武器屋⑤
表通りに並ぶ店とは違い、看板らしい看板もない。
古びた木造の建物の軒先に、小さな剣の飾りがぶら下がっているだけだった。
繁盛してる様子はなく、窓ガラスも所々割れていて近くには樽が一つ転がっていた。
ダンは眉をひそめた。
「ここがそうだ」
アリラは胸を張ってそう言う。
「この辺じゃ知る人ぞ知る武器屋だ。店主は変わり者だが、腕だけは確かだ」
「僕も前アリラちゃんに連れてきてもらったけどここの店主は普通の人とは違って見えたよ」
もう一人のダンがまた瞳を輝かせながらそう言う。
アリラともう一人のダンは扉に近づく。
ダンも疑心暗鬼になりながらも扉に近づくと。
「――っ」
鼻先に何かがぶつかり、ゴンッと鈍い音がする。
「っ………?」
ダンは額を抑えながら一歩後ずさり目の前を見上げる。
「兄さん?」
もう一人のダンが首を傾げながら振り返った。
「何してるんだ?」
アリラも怪訝そうに見る。
ダンが片手を伸ばすと。
バチッ。
青白い光が弾けた。
「っ!」
反射的に手を引っ込めるとまた目の前を見上げた。
「何だこれは」
何もない空間に、薄い膜のようなものが一瞬だけ浮かび上がった。
「……結界だ」
アリラが目を見開いた。
「……結界? なんだそれは」
ダンは初めて聞く言葉に思わず聞き返す。
「目には見えない壁みたいなものだ。魔力で作られてる」
「……魔力とはなんだ」
アリラ達が固まり驚いた顔をしてダンを見つめた事にダンは逆に驚く。
「……え?」
「だから、魔力とはなんだ」
聞こえなかったのかと思い、ダンはもう一度聞き返す。
アリラはしばらくダンの顔を見つめていたが、やがて信じられないものを見るように眉を寄せた。
「お前……魔力を知らないのか?」
「知らん」
「魔法は?」
「知らん」
「魔術は?」
「知らん」
「魔石」
「さっき雑貨屋で初めて見た」
「…………」
アリラは額を押さえた。
「お前、一体どんな場所で育ったんだ……」
「普通だと思うが」
「絶対普通じゃない」
即答された。
横ではもう一人のダンが何故か楽しそうに笑っている。
「兄さんのいたところには魔法がなかったんだね」
「少なくとも俺は見たことがない」
ダンは改めて目の前の何もない空間へ視線を向ける。
先ほど触れた場所には、もう青白い膜は見えない。
ただの空間にしか見えなかった。
アリラが説明するように指を一本立てた。
「魔力っていうのは、生き物や大地に宿ってる力だ。魔法を使ったり、魔道具を動かしたりするのに使う」
「人間にもあるのか?」
「当然ある。量は人によって違うけどな」
ダンが眉をひそめる。
その話だと自分にも魔力と言うやつがあることになる。だが、異世界から来たダンには本当にあるのだろうか。
アリラは確かめるように結界へ手を伸ばした。
すっ。
何の抵抗もなく、ダンが壁を感じた宙を通る。
「……?」
ダンは眉間に皺を寄せた。
「触れるというか……私には結界が反応してないな」
「僕もだよ」
もう一人のダンも恐る恐る手を伸ばす。
やはり何も起こらない。
そのままダンの肩を掴んでみせた。
「ほら」
「…………」
ダンは無言で、もう一度手を伸ばした。
バチィッ!
今度は先ほどより強い光が弾け、ダンは顔をしかめながら手を引っ込めた。




