01こうして冷遇も普通になり両親もこちらを信じなくなった頃にペコラは汚点として森へ捨てられたとさ。遠い遠い森へ
目の前には土下座する人たち。全員が平等に、同じ位置にある。石畳に額が擦れる音が場を支配していた。
それを見て、苦笑することも笑みを浮かべることもない。勝手に好きなだけやればいい。皆が謝るのは文字通りこれ以上ない潔白だったからに他ない。
ぺコラにはなにもしてやれない、という気持ちで悲しい顔を浮かべて内心はせせら笑う。この体の今までの持ち主は望まないだろうけれど、今の意識は己なのだ。
もうぺコラに決定権があると言ってもいい。いや、逆にいうとぺコラにしかない。面白い、面白いと自分の心が環境や状況を冷静気に分析しては楽しんで楽しんでた。
仕方ない仕方ない。まあまあ、こほん。
ちょっと冷静にならねばなるまい。今彼らが土下座しているのは他でもない彼らがやらかしたせいだ。順を追って説明しよう。これは親切ではなく高みから下界を楽しむための必要経費みたいなものだ。
ぺコラはごくごく普通の女の子として生まれたけれどその前に、家庭にはもう一人女の子がいてその一人の子はぺコラと同じ歳の女の子で、双子だったというわけだ。
双子の片割れが聖女の力を持つかも知れないという、昔からの経験則から国は双子の申告をかなり重要視している。
そのせいか、初めは二人ともしっかり可愛がられていたが、ぺコラの双子の片割れは己だけが特別になりたかったのか、己が聖女だという実績をコツコツじっくり積み上げ出した。
聖女というのは、その一人一人によって違うのでこれが聖女だという明確な決まりはない。不思議な力を使い、動物の声が聞こえる、人の心が読める。
多種多様なものを敬意を込めて呼ぶ。さらにいうと一人だけというわけではない。各国に何人か毎回確認されており、聖女会議なんてものもあって、聖女たちは言わなくても聖女と本能でわかるんだそうだ。
「まことに申し訳なく……」
しかし、幼い子どもなので周りにも聖女はおらずどちらが聖女なのか、聖女はまだいないのかの確認も取れなかった。国は小さく、他国との外交も最小限のせいだったとしか言えない。
そんなことは言い訳にしかならないよと、ぺコラは笑った。目の前で謝られても告げることは決まっているから。
聖女と語らなくても、周りが勝手に聖女なのだろうという思い込みで行動するのも、時間の問題。それは、少しずつ毒を流し込むことなのだろう。
ぺコラは片割れだが、軽く扱われ続けて聖女と看做される方がまるでぺコラから冷遇されているとまでは言わないが、仲がよくないといったふうなことを言い放っている。
そのせいで、ぺコラの周りからの視線は常に冷たかった。なんのつもりだったのかわからない。再起の目を潰したかったのか、なんなのか。
「どうか、怒りを収めてはいただけないでしょうか」
そうして、婚約者ができたがその婚約者も婚約者で聖女の信者らしくずっとぺコラを敵視していた。睨みつけられるのは序の口。
どうやらぺコラが聖女と言いふらす彼女の言葉を間に受けて、信じているらしい。悲しかったらしいと、生活しているところを覗くと出てくる。毎回辛辣なことしか言われないのに。
そんなに悲しいのなら思うのをやめればいいのに、なんて言えやしない。その時はまだ、自分はどこにもいなかったから。欠片も。
手は緩めない。報復と復讐は必ずやり遂げる。絶対にすると決めた。そうしないと、この体だった本人が一番可哀想になるから。
そうだろう?と自分に問いかける。もちろん、記憶にしか存在しないのでもう返事はない。自分として上書きされたから。融合とも言っていいかも知れない。
「イヤ」
少女の発した音には再考の余地もなく切り取られた。
「っっ!」
周りの誰かの声が引き攣って空間に溶けていく。許してもらおうという気持ちすら罪深い。
「そ、んなっ」
ぺコラを蔑ろにして双子の聖女かもしれない、である方をエスコートしたり、プレゼントしたりといった不義理を重ねていく。婚約者はこちらなのにと悲しんでいる。
そんなことはもう思わなくていいと、自分の魂だったものを撫で撫でしていた。大丈夫だよと。
いい子すぎて割を食いすぎていたのは確かなのでもう何もしなくていいんだよと何度も、今も言っているくらいだ。愚か者たちのために掘る骨はないのだから。
「ひらに、ひらに、おゆ、お許しを」
ゆるりとまたつむじが見え、お互いに地面へ擦り付ける。その甲斐もなく切り付けられていく。
「イヤ」
一刀両断が正しいほどの切れ味を宿す。
「く……!」
その間に、知らない間に紙だけで名前を勝手に貸されて婚姻させられていたり、勝手に離婚させられていたりして経歴がとんでもないことになっていたけれど、今は割愛しておく。
*
やがて、冷遇も普通になり両親もこちらを信じなくなった頃、ペコラは汚点として森へ捨てられた。遠い遠い、森へ。
その日は旅行に行くと両親が言っていて、片割れは用事で行けないと言われてペコラだけが連れられた。
服が豪華でもなくいつもの服装なのに、気にされなかったことに少しだけ期待していた分、落ち込んだ。可愛いと言われたい。
両親は別の馬車に乗っているという、執事の嘘を見抜けずノコノコ馬車に乗った。皆きっと、せせら笑ってただろう。
かなり荒い運転に吐き気を感じて、執事が薬をくれたから飲んだそれは酔い止め目的ではなく、昏睡目的だった。
深い眠りから目覚めると、着の身着のままの状態で地面に寝転がされていた、というわけだ。無一文、食べ物や水もなし。寝るところもない。
計画的な殺人にも等しい行為に、一週間で絶望して生まれたのが自分だ。ペコラであるが、ペコラではない。もう一人のペコラなのだが、過去の己ともいうし、半分と一人分とも言える。
その瞬間悟った。聖女は自分なんだって。聖女というのはありとあらゆることができるし、恩恵を与える側なのだろう。きっと、多分。
聖女を可愛がるのは覚醒した時に恩恵をほんの少しでも分けてもらうため。ちょっとでも構わず、そのちょっとは世界全体を賄い切れるみたい。
けれど、残念ながら皆はルーレット形式の、どちらが聖女でしょう?ゲームに敗北してしまった。負けたのだ。可哀想に。フフ!!
覚醒したときに、同じく聖女になったペコラは早速、行動を開始した。
なにをしたかというと、アイテムボックスを開く。前世の記憶が流れ込みこれならばと口角をうっそりあげる。
前世でカンストさせたカジュアルゲームのシナリオとビジュアルだったので、そうだろなという結果だ。カジュアルゲームゆえに、所持しているお金の額も天文学的。
余裕で誰かの力を借りずとも暮らせるってもんだな。首をゆるりと回してニンマリと笑う。これなら思う存分この世界で、好きに暴れられるなと意気揚々と服を着替える。
ズタボロな服ではなく、きちんとしたパリッとアイロンかけされていて仕立てられた服。
赤いチェニックの上半身で、執事のスーツのように一見見えるが星のマークを宿したものが、チェーンにぶら下がったデザイン。スカート部分は長めにしておき、ハートのマークが入った靴下とヒールに見える靴の履き心地は運動靴。
コスプレとも言えるそれは、今世の自分にもよく似合う。というか、この世界の見た目はカジュアルゲームで課金したアバターに似ている。少し違うところがあるけれど。
アバターよりも若いというところかなと、気付く。
カジュアルゲームの主人公は大人という年齢だったが、この世界ではまだまだ子どもなのだ。




