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第159話 プリンセス×プリンセス

 夜と朝が切り替わるほんの隙間、ローブを纏ってフードを目深に被った男ノインと華やかなウェイトレス姿から夜の闇に溶けるような服装に変わった銀髪の少女カミラがとある部屋で落ち合う。

 ノインは椅子に深く腰掛けたまま、直立不動のカミラに対し愉快げな声で話を切り出す。



「さて、カミラさん。遂に待ちに待ったロディニア闘技大会が始まりますね。厄介な五輝星やSSSランク、それにエルフ最強と噂されているイアンが集まりますから、世界樹攻略にはもってこいですよねぇ」



「えぇ、しかしエルフSSSランクのローザとそして巫女が国に残っているのが……」



「フフ、向こうだってそれなりに情報は掴んでいるんですよ。まぁ狙いも時期も分かっているとみていいでしょう。だからローザは残った、と。そして五種族会議にはイアンを出す。当然の選択でしょう、癒やしの巫女であるエリーザがいない時に国を襲われれば被害を抑えれませんからねぇ」



「……よろしいのでしょうか?」



 ノインがなんでもないように作戦の狙いと時期がバレているであろうと告げる。それに対しカミラは訝しげな声を上げた。



「えぇ、そちらはわざと流している情報ですから。そして当然バレていない計画もあります。なぜなら私一人で準備し、私一人の頭の中にしか存在しませんから。まぁ、私が他のものに悟られるようなマヌケでなければ、ですけどね」



 そしてノインは実に愉快そうに笑った。カミラは当然ノインがそんなボロを見せるわけがないと確信しているため、その冗談に対して特に何も言わずに流す。



「では、カミラさん今から貴女にだけ計画を教えましょう。まずは既知の計画通り、ロディニア闘技大会中にリエースを襲い、世界樹を代償に天使を召喚します。この際の器はとても良い器が届く予定ですので。そして、この計画自体は失敗しても成功してもどっちでも良いのです。まぁ当然成功した方が良いんですけどね? そして──」



 ノインは薄暗い部屋の中、椅子から立ち上がる。ゆっくり大きく一歩踏み出すと、スッとカミラの耳元へと唇を寄せ──。



「──です。そして──。する──と、天使──邪魔な──」



「……」



 まばたき一つせず、呼吸すら止めたようにジッとその声に耳を傾けるカミラ。そして話はこれで終わりとばかりにノインは最後にカミラの肩をポンッと叩くと一歩下がる。



「では、期待していますよカミラさん。我々の手で世界に混沌を」



「はっ。世界に混沌を」



 二人は頷き合う。そしてカミラがようやく一瞬のまばたきをすると、部屋には誰の気配もなくなっていた。





「……ししょー。ししょー起きて。もう朝」



「んんっ。もう五時間……」



「……五時間経ったら不戦敗。起きて」



 夜と朝が切り替わるほんの隙間。薄暗い部屋で布団にくるまり、目を閉じるボサボサ頭のテュールを、既に戦闘用の動きやすい服装に着替えているレーベがゆさゆさと揺り起こす。



「……んぁ? レーベ? へ? え? 俺寝坊した!? 今何時!?」



「……ん、それは大丈夫。今は四時半を過ぎたところ」



「……正気か? 開会式は午前九時だぞ。寝る」



 当然、大会当日の朝四時半から修行するなどというバカげたことに付き合うテュールではない。寝坊かと焦って上半身を起こしてしまったが、すぐさまパタリと倒れ込み、布団をかけ直す。



「……ししょー。修行しよ?」



 その声色にテュールは布団の隙間からチラリとレーベを見やる。どうやら緊張して落ち着かない様子だ。



(なんというか、らしいな。でも……)



「知らん。寝る」



 そんな弟子など知ったこっちゃない、とテュールは寝るという選択肢を選んだ。これにはレーベもジト目でだんまりである。そして──。



「……んしょ」



 レーベは強行手段としてテュールをお姫様抱っこで抱えた。



「……ほいっ」



 だがテュールも負けてはいない。目を閉じたまま魔法陣を描き、自身の体重を数百倍にする。住人が住人のため家は魔法で補強してある。床は抜けずに済んだ。しかしその何トンという重さになったテュールをレーベは抱えたまま歩き始める。



「……ん、丁度いい準備運動」



(もうヤダ……この子)



 上機嫌なレーベの腕の中で揺られながら、テュールは心の中でそっと悪態をつくのであった。



 そして、レーベはそのままモヨモト宅の地下ダンジョン訓練場まで歩き、降りていくと、ようやく腕の中にいるお姫様(テュール)をゆっくりと降ろす。テュールはTシャツ、ハーフパンツ姿であぐらをかき、寝惚け眼をこすりながら諦めたようにちょいちょいと手招く。



「あー、分かった、分かった。弟子よ、かかってきなさい」



「……ん、よろしくお願いします」



 テュールがあぐらのまま、あくびを噛み殺してそう言うと、獅子族のお姫様は迷わずお姫様のもとへと駆けていく。



 ロディニア闘技大会まで残り四時間。

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