49白黒ゲームというオセロを開発したんだけど接待試合をしなければ
ぽこぽこと、ウマに見えるけど少し違う見た目のファンタジーな要素が少しだけある生物のヒヅメの音が、静寂の空気に響く。空を飛ぶ小さな命もあちらこちらにふわふわと浮いている。
話さなかったらなにもやることはないけれど、景色を見続けるのも面白かった。何も考えない時間というのは人にも必要なのだろうか。
なんて、疲れた大人のような思考が浮かんだが特別疲れているということもない。彼らも無言の時間があっても気にしていない様子でこちらをたまに見て、にこりと笑う。
そんな時、どんな顔をすればいいのかわからないのでアルクレイを抱きしめて誤魔化した。視線が向けられるたびに、視線を真下に向ければいいわけがつくだろうしね。
アルクレイはおとなしくぬいぐるみらしきフリをしている。二人は生きていることは知っているみたいだから、おとなしい生物だとでも思ってそう。
やがて道の先に建物が見えてきて入り口が顔を見せた。一人の男の人が手前に立っていて、夫妻に気付くと手を振る。顔馴染みなのはテンプレートだ。
「おう。帰ってきたか……その子は」
初めから見えていたのだから、つい、とこちらに目を向ける。こっちのことをなにも事前に打ち合わせなどしていなかったのに関わらず、彼らが旅人のペコラだということを説明する。一人で対応するよりだいぶ楽だった。
一人で門番とやり取りするのは喋ることをしたくない自分からすると、代わりにやってくれたのは驚いたが助かった。子どもなので名乗ったり質問を受けたりして、そっけなくしてしまうのは想像に難しくない。
他の時は事前に聖騎士たちが代理でするので、アナログなやり方をいざやれと言われても慣れてなくて、きっとドギマギするだろう。
「ペコラ……どうも」
名前を名乗り頭を下げた。聖女の名刺があるわけではない。証はあるが恭しくされたくないから、ただのペコラとして過ごす。そのためにぶらぶらしていたし。
「ペコラちゃん。ようこそ」
門番は不審に感じることはなくすんなりとあっさり、拍子抜けなほどにポンと通してくれた。身分証はあるから、出せと言われたら出せたのに。帝国民の一般的なものを。
村に入るとどの家も基本的な構造は同じで一階建てだったり、二階建てだったり。カラフルな花が飾られていて、洗濯した服がひらひらとロープに通されて風で揺れている。
「どうだ?なーんにもない、だろう」
「なにもないのがいい」
「ふふ。変わってるのね。でも、嬉しいわ」
自分の住んでいるところだからこそ、自慢げになりたくもなる。自身も何もないけれど、パフェしかないパフェ農園は自慢だ。住んでいるところは皆、住めば都なのだから。
「静かで好き」
「あらあら、なかなか渋いのね」
「そうだな。うちの村も気に入ってもらえるかと思うぞ」
まあ、この歳で静かなのが好きなのは趣味が落ち着きすぎているのかな?
「その女の子と同室は無理なんだけど。どこかに泊まれたらそれでいいから」
家に着く前に注意事項、唯一の譲れない点を言っておく。女の子と同室は普通に嫌だ。
「ええ。わかったわ」
「構わないよ。こちらが無理に誘っているから」
ホッとした。
「よし」
場所を家の前に付けて二人は降りて男の方は馬車を置きにいく。おお、車みたいに入れるのだと見てちょっと感動する。間近で見るのは初めてではないが、じっくり見たことはないから。
「入りましょう」
背中に手を当てた女性はペコラを誘導する。中に入ると木製の香りがして、これまたテンプレートな家内が姿を現す。山小屋、木製の山にある別荘っぽい。ロッジを見たことはあるけれど、似ている。
「狭いけれど、好きなところに座って。今スープを温めるわ」
「スープ……え、飲んでいいの?」
「いいに決まってるわ」
「でも、一人増えたら減るし」
「また作ればいいのよ。ね?」
「……いただきます」
出会ったばかりで、子どもであれスープを与えるなんてお人よしすぎる。アルクレイを見ると目でお前だけ食べるといい、と伝えてきた。じゃあ、先に食べることにしよう。
すとんとちょっと大きい椅子に座るとキッチンで音がする。火を点けているのだろう。わざわざ客人のために作るなんて。絶対に味わおう。
「ただ座っているだけでは暇だろう」
外から入ってきた夫が部屋に入ってきて外套を脱ぐ。首を傾げて見ると相手は朗らかに笑う。
「私と一緒にこれをしよう」
別の棚からなにか取り出す。出てきたのは板状のもので見覚えのあるフォルム。
「あー、はい」
思わず敬語になってしまったのは、すでにやり尽くしたものでありそもそもこれの発案者だからだ。ボードゲームの一種なのだが、安く出回らせた記憶が蘇る。
「白黒ゲームというもので。ここでもよく遊ばれる。って知ってるかな?」
「まあ、結構」
言いにくいものが出てきて口が鈍くなる。しかし、相手は家に来て遠慮しているだけだと思っているのか、こちらの態度を気にすることなくゲームを準備する。
白黒ゲームは別名もあるが、白と黒の平たい円状のチップくらいの大きさのコマを、互いに置いていくもの。説明がいらないくらい、知っている人しかいなかったゲーム。
それを目の前に置いた対戦相手はこちらに白色を使わせてくる。
簡単に言うと開発者なのでおそらくこの世界で知り尽くしている存在、多分ランカーだ。しかし、相手はそんなことを知らないので、本気を出すことはなく無難に相手をする。本来の力を出していいことなどない。
大会でもないし、なにか得られるものはないし。何度かやっていると男はペコラがなかなかやることを把握して、男の方こそ本気でやるようになった。真剣になっていき、スープが出来上がったと妻が呼ぶまで白熱していく。
「うちの特製スープよ。とは言っても隠し味はないのよね」
「いつか隠し味を追い求めたいな」
テーブルに座って彼らとスープとパンを食べる。食べてみるとどこかほっこりする安堵してしまう味覚が体から力を抜けさせる。
「美味しい」
「おかわりもあるわよ。たくさん召し上がれ」
などと、言われたらおかわりをもらいたかったのでスッと入れ物を差し出すと、彼女は嬉しそうによそいに向かう。男性も楽しそうにそれを見送る。
「子どもらしく遠慮しないで」
男の人が優しく伝えてくる。




