数々の飢饉と食糧難を救ってきた。じゃがいもも救荒食物だが、サツマイモは暖地で、じゃがいもは寒冷地でよく育つ。
「紅さんちでもたくさん作ってるもんね」
紅の実家は兼業農家である。紅の発想力は北伊勢の雄大な自然で育まれた。
「わたしも駆り出されたわ」
これが本当の食っていくための生活力である。紅はコンバインが三輪車代わりであった。
「頼もしいなあ、紅さん」
ちゃちゃちゃっと、苗を植えていく紅。芋づる式に収穫出来ることを願う。
「こういう教育方針が志望動機でもあったのよね」
水道管が破裂した時に、学歴など何の役にも立たない。YouTuberよりtubemanこそがライフラインだ。
「ソバやアワも救荒作物として優れてるわ」
生育期間が短い。取れたての野菜を食べているため、紅の血色はすこぶる良い。
「北伊勢の蕎麦は最高だよ!」
年往はうどんより蕎麦が好きだ。蕎麦は冷害にも強い。
「ウチに来たらいくらでも出してあげるわよ」
なんども紅宅には訪れているが、蕎麦はまだご馳走になっていない。ただでいただくほど厚かましくないので、ちゃんと手土産は持参するようにしている。
「紅さん、ありがとう」
これでも、付き合っているわけではない。
(紅さんを農水大臣に抜擢したほうが、よっぽど国益に適ってるよ)
名だたる大企業も、初代は徹底的な職人であった。後継がデスクワーク、アルコールワークしかしなくなったら、終わりの始まりである。
「焼き芋もいいけど、スイートポテトを作りたいわね」
食欲が旺盛で料理の腕前が上達した口である。
「わっ、いいね!」
食べさせてもらっているようじゃ駄目だぞ、年往。
「トシの好きなおさつスナックも作ってあげるわ」
紅芋色のジャージと理数科室長の頬が、満作を予兆していた。




