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96聖女判定開始のち結果

 王女の決定権を持っているのはまごうことなき皇帝なのだから。


「あ、ああ、あの、私……持病の発作が出るかもしれないので今すぐ目の前に行くのは失礼になると思うのです」


「皇帝陛下からは構わないから連れてくるように言われております」


 女の口からヒュッと音が鳴る。喉が引きつった声だった。それはつまり引っ張ってでも連れてこいと同意義なのではないのか。なにかの逆鱗に触れたのか。


「な、な、なにを聞かれるの?」


「それはあちらに行けばわかります」


 フラニーは何を叱られるのか心当たりがありすぎて逆にわからなすぎたが、近くにいたカミツードはきっと聖女のことだと察してしまう。呼吸を吸いすぎて咽せたフラニー。


「フラニー王女……」


「なに」


 苛立ちをぶつけるように睨むがカミツードは青白く、フラニーの睨みに構う心の余裕はない。王がいる部屋に二人は容赦なく通された。そこには皇帝の姿があり、会えたことにフラニーはなぜ呼ばれたのかすっかり忘れて顔を破顔させる。


「陛下。お呼びとうかがいました」


「なぜ呼ばれたのかわかるのか」


「ええ。聖女認定のことですよね」


「違う」


「え?違う?ですか?」


 違うに決まっているだろうと部屋にいる者たちが、満場一致した心の中で一斉に呟くほどの言葉を返される。


「じゃあなにを?もしかして陛下が」


「私が?」


「歓迎パーティを開いてくださるとか?」


 またしてもありえないような話が聞こえてきた。どうして王が聖女でもなんでも無い一国の王族のために、開かなければならないのだと誰が聞いても全員が首を振る内容。自尊心が高すぎる。誰だ、ここまで甘やかして、自己肯定感を爆上げしたやつは。


「何を言っているんだあなたは」


 お前とつい荒っぽく言ってしまいそうになる言葉を抑えて、額に手を当てる。


「陛下に見て欲しいドレスがあるんです」


「……ドレス」


「はい!」


 元気よく言っていい時もあれば許されない時もある。今は絶対に後者だ。


「陛下……陛下の色と合わせたくて用意してきました」


「持病で踊れないんじゃなかったのか」


「いいえ!なんとか頑張って踊れるようになってきたのです」


 そこは嘘なんですとは言わなかった。詐病、嘘の病という設定をうっかり忘れているのか今も王へ普通に接している。


「報告では特に薬を飲んでいると聞いたことがない。どうでもいいことだが。それよりも聖女の居る敷地に入ったと聞いている」


 怒りに身を任せて威圧感たっぷりに問いかける男へ気付くことなく、ふやふやにふやけた顔を見せる王女。顔面が青白く震える男の御付き。比較対象がここまであると、なぜそうなったのかと言いたくなる。もっと止められる瞬間はあるはずなのに。


「私は同じ聖女としてご教授願おうとしたのです。ですが、どうやら私の見た目が美しいからか遠慮なさってました」


 二人の顔色は対極的で、女の方は熟れた果実みたいに赤い。話しかけられて嬉しいと全身で表すのはいいが、時と場合がすれ違っている。

 皇帝も反省のなさどころか見惚れる相手に頭が痛そうに顔を顰めていた。いつも律儀にポーカーフェイスでいることの多いあの王が、だ。

 可哀想だなと思ったが許可を出したのも王なので責任は取っていかないと。不穏分子を調べきれなかったから特に。


「報告では美貌のことなど出ていない。先触れ無しで来た挙句に出て行けという正当な言葉に泣いたとある。なぜ勝手に泣いた。聖女認定されていないお前は聖女と同等ではないのだぞ」


「な、そ、わ、私は聖女ですっ」


「では、彼女たちから聞きましょう」


「ですから!……え。彼女……たち?」


 フラニーはさらに言い募ろうと前屈みになったけれど、相手の言葉を摘む。その時、扉が音を立てて開く。フラニーたちを囲むように聖女の衣装を着た、正装姿の乙女たちが気迫と険のある顔つきで二人を見据える。


「え、え、まさか、あなたちは」


 流石に聖女たちには偉そうにできなかったようで、ようやく自信のあるオーラに翳りがかかる。しかし、それももう手遅れ。もっとしおらしくしておけば無事に何事もなく祖国に帰れたのに。


「聖女判定を開始します」


「え、ま!待って!拒否します!やめて、やめてやめてっ!見ないで!」


 女は自分が偽物の自覚がある態度を取る。見られて嬉しがるのなら本物だ。嫌がるのは偽物と申告しているようなもの。


「カミツード!何とかして!いやっ、へ、陛下!陛下ぁあ!」


 やめるように言ってくださいと懇願する王女。やめるわけがない。見るように依頼したのは他でもない皇帝本人なのだから。


「聖女です」


「ええ」


「能力判定によると健康体です。永遠に維持できるらしいです」


「え、え、ええ!?私は聖女!?」


 聖女の言葉に喜んだのも束の間、聖女の能力を告げたことにより数秒の間が空く。ペコラも驚いたけれど本当に健康体なのだ。びっくりした皆。

 嘘をついていて健康な体というのは聞いたことがあったが、能力がそちら側というのは皮肉だ。彼女は今後病や病気、風邪や体調不良でなにかをサボったりできなくなったというわけで。

次話以降8:00に投稿

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