第七章 街角のパブにて
■第七章 街角のパブにて
街は、お祭り騒ぎだった。
正統マリアナ政府は、正式に国名を『マリアナ共和国』として発し、大マカウ国の正式な統治代理人認定を得た。
そのきっかけは、政府軍による不法勢力の掃討完了宣言、そして、最終的には第六市からの撤兵の完了であった。
大陸に主だった敵をなくした政府軍は、海上戦力の増強を進め、第六市を中心として活動を続けていた海賊勢力を掃討するために第六市に進駐した。
その成果として、海賊殲滅に至ったのだった。
殲滅の宣言と同時に臨時体制を解除。
つまり、終戦宣言。
そうした明るいニュースは次々と市民の耳に入り、ようやく戦争の無い暮らしが送れる、と多くの市民が歓喜の声を上げた。
街のパブでは、第六市の掃討戦に参加した兵士は英雄扱いだった。
第二市のこの小さなパブにも、戦闘帰りの兵士を取り囲む人だかりができていた。
「昔はナントカ騎士団とかって、大きな勢力だったのに、大変だったでしょう」
一人の夫人が兵士に言うと、
「さてね、なにしろこっちは相手の五倍の数だ、そもそも負けなしの戦いさ」
と兵士は謙遜してみせる。
「何隻かで取り囲んで一斉に銃撃、しつこいのもいくつかいたが、結局やつら、すぐに白旗さ」
「みんな降参させたんですか!」
まだあどけなさの残る子供のような顔つきの青年が目を輝かせる。
「そうだな、もう戦争じゃない。犯罪者にはちゃんと罪を償ってもらいたいから、できるだけ傷つけずに捕まえるようしてたのさ」
自尊心を鼻から吹き出しながら、兵士が答える。
「しかしな」
彼が付け加え始めると、一斉に注目が集まる。ただの犯罪摘発の話よりは、何かの逸話があったほうが面白いし、いずれ自らの武勇伝のように語ろうと耳を傾けるのに必死だ。
「参ったよ、一隻だけ、凄腕のスナイパーがいて」
「スナイパー」
「ああ。五百メートル以内に近づくだけで甲板の味方がものの数秒でなぎ倒されるんだ。あの揺れる船の上でだぞ?」
「えぇっ。よくご無事でしたね」
「俺のいた艦は運よくその外側にいたからな。だが、あの船相手だけで、百人以上が戦死してる」
沈痛な表情に、観衆は同情の表情を浮かべる。
「さすがにな、あの船だけは、対艦ミサイルを使うしかなかった」
誰もが、はあ、とため息をつく。
「だがそれも、二十発全部打ち尽くしても一つ残らず空中で撃ち落されてな。もうこれ以上どうしようもないと思っていたらふいに銃撃がやんで」
そして、その結末に耳を傾ける。
「恐る恐るさ、いつ眉間を撃ち抜かれるか分からない。そんな船に乗り込んだのさ、この俺が!」
おおー、と歓声に似たため息が一斉に漏れる。
「船室をのぞいたら、何だったと思う?」
「まさか、自決でもしてたんですか」
「……舌を巻いたよ。もぬけの殻。まんまと逃げられちまってた。焼き付いた狙撃銃のバレル二本。何十という弾薬の空箱。それから、計算機か何かをつないでたらしい電源ケーブルと通信ケーブルだけが残ってた。それ以外、何も痕跡も手がかりもない。少なくとも三本のバレルを射撃を途切れさせずに交換させありったけの弾薬をリロードし続けてた――伝説級のスナイパーには、奇跡のような補給兵がついているらしい」
名も知らぬ凄腕のスナイパーたちへの驚嘆と、そこで戦死した百を超える戦士たちの魂に追悼の意を表す時間が十数秒過ぎた後、パブは再び戦勝の喜びの雰囲気に沈んでいった。




