脳の最適化
「また学年トップだね、紅さん」
中間テストの結果が発表された。掲示板に上位50名まで張り出されている。
「ありがとうね、トシ」
かくいう年往も紅の後ろにぴったり尾けている。
「ウチの高校は時代にあらがって順位発表してるけど、すごくいいことだと思う」
中高とランキングに無関係に生きてきたとしても、社会に出た途端、無慈悲にも競争原理の中に放り込まれる。
「あくまでも、テストの点だけの順位ということをお忘れなく」
最下位で歯を食いしばることはあっても、ガムを間に挟んでいては真剣味が感じられない。
「紅さんはもう聖人の領域だなあ」
過激と呼ばれる宗派の経典を開いてみると、どこにもその行動原理を後押しするような事は書かれていなかったりする。むしろ厳しく誡めているだが、後世の人間が勝手に解釈しているケースがとても多い。
「おだててもビーバーしかあげるものがないわ」
金沢の揚げあられである。揚げるものはあった。
「これ、僕も大好きなんだよ。いくつも味があるけど赤パッケージのプレーンかなやっぱ」
年往の先生とも言える紅。僕の先生はビーバーだった。
「勉強してる時にいまこの成分が足りないってのを的確に弾き出すのが大事なのよね」
「米・油・塩。確かになあ」
補充を間違うとパフォーマンスに差が出てしまう。
「チョコの気分の時もあるし、メロンパンの気分もあればエースコックの時もあるわ」
※紅はちゃんと料理もします
(この辺は普通の女子高生なんだよなあ。そのギャップがまたなんとも)
「脳の最適化に必要なことだね」
年往のセリフを聞いて、考える仕草を見せる紅。人差し指を折り曲げ、上唇に軽く当てる。
「いま言った食べ物は身体のエネルギーになるけど」
年往は耳をかっぽじって聞く態勢に入った。耳掃除をしなくていい説が近年浮上しているが、清潔漢の年往には信じがたい。紅に膝を借りて掃除してもらおうなどという高邁なる野心も企てている。
「生活しているとドンドン脳にゴミが溜まっていくのよね。PCも同じだけど」
言うまでも無く、ゴミが溜まったままでは脳の本来の力を発揮できない。
「定期的に脳のクリーンアップをしないといけないってことだね」
話せばすぐ分かることたが、紅の頭は見事に整理整頓されている。
「AIの登場で歓迎な点とアンウェルカムな点とがあるわ。意識して見定めないと人生の浪費ともいえる悪循環に取り込まれてしまう」
滅びにいたる門は大きく、その路は廣く、之より入る者は多い。
「AIってパターンが無限に作れるハズなのに、あの見飽きた感になるのはなんなんだろうね」
「コールセンターでAIに質問してても埒が明かないけど、あの状況が劇的に改善される未来があまり見えてこないのよね」
人間の言いたいことを察する能力は、熟練されるとエスパー的でさえある。
「AIが生み出すゴミ情報はシャットアウトしないとね」
愛が見えなくて、AIの海に溺れそうである。
「創作物でわたしが気に掛けていることがあるの」
「それは何だい?」
「作品が次から次へと生み出されていくけど、このキャラは別にこの名前じゃなくても成立するって思えたら、見なくなるわ」
唯一無二の作品は、キャラ名が他に置き換えられない。
「AI作品って名付けが適当なのあるよね」
自分の大好きな作品のキャラを別の名前に置き換えたら、違和感というより拒絶反応が出るはずだ。
「可哀想だけど、その作品群は使い捨てでしかないわ」
脳の栄養にはとてもなれない。
(人間がそこまで落ちぶれたら最期だ。自分は他の何者にも替えが利かないって自負を持ち続けないと、駄目になってしまう)




