42お前の机ないからをされたので聖女たちはストライキを始めた
ワガママ聖女の頭からは基本的なことがすっかり消え去っているのだが、聖女は等しく王より上だ。国が消えてしまう事例もあると聞く。周りもヤキモキしているのだと、ありありと空気が教えてくれる。
数日後はさらに自慢げだった顔が、ペコラが珍しく答えた難しい問題をさらりと答えたことにより、クラスメイトたちの驚いた顔や態度。他国の聖女は天才だと駆け回った。
そのせいで、ツィツィの視線がわかりやすく真逆に変化したのだ。妬み、嫉み、嫉妬。人間のもっとも生まれやすく、大きくなりやすい感情。周りは彼女の視線が睨みつけるものに変わると途端に、代弁として謝りだす。
ツィツィは聖女の広告を生かして不相応なクラスに在籍していることもあり、全くついていけてないみたいだ。地頭が周りと違って遅れている。
相応のクラスに行けばいいのに。ペコラは相手が勉強をできなくても偏見を抱くことはないので、できなくても気にしない。
できないことをやれと言っても、無理にさせて良いことはないから。でも、ツィツィは自ら、難易度の高いクラスに飛び込んでいっている。情状酌量の部分が見当たらない。お門違いの怒りを向けられて本当に迷惑だ。
そんなに嫉妬してしまうのなら、今からでもクラスに移って、ついていける勉強をすればいい。聖女は好きなだけ選び取れるのだから。誰も彼女へ最上位クラスに入れとは言ってない。
「すみません」
「申し訳ない」
「どうか許して欲しいです」
謝罪はするが、ツィツィになにも言わないないのでペコラも一切対応せず、無反応に徹する。あちらを諌めない限りなくならないのをわかっているくせに、謝るのはこちらへそれを強要させているようなもの。
彼らも麻痺しているのか、無視しているのに何度も何度もこちらへ話しかけてくるところも、どうかと思う。普通に不愉快が増す。
「あ、王子だ。ひさしぶりですね」
昼休みに移動しようとしたら教室に王族が来たらしい。興味も挨拶する気もないので、我々はお昼を食べに外へ向かう。
「いや、ツィツィ様に会いに来たのではありません。帝国の聖女様方をお誘いしたくて」
「え?」
ツィツィが唖然として、またこちらを睨みつけてきた。お返しに威圧スキルを微量に向けると彼女はブルリと震えて周りを見た。どうやら寒気を感じたらしい。
王子はそれを見て不思議そうにしていた。野心を持ってそうな人だが、ペコラを利用したならば破滅する率が高くなるので触れない方がいい。
というか、他国のことややらかした国の情報は入ってきているはずなので、それがわかっていても近寄ってみたいと思うのだろうか。危ない楽観思考。
破滅しやすい思考だ。ドラマなら城ごとなくなりそうな野心は本気でおすすめしない。呆れつつ、こちらは関与せずお昼も共にするつもりはないからと聖女たちは王子を見遣ってから、最初から聞かなかったように再度歩き出す。
「失礼」
「え、あ、王子!?まだ話は終わってないっ」
廊下に出たところで王子が話しかけようとしたら、聖騎士に止められた。当然じゃない?野心はあるが考えなしなのかな。考えなさ過ぎる。
「少しご相談があるのです」
「帝国に依頼を申請してください」
聖騎士が定められているマニュアルを口にする。
「いや、緊急性の高いことで」
「認められておりません」
「お引き取りを」
王に抗議する分が増えた。聖女だけじゃなく、あなたの息子のことだと言うことになるのだろう。
「実は乾燥地帯が」
「直答は許されていません。あちらへ」
「お声がけをおやめください。この国へ抗議しますので」
「少しだけだと思っただけだ。君たちは大袈裟ではないか?」
しまいには、逆ギレ気味に言い募る。やはりバカだ。勉強できてもいるんだよね、こういう人。そろそろ賢い、黙っている王子を誰か寄越してくれまいか。どこの国でもいいからさあ。なんて遠い目をする。
聖女たちが笑顔で器用に不快感を醸し出していることに気づいた王子はすごすご聖女たちから離れていく。
