第2話:報われる幸せ
生後数か月が過ぎ、私の視界は以前よりもずっとクリアになっていた。
部屋の装飾や、優しく微笑むお母様の美しさ、そして自分を取り囲む環境が少しずつ鮮明に見えてくる。
そして何より大きかった変化は——首がしっかり据わり始めたことだ。
(よし……! これで訓練の幅がぐっと広がるわ!)
前世は大人の私だが、いまの私の体は赤ん坊そのもの。
筋肉も神経も未発達で、自分の思い通りに手足を動かすことすら一苦労なのだ。
だけど、私には明確なモチベーションがある。
汗を流して努力した分だけ、壁に飾られたペンダントが「ちりん」と愛らしい音を立てて温かく輝き、成果が目に見える形で蓄積されていく。
前世のように、努力が無に帰すことはない。
それがどれほど私に勇気と喜びを与えてくれることか。
(まずは……寝返りの特訓からよ!)
ふかふかのベビーベッドの上で、私は全身の筋力を総動員した。
右足を左側へ交差し、腰をひねり、小さな腕でベッドをぐっと押す。
(ぬぬぬ……っ! あとちょっと……重い……頭が重い……っ!)
プルプルと体が震える。
赤ん坊の頭は体に対してアンバランスに重いのだ。何度も「コテッ」と横倒しになりながらも、諦めずに挑戦を繰り返す。
(あきらめない……! 自分の体は、自分の努力でコントロールするの……!)
そして、十数回目の挑戦。
コロンっ!
(回った……! 寝返り成功……!)
視界がくるりと反転し、世界が違う角度で見えたその瞬間——。
ちりん。
『5ペニー』
今までで一番大きく、ポッとあたたかな黄金色の光が壁の宝石から弾けた。
「まあまあ! レティシア、一人で寝返りができたのね!?」
ちょうど部屋に入ってきたお母様が、驚きと感動で目を丸くする。
お世話をしてくれていた乳母のマーサも、興奮気味に声を弾ませた。
「ご覧ください、奥様! お嬢様の部屋のペンダント、もうこんなに温かくて綺麗な輝きを放っていますわ!」
「本当に……。こんなに小さいうちから、自分で頑張ろうとする強い心を持っているのね。私の愛しいレティシア……」
お母様は駆け寄るなり、私を優しく抱き上げて何度も頬を寄せてくれた。
首筋に感じるお母様の甘い香りと柔らかな抱擁に、胸がぎゅっと温かくなる。
(ああ……努力が報われるって、こんなに満たされることだったんだ……)
前世で抑えつけられていた心が、温かな光で満たされていくのを感じた。
(……ふぁ……。寝返り成功で満足したからか、なんだか急に……っ)
赤ん坊の身体はとても素直で、少し全力を出しただけであっあっという間に電池が切れてしまう。
猛烈な睡魔が襲ってきて、重くなったまぶたがゆっくりと閉じていく。
(次は、ハイハイの特訓ね……)
お母様のトントンと優しく背中を叩くリズムと、部屋を包むあたたかな光を感じながら、私は心地よいまどろみの中へと落ちていった。




