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第176話 悪役はよく喋るし主人公は能力を隠したがる

「はい、皆さんどうもさっきぶりです。と、言っても厳密にはここにいる私は先ほどの私とは別の存在なんですけどね?」



 テップが開いた空間の裂け目から聖女ユウリの叫び声とともにノインがいつもの涼しげな顔でひょっこりと出てくる。



「なっ!? 死んだはずじゃ……!」



 それを見たテュールは、自然とテンプレかつ三下悪役のセリフを口走ってしまった。



「はい、期待通りの反応ありがとうございます。そうですね。貴方がたが先ほど殺したものは言うならばバックアップのようなものですかね。ユウリさんをここに仕舞う際に、本体である私はこちらに隠れ、最低限のガワを整えた偽体をそちらに置いておく。あとはここから遠隔操作です。わー、パチパチ。楽しいショウでしたでしょ?」



 そして、ノインはそんなテュールに対し、とても良い笑顔を見せると、得意げに解説を始める。



「はい、じゃあ答え合わせが終わったところで、そろそろ──動きますよ?」



「なっ。マズい!! 斧を止めろッッ!!」



 ノインはニヤケ顔から一転、冷徹な顔になると斧を振りかぶり、世界樹ユグドラシルに対し投擲する。不思議とノインの話に気をとられていた一同は初動が遅れた。魔法が解けたかのように動きだした時、ローザの第一声はそれであった。



「ですが、遅い」



 しかし、ローザの言葉は虚しく空へ消え去り、そのとき既に斧はユグドラシルへと突き刺さっていた。そこからは一気に龍が立ち昇る如く亀裂が走っていく。



「サーディアッッ!!」



 ローザは慌てて駆け寄り、その斧を引き抜こうとする。しかし、それでも──。



「斧は抜けませーん。神器ですよ? 所有者以外が触れば、その身が朽ちますよ? 手、痛いでしょ?」



「ぐぅぅ、らぁぁぁああ!!」



 ローザの手からは肉が焦げる音と煙が。しかし、それでもローザは懇親の力を込め、引き抜こうとする。



「だーかーら、無駄で──」



「テップ!! 私とこれごと時間を止めろッッ!! サーディアを絶対に殺すなッッ!!」



 そして、ローザは激情の中、冷静に思考を切り替える。判断が一秒遅れる度にサーディアの命のろうそくが短くなっていく。ローザは自身の樹界魔法で世界樹から漏れ出るマナを押し留め、テップに頼ることとした。



「あぁ、そうでした。そうでした。禁眼のアルス。貴方がいたんですね。いや、貴方なら確かにそれができてしまいますか。では、殺しましょう」



「テュール、あんたはテップを守るさね!! セシリア! あんたは下がってな!! あたしはこいつを今度こそ殺るさね!!」



 その言葉に頷くテュール。テップの前に立ち、刀を構えノインを睨む。セシリアを守る余裕がないため、セシリアへの退却の指示はありがたかった。そして、そんなテュールたちの動きを見届けたノインはゆらりと体を前へ沈める。



(速いッッ!?)



 消えたかと錯覚する接近から神速の一閃。テュールはこれを五輝星との修行で培った危険に対するカン。つまり直感で刀を動かし、受け止めたのだ。



「ほぅ……。まぁ、ここまできたら焦るのもなんですからね。少し遊びましょうか。所詮は時間の問題です。それで、その刀の銘を教えていただいても?」



 ノインの攻撃を受け止めてから、ようやく見えた相手の獲物。毒々しい色に奇妙な曲線を描く短剣である。そしてノインはそれを受け止めたテュールの刀にやはり興味が沸いたようだ。



「ごちゃごちゃと五月蝿いさね。死にな。『空間変異転移(ミキサー)』」



 だが、そんなノインの茶番に付き合う気はないルチアが後ろから魔法を放つ。放った魔法は対象の者を結界内へ閉じ込め、ありとあらゆる体の組織を無作為に千切り、空間転移させるという魔法。



「一応、これが本体なのでそれは困りますね、っと。フフ、私も彼ほどではありませんが、良い眼を持っていますので打ち消させてもらいましたよ」



「チッ、バケモノめ! なら、こうさね」



 ルチアは打ち消されないよう発動が速い下級魔法を連射し続ける。幾重にも蔦が走り、拘束しようとする。幾重にも雷が走り、神経を焼き切ろうとする。幾重にも炎が走り、酸素を奪い続け、幾重もの氷柱が体を貫こうとする。



「テュール!! こいつを切り刻みな! 責任はあたしが取るっ!!」



「応ッ!!」



 そして、そのどれをも巧みに躱し続けるノインに業を煮やしたルチアが叫ぶ。テュールは迷うことなくそれに頷くと刀を奔らせ続ける。その間テップはと言うと──。



「……『災厄の魔眼(カラミティ・サイス)』開眼。『真理の扉(アルス)』開門」



 他の一切を無視し、自身のすべきことに注力する。その両の眼は金色に輝き、体がふわりと浮遊する。そして何もない空間をまるで読み解くように忙しなく視線がなぞる。そして──。



概念からの脱却(シザース)



 両手を前に突き出すと、何百メートルにもなる魔法陣を浮かべる。その巨大な魔法陣は下半分は地面へと埋まり、左右、上には首を動かし目を凝らさなければ終わりが見えない。そして、発動した瞬間──世界樹サーディアも神器ヴァルキュレータもローザもその周囲が全て色を失い、時間が止まる。



「素晴らしいッ!! 流石は世界一の大魔導師!! この世の森羅万象を読み解き、魔素を自由自在に操る究極の魔眼『災厄の魔眼(カラミティ・サイス)』を持つ者とだけあります。その金色の瞳。なるほど、そうですか。貴方を知る者はきっと金眼と呼んでいたのでしょうね。クク、ハハハハハ、欲しい。その瞳、実際に拝見すると是が非でも──欲しくなってしまいます』



「悪い、ルチア。俺はここでこいつの維持のために魔法を発動しつづけなきゃならないわ。そっち頼むー」



「あぁ、良くやったさね。こっちは任せな。テュール。ほれ、兄弟がきばってんだ。次はあんたが頑張る番だよ」



 こうして、第二ラウンドが幕を開ける。




テップ覚醒!!

かーらーのー!テュール頑張れ!主人公をとられないように頑張るんだ!!

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