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第149話 これから始まる大レース……でもないか

「じゃあ、騎獣レースのルールを説明するわねー。基本は一周六百メートルのこのコースを速く回れたペアの勝ち。あっ、騎獣と騎手のどちらともがゴールテープをくぐらないとダメだからね? それと騎獣、もしくは騎獣車から落ちたら失格ねー。あとは何でもアリよ」



「……あとは、なんでも、だと?」



 テュールは、自分の耳を疑う。それは暗に走行妨害をしながらレースをしろと言ってるのと同義だったからだ。



「そう、なんでも。あぁ、騎獣もしくは騎手を殺すのだけはダメよー?」



 そして、ミルキーは殺さない程度の攻撃は認めると改めてそう言ったのだ。



「……ん、質問。騎獣から落ちるっていうのはどういうこと?」



「騎手の体の一部が地面に触れたらねー」



「……なるほど。よし、ツヨシ。勝った」



「ぶるふぁっ♪」



「……チッ。あの子犬であれば一噛みだが、テュールが厄介だな。しかもその隙にレーベ様をフリーにするのは危ないな……」



「ぐるふっ」



 このルール説明を受け、レーベとクルードは各々戦略を練り始める。テュールはそんな二人を見て、クルードがどう出るかは分からないが、レーベは間違いなく全員を戦闘不能にしてからゴールするつもりであることを悟る。



「はい、じゃあルールも分かったとこで、乗ってちょうだい。騎獣に直接乗るか、騎獣車を使うかは自由よー」



「ボクは当然、騎獣に乗ろう」



「ぐるふっ」



 体長四メートル、体高もニメートル以上ある灰氷狼(グリムル)に跳躍して跨がるクルード。流石は公爵家の者とだけあって、上質な服装、整った顔立ち、自信に溢れたその騎乗姿はサマになっていた。



「……ん、私もツヨシに乗る。んしょ」



「ぶるふぁっ♪」



 体長ニメートル、体高一メートルの牛に跨がるレーベ。レーベの尻尾とツヨシの尻尾がふりふりと左右に揺れる絵は妙にしっくりくるものであったが、やはりシュールだと言わざるを得ない。



「あー、俺は騎獣車に──」



「「「アウッ!! アウッ!!」」」



「は? ポメ、お前イヤなのか? 直接乗れって言うのか?」



「「「アウッ!!」」」



 騎獣車を取りに行こうとしたテュールのズボンの裾を噛んで引き止めるポメベロス。どうやらニルヴァルムとツヨシに対抗意識を燃やしたらしく自分に乗れと言っているようだ。仕方なくテュールはポメベロスに跨った。



 体長四十センチ、体高ニ十センチの三つ首の小型犬に跨がるテュール。辺りにはイヤな沈黙が流れる。



「……ポメ? この絵は絵にはならないが、万が一絵になってしまったら動物愛護団体の方々から叱られてしまうんだ?」



「「「アウぅ……」」」



 そして、テュールはそっと降り、ポメベロスを撫でてから騎獣車を選ぶ。ハーネスを取り付け、いざ一人乗りの騎獣車に乗り込むと──。



(こ、これはこれで動物愛護団体の方々に叱られてしまわないか……?)



 聖帝を運ぶ、モヒカン奴隷のような図になってしまい、結局テュールは冷や汗を浮かべるのであった。



 こうしてレースが本当に成り立つのか、甚だ疑問の残る三ペアが出揃い、スタート地点へ並ぶ。



「みんな殺さない程度にね? 殺さない程度にね?」



 何が嬉しいのか、笑顔でそこだけ念を押すミルキー。やはりテュールは彼女のことが嫌いだと再認識した。



「じゃあ、はっじめるよー? よーい、……ドンッ!!」



 ミルキーの右手のフラッグが大きく振られる。遂に騎獣レースが始まった。



「ニルヴァルム疾走れッ!! 振り返るなッ!!」



「グルフッ!!」



 クルードは潰し合いでは不利だと考え、先行逃げ切りの手を選んだ。しかし──。



「……ツヨシ、通せんぼ」



「ぶるふぁっ♪ ぶるふぁぁああああッッ!!」



 その狼の一歩目の跳躍に先んじて牛が立ちはだかる。その牛の圧倒的な加速に観衆は目を丸くした。そして、そのまま走れば優勝できたんじゃないかの一言をグッと堪えた。そう、多くの者は狼に賭けているのだ。



「チッ。流石はレーベ様とその騎獣。ただの牛ではないとは思っていましたが、ここまでとは。ですが推し通らせてもらいます。ニルヴァルムッ!!」



「グルファァァ!!」



 灰氷狼(グリムル)と呼ばれる所以、ニルヴァルムはその口から絶対零度の氷のブレスを吐く。しかしツヨシは、そのブレスが到達するまでの刹那にニルヴァルムの顎の下へと潜り込む。そして──。



「……しょーりゅーけん」



 ツヨシの上に立ったレーベは、その顎目掛けて自身に回転を加えながらジャンピングアッパーを放った。



「グルファッ!! プヒー」



 ニルヴァルムはレーベの拳によって無理やり口を閉ざされる。行き場を失った氷のブレスは耳と鼻から漏れ出ることとなった。ニルヴァルムはギャグキャラへと降格してしまった。



「よし、ポメ。そーっと、だぞ? そーっと」



「「「アウッッ!!」」」



 そしてテュールは、レーベとクルードが戦っている横をできるだけ存在感を消しながら走った。だが、当然そんなのがバレないわけがない。



「チッ!! テュール卑怯だぞ!! 男らしく戦え!! ニルヴァルムッ! 何を目を回している!! 公爵家の騎獣としてのプライドはないのかっ!!」



「グルフッ!!」



「うるさいっ、こっちはこんなちっちゃなポメちゃんが頑張って走ってるんだ!! この上戦えとかお前は鬼畜か!! よしっ、ポメ気にしなくていいぞー。走るんだ。ただひたすらに走るんだ」



 遂に自分達を追い抜いていったテュールに、クルードが野次を飛ばす。だが、テュールは取り合う気もなく、ポメベロスに先を急がせる。



「……よそ見、厳禁」



「え? ふべらっっっ!!」



 そしてクルードがテュールに視線を配った一瞬の間にレーベは、ニルヴァルムの上に立ち、その右手を引き絞っていた。クルードがそれを認識した時には全てが手遅れであり、クルードは殺されない程度の右ストレートを頬に貰い、訓練場の壁へと突き刺さっていた。



 あぁ~……。



 同時に観客の多くが落胆の溜め息をつく。そしてレーベに賭けていた一部の者は小躍りし始めた。



「さーて、うちの大将は、お嬢ちゃんとツヨシを押さえつけられるかな?」



「フフー、押さえつけられちゃったらボク達で妨害しよっかー」



「おぉー、ヴァナルナイス! なんでもアリだもんな!」



 そして、そんな中アンフィスたちは割とゲスい案を考え始めていた。




五十万字突破ー!!

読者の皆様いつもありがとうございます!!

これからも「とある英雄達の最終兵器」をよろしくお願いします!

書籍版も予約始まってるので、そちらもどうぞよろしくお願いします!

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