答えられないとか、話しかけて来ないで欲しいというものを遠く高くわかりにくく記載した紙を見てないのか、と思わずバカを見る目で見送る面々。
事前に記載したものにサインさせているので、トラブル回避のためと納得させているというのに。これも、王に抗議する案件だそうだ。
なんのためにサインさせたのか。おまけに帝国のサインもあるし、条件なのでいつもより厳しい国際的な案件になるはず。
聖女からのお願いというのもあるが、一国との約束というさらに重い契約。それを王子から、破ったことになった。聖女らはため息をつきそうな顔を浮かべて、まとめ役の聖女を見ると彼女は心得ていると頷く。皇帝に知らせるんだそうで。
派手に騒ぎになる。帝国から外交官、皇帝の意思を汲んだ法律家なども来ることになりそうだな。今回は高みの見物で済みそうかも。一息つけそう。
「ペコラ様。帝国への手紙には聖女ツィツィ様の行動も記載しておきます」
いつもならばワンクッションおいて注意喚起があったりするけど、ツィツィの態度を試すなら早めに帝国に介入させるべきと判断したと、まとめ役が説明してくれた。
「うん。わかった。しっかり書いてほしい。ギチギチに締めておいてほしいかな。あんな顔いちいちされたら、笑っちゃう」
「え、笑うのですか?お辛くはありませんの?」
違う聖女が目を丸くした。
「あー、普通の場合ならもうあの人は、教室からいない目に合ってたんだけど……あの人、どんな顔をしても鼻がぴくって広がって」
「ん?鼻?」
「顔つきを変える時の癖みたい。鼻を広げるんだよ。こっち見て、わたし笑いそうになって、授業に集中できない」
次に変な顔をしたり、睨みつけてきたのを目撃したら鼻が広がるのを見てみたらいいと伝えた。
ええ、そうです。皆もろくに受けていられなくなると思っての発言ですが?
「わ、わかりました。具体的なことを書いても危機感は感じ取ってもらえそうにないので、ペコラ様に並々ならない嫉妬をしていると書いておきます」
手紙を書く予定の聖女は苦笑をしてこちらを見た。心に傷を負ってないか心配してくれたみたい。優しい人たちだ、相変わらず。
アルクレイも実物だから見ておくといいと周りに、ツィツィの変顔を宣伝していた。そんなことを言うと、皆笑ってしまうことになるでしょ。連鎖が起こってクラスにいられなくなりそうだ。
早くあの聖女、別のクラスになってくれないかな。それか、聖女だけで教室を別にして受けるというのも提案する方がいいのかもね。あの聖女から出ていくビジョンが見えないから。
お昼を食べて教室に戻ると机がなくなっていた。な、なにが起こってるんだ。
「え?」
「え?」
「え?」
聖女たちがペコラの本来あるはずの机がなくなっていることに、絶句と呆気に取られていた。聖騎士たちは配備されていて、何が起きたのかと聞くとツィツィが己の手足となる生徒らを使って、無理矢理動かさせたという。
こんなときのために、なにがあっても止めないように伝えていた甲斐がある。なんせ相手は聖女なので、どうしても聖騎士の肩書きでは止めきれないし、無駄に騒ぎになって聖騎士たちが責められる余計な時間を無くすため。
下手をすると、多勢に無勢でボコボコにされるかもしれないし。弱くないのは知っているがクラスメイトたちが、全員で襲ってきたら手を出しにくいだろうし、やりにくそう。おまけに反抗するより、あとから盛大に打ち上げた方がペコラもやりがいがあっていい。
「机が、なくなっている」
「申し訳ありません」
「いや、別にいいよ」
話は聞いたけど、これは学園の教師にもどうにもできない事態なのでは?
学園長に言っても相手が聖女だからってことで、無理なのでは?
「ペコラ様……」
聖女たちが心配そうにこちらを見つめた。
「ペコラ様!こうなったら!私たちでストライキしますわよ!」
聖女の一人がペコラの手を掴み、グッと早歩き始める。
「えっ!?」
教室から出る寸前、アルクレイがツィツィの机を真っ二つにするのが見えた。
「キャー!?」
教室は叫びでたんまりとなり、学園はその日大パニックに陥った。




