33カカオ売りの少女を見つけたら目の前で倒れたんだけど
コホコホ、コホコホと咳をする女の子が一人で販売を行っていた。
「カカオはいりませんか」
父親が大量に買い付けたカカオを売る小さな子どもに、目もくれず過ぎ去る人々。この国にとってカカオは苦いものなので、食べることもできない代物扱いだった。
「カカオは、ゴホッ」
一際大きな咳をした子どもはカカオを取りこぼして倒れる。
「う、う」
手がボロボロになっており、苦労が垣間見える。周りの人たちはそんな光景を見慣れているのか、通り過ぎるばかり。その中で佇む人影。
普通ならば行き交う中で止まると目立つが幽霊のように誰かの視線に捕まることなく視線を向ける影がそろりとカカオ売りの少女へ向けて歩き出す。
「お母さん……?」
光が影を黒く染め、空にいる母を見せる。少女は迎えにきてくれた母に向けて手を差し出す。
「母さん、わたし、がんばった、よ、ね?」
ボロボロの手に暖かな手が重なり合った。それを知ると女の子はふわりと淡く微笑み、目を閉じる。
*
「カカオ買おうとしたら、押し売り販売されたらどうしたらいい?」
カカオを買おうしたお金を受け取るのかと思いきや、手を握られた未成年が一人、相棒に相談してみた。
「笑えばいいと思うぞ」
「真剣に聞いてるんだけど」
手をまだ繋がれた状態で、カカオごとペコラは自宅へ帰ることにした。
「カカオの在庫は事足りるんだけど、人までついてくるなんて最近の商品は変わってる」
「そろそろ、ただ単に行き倒れだだけという現実を受け止めておけ」
「プロフィール見たらびっくりした」
「実は男だ、とかか?」
アルクレイに首を振る。
「聖女って書いてた」
聖女の定義を思い出す。聖女は双子のうちの一人。双子が二人共に聖女ということもあるらしい。確率を思えば確かにあり得ること。
「片割れはどうしてる」
「聖女としてあの国でチヤホヤされてる」
「また一例を見つけてしまったのか?この世は愚かなものばかりだな」
彼が呆れるのも致し方ない。この子の立ち位置はペコラと同じ。
今まで暑めの国に居たのだが、良い感じの素材を探していたらカカオが大量にあったので買い取ろうと近寄ったら、急に倒れたから何事かと思った。
なんであんなところに聖女が落ちていたのか。いや、人のことはいえなかったかもね。己も己で森に捨てられてたから。
聖女が森に置き去りにされるのであれば、カカオを売ってて行き倒れになることもありえるっちゃありえる。
見つけてしまったものは仕方ない。連れてきたので彼女を綺麗にしてカカオは別のところへ転がしておく。父親が何も考えずにカカオを購入したので売り切らないと困るとの背景らしい。そこは自身が買い取ることになるから、問題はなくなる。
問題は父親が年中家にいないので双子の片割れが好き勝手できることについて。でも、父がいてもいなくても界隈のことを知らなそうな父親の言うことを聞くとは思えない。
お金はカカオ売りのこの少女だけが自力で稼ごうとして、稀に帰る父親のお金を切り詰めて暮らしているので、毎日がデッドオアギリアライブな生活。
とてもではないが、父親のことを待っていたらこの子は飢えて死ぬことになる。ペコラとは違う意味での死が色濃い。
双子の片割れはなにかしら貢がれて、一人だけで生活を回しているので暮らし方が極端。それに関してはお好きにどうぞなのだが、真の聖女は今ここにいる幼女だ。褐色の肌に不健康な状態。
「さて、どうしよう。あの国はここから遠いからバレることはなさそうだし……大きくなるまで外にお披露目さえしなければ双子と断言しなくてもこの国の国民で通せるだろうし」
聖女と認定されてしまえば王より立場が上の聖女となるので、仮にあの国が少女が自国の民と知ったとしても返還を要求しようと、女の子が嫌と言えばそれで終わる話。
王よりも発言力が強いから。偽物聖女の片割れの立場も、終わるけど。あんな国にいるよりも、遥かに生き残れるしなあ。
「とりあえず、皇帝に事情を説明する文章を束にして送っとこう」
「混乱して家まで来るに一票」
「私も一票」
「今発足したばかりの、個人議会が解散したぞ、今」
アルクレイが起こりそうなことを言うので、反対意見のしようがない。
「ホマロ、起きて」
分厚い文章を書き終えて、そろそろなにか胃に入れさせようと揺り起こす。
「ホマロっていうのか」
「プロフィールの内容がほんどない」
プロフィールは簡易で、遊んだりしている気配がない。歩き回ったり、仲が良い子どもの名前が読めたりするのだが、記載がない。大人の記載も父親の名前と姉妹の名前しか見当たらなくて。毎日食べて寝て起きてを繰り返しているだけ。エネルギーを無駄に使えないからだろう。お腹が空くから。
小さな女の子であろう片割れの偽聖女なのに聖女として活動している子は、同じ年齢なのに生活がうまくいっているのか。
それは近くに利用している人がいるからだ。父親が常に全くいない双子など、使われるに決まっている。国はなにをしているのかと、眉をひそめたくなった。
ペコラはホマロを何度も魔法を使い揺り起こして、椅子に座り起きる様子を眺める。混乱するだろうから、ひたすら待つ。
ゆるりと目を開けた女の子は眠気の残る顔をして、起床する。いつもよりも豪華な部屋なので数秒固まっていた。パッと起き上がると部屋を見回して、こちらを見て首を傾げる。
「お母様、じゃ、ない?」
そういえば、倒れる前に母親だと勘違いしていた言葉を最後に手を取られたのだったなと思い出す。
「私はペコラ、こっちはアルクレイ」
浮遊する謎生物に驚いたのか「えっ!?」と声を上げる。それを聞いたアルクレイは事態がややこしくなるからか、言葉を発さなかった。小動物だけでも困惑されるのに、話せるとなると説明が困難に至ると思ったのだろうか。
どうせ説明することになるのだから、早めに知らせておく方が優しさであろうに。
「あ、え、あの」
「ここは私の部屋。倒れたから連れてきた。この国はあなたがいた国とは違う国」
名前を言ってみてもやはり知らないらしく、首を傾げられる。かなり国と国が離れているので、そうだと思った。あそこにいた大人どころか、そこに住んでいる王族が、ギリギリ帝国を知っているのが関の山。
「帝国という大きな国で。私は一応ここの聖女として住んでる」
「せ、聖女っ!?」
聖女と聞いた女の子が怯えた顔をする。散々、聖女で嫌な思いをした過去が見えてしまう。
「私は聖女じゃないです」
俯く女の子ホマロは周りから期待の目で見られてきたけど、片割れが聖女と見なされたのならば急に周りから見放されたのかもしれない。
「ごめんなさい」
ボロボロになっている手がズボンを握る。




