第158話 すーぱーもでる
「はぁ、はぁ、お前らやるじゃねぇか。二対一とは言え、俺をここまで追い詰めるとは大したもんだ。おっと、もう下校の時間か。結局九時間ぶっ通しで戦っちまったな」
「……ん、楽しかった。せんせーありがとう」
「おう、俺も楽しかったぜ。やっぱ若いやつの成長ってのはおっさんにとって楽しくてしょうがねぇな。だが、まだ負けてやれんな」
そして微笑み合い握手を交わす二人。その横ではテュールが呆れた顔をして、九時間ぶっ通しってバカなの? なんなの? と思っていたが何を言っても今更なので口を噤む。
結局テュールとレーベは帰りのホームルームのみ参加し、下校となる。当然帰ったら帰ったで──。
「ガハハハ! さぁ修行するぞ!」
これである。そして、対天使、対ラグナロク、対闘技大会を見据えている師匠陣が一時間、二時間の修行で終わるわけがない。
結局帰ってからも九時間ぶっ通しで修行を行うテュールとレーベ。遊楽団のメンバーも全員参加だ。ウーミア? ファフニールがマンツーマンで竜族としての戦い方を教えている。あるいはこのメンバーに囲まれて育つウーミアが最強になるかも知れない。
こうしてテュールとレーベは『寝る』『食べる』『風呂に入る』以外の時間は全て修行にあてる生活が三週間続く。
そして遂に明日はロディニア闘技大会だ。
「ホホ、さて今夜くらいはゆっくり休んで明日は万全の体調で挑むんじゃぞ。乾杯」
久方ぶりの心を休められる夜にテュールは気持ち穏やかに酒を飲む。遊楽団の面々も好き好きに食事をしたり、酒を飲んだり、だ。そんな中テュールは、女性陣五人の方へと近づいていく。
「あー、そういや闘技大会の翌日は五種族会議があるだろ? ってことはみんなの両親も来るのか?」
既にリバティの街は闘技大会と五種族会議の話題で持ちきりになっており、各国から王族や強者が集まるため警備も厳戒態勢が敷かれている。そして王族といえばここにいる少女たちの家族だ。テュールはこの三週間、世間話をする余裕すらなかったため、今更になってそんなことを聞く。
「うちは父親だけかな」
「リリスのとこは母様が来るみたいなのだ!」
「……ん。同じくかーさまだけ」
「私のとこはお父様だけですね」
「あー、うちは母親とその……叔母様だな」
どうやら五種族会議に二人で参加する国はないようだ。レフィーのところだけは叔母がくるようだ。その叔母と言えば──。
「なるほど、絶氷ね……。アンフィスは久しぶりに会うんじゃないか?」
「……あぁ、最後にいつ会ったかは覚えていないが、とにかく恐ろしかったことだけは覚えているな。できるなら会いたくねぇ」
ロディニア闘技大会にエントリーされている今回の大本命ペアの片割れ絶氷。竜族のSSSクラス。フィジカル世界一と言われる女性でアンフィスの実の姉である。
「ハハ……、あれか? フィジカル世界一って噂だけどファフニールみたいにデカくてゴツいのか?」
「いや、まぁ身長は高いが華奢だな。つーかモデルやってるぞ」
「え、マジ?」
「あぁ、マジだ」
「んー? 私、絶氷さんが載ってる雑誌持ってるから持ってこようか?」
どうやらテュールが思い描いていた竜族最強の女性像とは違うようだ。話しを聞いていたカグヤが気を利かせて雑誌を取りに自室へと向かう。
お目当てのものはすぐに見つかったようで大した時間を掛けずにカグヤが戻る。テュールは、なんとはなしにソワソワしてしまう。
「で、どれだ?」
テュールの目の前に置かれる雑誌。左右にはカグヤとアンフィス。他の遊楽団のメンバーも後ろから覗き込み、師匠たちも集まってくる始末だ。
「いや、もっと前だ」
パラパラめくりはじめたテュールに、アンフィスがそう指示する。
「ん? なんだアンフィス、お前自分の姉貴が載ってるページ覚えてるのか? 案外シスコ──」
「いや、表紙だからな。嫌でも目に入るわ」
「え!? この美人さん!? この白銀の髪、白い肌、妖艶な雰囲気を醸し出す美人がお前の姉なのか!?」
「……あぁ、そうだが、そんなことよりその反応まるでテップみたいだぞ」
テュールは写真からでも伝わる年上のお姉さんの色気についはしゃいでしまう。そしてアンフィスの的確なツッコミに顔を引き攣らせる。だがテュールは、そこではたと気付く。ソウルブラジャーであるテップがはしゃいでいないという違和感に。
「って、テップ!? お前ならもっと反応するだろ!? どうしたっ!?」
「……ふぅ。あー、いや確かに俺は女性から蔑まれたり、相手にされないのを楽しむ節はある。だが、雑誌越しだというのにこの眼力……。まさに竜に睨まれた家畜のような気持ちになっちまったんだ。すまねぇ」
やつれきった顔でそう告げるテップ。どうやらテップは雑誌越しに絶氷とやり取りをしてコテンパンにされたようだ。想像力のたくましさたるや流石である。
「そ、そうか……。あ、ちなみに土兎さんはどんな人なんだ?」
「フフ、土兎さんはモデルではないようですよ?」
そして今回の大本命ペアのもう片割れは獣人族SSSランクの土兎である。テュールは、まさか土兎もモデルをやっているのではと思ったが、セシリアに苦笑され、否定される。ちなみに他種族やSSSランク同士が組むというのはルール上問題ない。どうやらローザの話にあった禁眼を三人で育てたことからも分かるように仲が良いらしい。だが、参加する側からすれば──。
「ガハハハ。まぁ土兎と絶氷がペア組んじまったら賭けが成立しないだろうな」
SSSランク一人でも立ちはだかる壁として高すぎるのに、それが重なったならば絶望でしかない。それは誰しもが分かっており、口にしなかったがリオンが豪快に笑いながら現実を突きつける。だが、そんなリオンの言葉にレーベはあっけらかんと付け足す。
「……ん。けど土兎はちんまい」
「ほぉー。そうなんか。レーベにちんまいって言われるんだから相当だな」
「……ししょー殴っていい?」
「すまん。もうこの三週間散々殴り合ったんだから今日くらいはやめようぜ?」
「……ん。私は今まで土兎に一回も勝てたことがない。明日は必ず勝つ」
「そうだな。明日はSSSランクペアに勝って、世界中を驚かせてやろうぜ」
だが、今更SSSランクがペアを組んでいたとしてもやることは変わらない。目指すは世界最強である。テュールとレーベは気合十分に拳を突き合わせるのであった。
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